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2024.12.16

レポート

メタバースにおけるアイデンティティ

一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 主査 石井 美穂

メタバースは仮想空間において、さまざまな経済活動や体験、そしてコミュニケーションを行うことに加え、ユーザーの自己表現をも可能とするプラットフォームとして、物理的な制約を超えた新たなデジタル世界です。ユーザーは、アバターを用いて、現実空間における自己を仮想空間に投影することも、現実空間とは異なる外見や性別などキャラクターを自由に設定することによって自己を表現することも可能です。メタバースにおいて、ユーザーは現実空間における物理的な制約から解放されるだけではなく、アバターを通じて性別や年齢、身体的な特徴等に縛られない新たな自己像を作り上げることができます。そのため、メタバースは、個人が自己をどう認識し(自己同一性)、社会的にどのように認識されるかを示す多面的な概念であるアイデンティティに関して論点を提示すると共に、大きな示唆を与えてくれます。

メタバースにおけるアイデンティティについて、アバター、その中でも特に「バ美肉(ばびにく)」に着目して整理します。バ美肉とは、バーチャル美少女(セルフ)受肉の略語で、仮想空間上で美少女のアバターを使用し、現実とは異なるキャラクターとして振る舞うことを指します。メタバースにおいて、自由な自己表現が可能であることの象徴であると同時に、バ美肉を通じてアイデンティティに関する課題が浮き彫りになります。

アイデンティティは、個人が自己をどのように認識しているかという「内面的な」側面だけではなく、それが他者や社会にどのように認識されているかといった「社会的な」側面も含めて確立されるものであるとされています。現実空間においては、物理的な制限、例えば、生まれもった容姿や性別、そして社会的な役割を通じて、第三者や社会に認識され確立されます。一方で、メタバースのような仮想空間におけるアイデンティティは、個人が自己をどのように認識しているかを反映させたアバターによって、第三者や社会(メタバースにおけるコミュニティ)に認識されることが可能となります。そして、そのアイデンティティは所属するコミュニティやコンテキストに応じて、使い分けることも可能です。これはつまり、メタバースにおいては「なりたい自分」をユーザー自らがデザインすることで、本来的な自己表現や自己実現が可能となるということを意味します。メタバースのアイデンティティは、個人が物理的・社会的な制約にとらわれずに、自己の認識を反映させてアイデンティティを自由に表現することができるという点で、個人のアイデンティティの確立において望ましいといえるでしょう。同時に、現実空間と仮想空間のアイデンティティの境界という点では新たな課題が生じます。そのため、今後メタバースのような仮想空間における活動が普及することが予想される中で、デジタル・アイデンティティの課題や在り方について、継続的に検討していきたいと思います。

著者
JIPDEC 電子情報利活用研究部 主査 石井 美穂

博士(メディア・デザイン学)

慶應義塾大学DMC機構助教、慶應義塾大学メディアデザイン研究所リサーチャー(現職)を経て、2019年より現職。
実施業務:
・プライバシー保護・個人情報保護に関する調査研究
・パーソナルデータの保護と利活用に関する調査研究