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2025.12.15

レポート

日本におけるデータスペースへの取り組みとDMBOKの活用

一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 主席研究員 手嶋 洋一

2010年代に「情報は21世紀の石油」と言われたのをご記憶の方も多いと思います。インターネットが社会の情報化をもたらし、携帯電話やスマートフォン、さらにはIoTの発達により2025年には世界中で使用されるデータ量は181ゼタバイト(zettabyte、ゼタは10の21乗)、2020年の約3倍になると予想されています1。少子高齢化による人手不足の中、データ量が増えることが生成AIの発展につながり、作業の自動化による業務の効率化により社会を維持することが期待されています。

このようにデータ量が爆発的に増加している昨今、データスペースという言葉を耳にするようになりました。EU規模でのデータの共有や利活用を支援するため、クラウドサービスのインフラを構築する構想であるGAIA-X2(2019年プロジェクト開始)やこの構想の下、自動車産業におけるバリューチェーン全体のデータ連携のために構築されたCatena-X3がきっかけとなっています。GX(グリーントランスフォーメーション)が進むEUでは、ハイブリッド車やBEVの製造にシフトし、要となるバッテリー産業のサプライチェーンの見える化の必要性(カーボンフットプリントの管理のため)から、同産業に関わる企業間で情報を共有するための“場”として2020年よりデータスペースを構築してきました。EUでは、2024年3月時点ですでに145ものデータスペースが開設されており4、企業間での情報連携による新規事業の創設が進められています。

一方、日本でも2023年にデジタル田園都市国家構想が閣議決定されました。「デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されず全ての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する」という構想であり、デジタルで社会課題を解決するための施策として、「データ連携基盤の構築」が掲げられています5。特に産業活動に関わるソフトインフラの構築として、現在、経済産業省ではOuranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)6の構築に取り組んでいます。

これは、人手不足や災害激甚化、脱炭素への対応といった社会課題の解決と、イノベーションを起こして経済成長を実現するための「企業や業界、国境をまたぐ横断的なデータ連携・システム連携の実現」を目指しているものです。技術的なガイドラインと、それに準拠したOSS(オープンソースソフトウェア)が公開されています。また、ウラノス・エコシステム・プロジェクト制度7が運営されており、本取り組みの趣旨に合致すると判断されれば、IPAのデジタルアーキテクチャ・デザインセンター等によるデータ連携に係るアーキテクチャ・規約設計に関する助言や相談の機会を得ることができます。

ただ、データスペースを活用するには、信頼されるデータを集めることが条件となります。「何をするために」「どのような情報」を「セキュリティを確保しつつ」「どう集めるか」を検討しておかなければなりません。まずは自社内のデータマネジメントを構築するためにも、データ管理の中核原則、ベストプラクティス、および必須機能を定義した国際的なフレームワークであるDMBOK8(Data Management Body of Knowledge)などを活用して、データスチュワードを育成してみることが将来のデータ共有、さらには新たなサービスの展開に繋がります。

著者情報

著者
JIPDEC 電子情報利活用研究部 主席研究員 手嶋 洋一

長年IT業界に従事し、2024年4月より現職。

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