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2024.12.16

レポート

DXと労働生産性

一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 調査研究グループ グループリーダ 松下 尚史

少子高齢化が進み、生産年齢人口は1997年の8,699万人をピークに2023年には1,303万人減少して7,396万人となっています。また、働き方改革や非正規雇用者比率の上昇なども影響し、雇用者の労働時間も年間1,912時間(1995年度)から1,658時間(2022年度)まで減少しています。このような状況において、企業や自治体はデータやデジタルツールを活用した労働生産性の向上を目的としてDXを推進してきたことから、労働生産性はDXの成果を図る一つの指標として考えることができます。

よく耳にする労働生産性には二つの概念があります。一つは付加価値額(マクロ経済的には名目GDP、企業としては少々語弊がありますが売上総利益)を労働投入量(雇用者数×労働時間)で割り、一人の雇用者が1時間でいくら稼ぐのかを測る数値で、これを付加価値労働生産性と言います。もう一つは、生産量(マクロ経済的には実質GDP、企業としては契約件数・販売台数・生産台数など)を同じく労働投入量で割り、一人の雇用者が1時間でどの程度の生産量を実現できるのかを測る数値で、これを物的労働生産性と言います。「日本の労働生産性は低い」と言われる時は、主に付加価値労働生産性のことを指します。図1を見ていただけると分かりますが、日本の付加価値労働生産性は2000年以降ほぼ横ばいで推移しており、OECD主要7か国の中でも最下位です。ところが、物的労働生産性を見てみると、アメリカには負けるもののOECD主要7か国の中で2位になっています。

図1.付加価値労働生産性と物的労働生産性の国際比較

図1.付加価値労働生産性と物的労働生産性の国際比較

このような結果につながる要因は何かと、さまざまなDXに関するアンケート調査等を見てみると物的労働生産性のみが上昇した背景が見えてきます。例えば、当協会と株式会社アイ・ティ・アールが企業を対象に実施した「企業IT利活用動向調査2024」の結果では、日本のDXに関する取り組みは業務効率化などの生産量を高める内向きのDXが中心になっています(図2)1。つまり、経済産業省の定義2では「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること3」となっていますが、業務そのものの変革には取り組んでいても、競争上の優位性を確立するところまでは至っていないのではないかと推察されます。また、自治体のDX推進においても、総務省が「自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく4」ことが求められると示していることから、職員数が減少していく中において一人ひとりの職員がより多くの業務を捌くという意味で生産量を高める取り組みが中心になっているのではないかと考えられます。このように企業も自治体も生産量を高める物的労働生産性向上の取り組みを中心に行っており、図1の国際比較にもそのような取り組みの結果が表れたのではないかと考えられます。

国際比較の結果が示すように、わが国に足りないのは付加価値労働生産性を向上させることです。DXへの取り組みを通じて競争上の優位性を確立し、付加価値向上を実現するためには、社内的な取り組みから社外に目を向けた取り組みも必要な時期になっているのではないでしょうか。

図2.DXの取り組み内容と成果の状況

図2.DXの取り組み内容と成果の状況 (出典)JIPDEC/ITR「企業IT利活用動向査2024」

著者
JIPDEC 調査研究グループ グループリーダ 松下 尚史

青山学院大学法学部卒業後、不動産業界を経て、2018年より現職。
経済産業省、内閣府、個人情報保護委員会の受託事業に従事するほか、G空間関係のウェビナーなどにもパネリストとして登壇。その他、アーバンデータチャレンジ実行委員。
実施業務:
・自治体DXや自治体のオープンデータ利活用の推進
・プライバシー保護・個人情報保護に関する調査
・ID管理に関する海外動向調査
・準天頂衛星システムの普及啓発活動 など