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2025.05.23

レポート

企業におけるDX実践状況と経営施策への投資状況

一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 調査研究グループ グループリーダ 松下 尚史

DXについては、さまざまな企業が取り組みを進めていますが、各社の実践状況もまたさまざまな状態です。企業としてDXを推進していくためには、人・モノ・金と言われる経営資源をDX推進に割り当てる必要があります。そこで、全社的にDXが定着し、継続的に実践と改善が行われている企業において、どのような経営施策を中心に投資を行い、改善を進めているのかを見ることで、これからさらにDXを推進しようとする企業の投資判断の参考になるのではないかと思います。そこで、JIPDECと株式会社アイ・ティ・アールで実施した「企業IT利活用動向調査2025」の結果をもとにして、①企業におけるDXの実践状況と②経営施策に対する投資状況について深掘りします。

まず、①に関連して全社的なDX戦略自体の必要性は業種等によって異なる可能性があるため、業種別のDX実践状況を確認したものが、図1になります。

図1 業種別DXの実践状況
(出典:JIPDEC/ITR『企業IT利活用動向調査2025』 )

これによると、DXに関する全社戦略を策定している割合(「全社的にDXが定着し、継続的に実践と改善が行われている」「全社戦略に基づいて、部門横断的に実践されている」「全社戦略に基づいて、一部の部門で実践が行われている」の合計)は、情報通信業が71.8%、建設・不動産業が70.0%、卸売・小売が68.6%と高いものの、その他の業種においても50%を上回っており、業種を問わずDXに関する全社戦略が必要とされ、すでに半数以上が策定済であることが分かります。

次に①DXの実践状況を②経営施策に対する投資動向と重ね合わせると、「全社的にDXが定着し、継続的に実践と改善が行われている」を選択した企業(156件)の約半数が、調査項目として挙げた経営施策のいずれに対しても「現在重点的に投資を行っている」と回答しています。

具体的な数字は、以下のとおりです。

図2 「全社的にDXが定着し、継続的に実践と改善が行われている」と回答した企業の経営施策に対する投資状況
(出典:JIPDEC/ITR『企業IT利活用動向調査2025』 )

一方で、「全社戦略に基づいて、部門横断的に実践されている」「全社戦略に基づいて、一部の部門で実践が行われている」「全社戦略はないが、部門単位での試行や実践が行われている」のいずれかを選択した企業の経営施策に対する投資状況は、「既に十分な投資を行ってきたが、投資は継続している」の回答率が高くなっています。なお、DXに「着手していない」と回答した企業は、全ての経営施策に対し「今のところ投資する予定はない」という回答が最多でした。

このような傾向から、全社的なDX戦略を策定し取り組んでいる企業の方が、経営施策に対する投資活動も活発であると考えられます。独立行政法人情報処理推進機構が行うDX認定制度の基準となる「デジタルガバナンス・コード1」において、DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されており、ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策として「企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要なITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けたプロジェクトやマネジメント方策、利用する技術・標準・アーキテクチャ、運用、投資計画等を明確化し、ステークホルダーに示していくべきである」とされていることからも、全社的なDX戦略に基づいて、各経営施策に対し、デジタル活用を念頭に投資が行われているのではないかと考えられます。

また、DXはデジタル技術やツールを導入すること自体ではなく、デジタルを活用して企業や組織の変革を通じた成長を目指すものであることは前述の定義のとおりですが、その前段階としてデジタイゼーションやデジタライゼーションと呼ばれるデジタル活用段階のフェーズがあるとされています。図3のように整理し、ここでは図の②デジタイゼーションおよび③デジタライゼーションを“内向きのDX”、④DXを“外向きのDX”と置いた上で、具体的なDX実践内容を見てみます。

図3 デジタル活用段階のフェーズ

図4 具体的なDX実践内容
(出典:JIPDEC/ITR『企業IT利活用動向調査2025』 )

このように整理すると、全ての項目において半数以上の企業が取り組みを進めていますが、外向きのDXよりも内向きのDXの方が成果を上げていることが分かります。前年調査と比較すると、成果が出ているとの回答が増えている項目は「業務のデジタル化・自動化」(50.8%⇒52.1%)、「意思決定の迅速化・高度化」(32.9%⇒33.3%)、「ビジネス環境変化に柔軟に対応できる新たな組織づくり」(26.6%⇒29.2%)、「顧客体験や顧客接点のデジタル化」(28.5%⇒30.9%)、「データに基づいた営業・マーケティングの高度化」(28.9%⇒29.4%)、「既存の製品・サービスの付加価値向上や収益モデルの変革」(26.0%⇒27.9%)となり、内向きのDX・外向きのDXともに3項目に対する回答が増加しています。DXの定義に従うのであれば、外向きのDXにあるような項目に対する回答が増加していくかどうかが今後重要になっていくのではないかと思われます。

最後に、企業がDXを実践していく上で感じている問題としては、連携・コミュニケーション不足、業務プロセス・システムの複雑さ、DXに手が回らないというところに問題を感じている企業が多くなっています。一般的な企業では業務プロセスやシステムが複数の部署をまたぐことは珍しくなく、連携・コミュニケーションと業務プロセス・システムの複雑さが問題として挙げられることは容易に想像できます。また、手が回らない原因としては人材不足・人手不足が考えられます。

外向きのDXを実現するためには、業務のデジタル化だけでなく、データ利活用も実現しなければなりませんが、調査では組織に関する問題、人に関する問題、システムに関する問題に回答が集まっており、成果の可視化や既存ビジネスモデルの改革等に対する回答が少数であることから問題意識は低いと言えます。

図5 勤務先でDXを実践する上での問題点
(出典:JIPDEC/ITR『企業IT利活用動向調査2025』 )

既に多くの企業が成果の可視化や既存ビジネスモデルの変革を終えており、問題は解決しているから回答が少数なのか、それともそのようなことを考える以前の問題として組織・人・システムに関する問題が内在している状態なのかは今後も引き続き調査を進めていきたいと思います。

著者
JIPDEC 電子情報利活用研究部 調査研究グループ グループリーダ 松下 尚史

青山学院大学法学部卒業後、不動産業界を経て、2018年より現職。
経済産業省、内閣府、個人情報保護委員会の受託事業に従事するほか、G空間関係のウェビナーなどにもパネリストとして登壇。その他、アーバンデータチャレンジ実行委員。
実施業務:
・自治体DXや自治体のオープンデータ利活用の推進
・プライバシー保護・個人情報保護に関する調査
・ID管理に関する海外動向調査
・準天頂衛星システムの普及啓発活動 など

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