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2025.08.21

レポート

サービス収支赤字10兆円時代の足音

~円売りは「モノ」から「サービス」へ~

株式会社みずほ銀行
チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌 大輔氏

国際収支の構造変化

現在、日本の経常黒字は世界第3位であるにもかかわらず、円安が進んでいます。私は、この円安要因は従来の金利差によるものではなく、取引の中で外貨が流出しているからではないかという仮説を立て調査してきました。これに関しては、昨年の財務省国際収支懇談会でも同様の問題意識が示されています。

実際に調べてみると、国際収支に含まれるサービス収支の構造が明らかに大きく変化しており、2024年では過去最大の黒字(インバウンド)を過去最大の赤字(その他サービス)が打ち消して、結果として3兆円の赤字となっています。私も監修として関わったデジタル経済レポートでは、その他サービス収支の赤字の正体がデジタル赤字であると指摘しています。

デジタル赤字の問題点

2023年に発表された日銀レビュー「国際収支統計からみるサービス取引のグローバル化」では、ヒト(肉体労働(観光))で獲得した外貨をデジタルサービス(頭脳労働(デジタル・カネ))に支出するという姿が、今の日本の国際サービス取引の実態と指摘しています。

人口減少が進む日本では、観光産業で得られる外貨はすでにほぼ頭打ち状態で、今年にも供給制約になると考えられる一方で、デジタル赤字は年々増加することが見込まれます。デジタル経済レポートのデジタル赤字十兆円という予測は、私が国際収支統計から推計した結果と同じようなイメージです。

これまで、日本の貿易サービス収支が十兆円以上赤字だったことは歴史上三回、2013年、2014年、2022年しかなく、その年は大幅な円安となりました。基本的に為替市場では、収支が赤字であれば円の売り切り、黒字であれば円の買い切りが発生します。為替フローでは、2012~13年頃から貿易収支が赤字になっていますが、今後サービス収支がメインになることが見込まれる中で、10兆円のサービス赤字が常態化すれば為替への影響は明らかです。だからこそ、金利や雇用統計等の目先の話ではなく、こういった事実に目を向ける必要があります。

デジタル経済レポートの意義

私は金融マーケターとして問題提起してきましたが、デジタル経済レポートはこの問題点をマクロな議論からミクロでの議論につなぐものとして非常に意味があるものだと思っています。国際比較に関しても、一概に「アメリカ以外はすべてデジタル赤字を抱えている」とは言えない状況が詳細に分析されており、日本だけが突出して大きなデジタル赤字を抱えていることが理解できます。

私も、レポートを監修した立場から、一人でも多くの方にレポートで警鐘を鳴らしている現状を認識していただけるようコラム等で解説していますので、ぜひレポートを読む上でご活用ください。

■YouTube「TBS CROSS DIG with Bloomberg」

■note「唐鎌Labo」(全文閲覧は有料となります)
 デジタル経済レポートの要約

本内容は、2025年7月22日に開催されたJIPDECセミナー「デジタル経済レポートから読み解く日本の産業危機からの生き残り戦略」パネルディスカッションでの内容を取りまとめたものです。

株式会社みずほ銀行
チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌 大輔氏

株式会社みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌 大輔氏

2004年、慶應義塾大学経済学部卒、JETRO(日本貿易振興機構)、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局などを経て、08年、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)入行。財務省「国際収支に関する懇談会」委員(24年3月~)。
【著書】『弱い円の正体』(24年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(22年9月)、『アフター・メルケル「最強」の次にあるもの』(21年12月)(いずれも日経BP刊行)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』、『欧州リスク—日本化・円化・日銀化』(いずれも東洋経済新報社刊行)など多数。
【TV出演】テレビ東京『Newsモーニングサテライト』のコメンテーターなど。
【YouTube出演】TBS CROSS DIG with Bloomberg「CROSS DIG Economic Labo」のパーソナリティなど。
【連載】ロイター、東洋経済オンライン、ダイヤモンド・オンラインなど執筆媒体多数。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。