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2025.05.23

レポート

生成AIの動向と契約締結時のリスクチェックの活用の薦め

一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 主席研究員 手嶋 洋一

2024年12月に中国のAI開発スタートアップであるDeepSeek社が、大規模言語モデル(LLM)の汎用モデルであるDeepSeek-V3を、そして年明け1月に推論能力に特化したDeepSeek-R1を公開したことが大きなニュースとなりました。V3ではOpenAI社のGPT-4oに迫る性能を、はるかに短い開発期間と低いコストで開発し安価なサービスとして提供し、R1ではGPT-o1に匹敵する性能を実現したことで注目を集めています。なお、DeepSeekの 利用に関しては、個人情報保護委員会から「DeepSeekに関する情報提供(令和7年2月3日)」1により注意喚起されていますので、利用する前に確認してください。

今回の「企業IT利活用動向調査2025」でも、45%の企業が生成AIを業務で利用しており(昨年の調査は35.0%)、社員個人の判断で利用している企業(14.4%)も含めると約60%の企業で利用されています。また26.3%の企業で生成AIの導入を進めており、ますます浸透していくことと思われます。

内閣府AI戦略会議・AI制度研究会が2月4日に公開した「中間とりまとめ(案)」2においても「このようなAIは、これまで⼈が⾏っていた作業を代替し、⼜は⼈が⾏っていた以上の成果を創出することが可能であり、(途中省略)、国⺠⽣活の向上、国⺠経済の発展に⼤きく寄与する可能性がある。」と記載されています。

一方、各国において法制度の整備が進んでおり、AIガバナンスの構築が急務となっています。以前はAI導入によるリスクに着目した整備が進んでいましたが、昨今ではイノベーションの阻害に繋がるという懸念から、ソフトローの活用に進む傾向へと変化しています。

日本では経済産業省が、AI利活用の実務になじみのない事業者を含め実務上使いやすい形式にまとめた「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」3を2月18日に公開しました。このチェックリストでは、AIサービスの契約締結時に留意すべき点ごとに、チェック項目を設けています。

留意すべき点とは、掲載順に「インプット提供に関する留意点(4.2章)」「開発型に関する留意点(4.3章)」「個人情報保護法に関する留意点(4.4章)」、そして「セキュリティに関する留意点(4.5章)」となります。サービスを利用する際のデータの流れをもとにして留意点の所在箇所が図解されているとともに、根拠法令なども記載されており、一つのチェックリストに、個人情報保護法をはじめとした多数の法令違反リスクや秘密保持義務、知的財産権の権利侵害などの契約上のリスクが網羅されており、実務において利用するメリットが大きいと言えます。

AIガバナンス構築のためには、AI活用方針から利用時の各種規定の制定(プロセスやツールなどを含む)、利用者の育成、さらには利用状況のモニタリングなど多方面での整備が必要となります。とはいえ、多くのビジネスにおいてAIの導入の有無が、生産性の向上やイノベーションの促進に必要となっています。本チェックリストは、AI利活用の実務経験を問わず、社内の法務部門やビジネス部門で契約を締結する担当者を想定読者としていますので、契約の前に是非ご一読いただき、AIをビジネスに活用していただきたいと思います。

著者
JIPDEC 電子情報利活用研究部 調査研究グループ 主席研究員 手嶋 洋一

長年IT業界に従事し、2024年4月より現職。

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