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1.調査の視点

1.1 背景
 日本政府は、2017年の「未来投資戦略2017」に引き続き、2018年6月15日に「未来投資戦略2018」を閣議決定し、発表した。「未来投資戦略2017」では、長期停滞を打破し、中長期的な成長を実現していく鍵を、近年急激に起きている第4次産業革命(IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット、シェアリングエコノミー等)のイノベーションを、あらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、様々な社会課題を解決する「Society 5.0」を実現することにあると位置付けた。更に、「未来投資戦略2018」では、日本経済の潜在成長力を大幅に引き上げ、名目 GDPを 600 兆円(2020 年頃)から更に押し上げ、国民所得や生活の質、日本の国際競争力やプレゼンスを大きく向上させていくと発表した。その背景として語られる課題のひとつとして、世界に先駆けて進む人口減少社会や少子高齢化がある。「未来投資戦略2018」では、人口減少や少子高齢化は労働力人口の減少に繋がる事から、労働力人口の不足分を補いつつ、適切な人材投資と雇用シフトを進める事で、他の先進国のような社会的摩擦を回避出来るのではないかと述べられている。
 他方、地方で進む人口減少と少子高齢化は、行政の担い手不足や民間企業の後継者不足問題などを生じさせており、行政サービスの維持や民間企業の事業継承に支障をきたしている事から、労働力の増加に依存しない効率的な行政・企業活動を実現していく必要性に迫られている。

1.2 地方公共団体に求められる簡素で効率的な社会システムの実現
 「未来投資戦略2018」と同時に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」においては、地方公共団体が中心となり、①IT戦略の成果の地方展開、②地方公共団体におけるクラウド導入の促進、③オープンデータの推進、④シェアリングエコノミーの推進、⑤地域生活の利便性向上のための「地方デジタル化総合パッケージ」という5つの取組を通して、「ITを最大限活用し、簡素で効率的な社会システム」を目指すとされている。
 ところが、その進捗は芳しくない。オープンデータへの取組を例に見てみると、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、2020年度までに地方公共団体のオープンデータ取組率100%を目標に推進するとしているが、市町村レベルでは、2018年4月30日時点で296団体、わずか17%の取組率に留まっている。
 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が、2018年12月中旬から2019年1月中旬にかけて行ったアンケート調査1によると、オープンデータに取り組む中での課題や問題点として「オープンデータの効果・メリット・ニーズが不明確」という回答が58.6%と最も高く、次いで「オープンデータを担当する人的リソースがない」という回答が56.2%となっており、オープンデータへの取組が進まない大きな原因のひとつとしても、労働力の不足が挙げられているのである。


1 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート結果及び結果を踏まえた今後の方向性」:
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/data_ryutsuseibi/opendata_wg_dai7/odwg_siryou2-3.pdf

2.調査研究の対象

 「1.1.背景」や「1.2.地方公共団体に求められる簡素で効率的な社会システムの実現」で見てきたように、地方では第4次産業革命の技術革新を取り込み、ITを最大限に活用しようとしても、人口減少・少子高齢化による担い手不足からその実現には至っていない。そこで本研究レポートでは、地方における少子高齢化の要因を探ると共に、対応策として、現在検討されている内容で十分なのか、漏れ抜けはないかを検討してみる事とした。

3.人口の推移

3.1 将来の人口推計
 国立社会保障・人口問題研究所の発表によると、出生率・死亡率を一定と仮定した場合、2018年に1億2,608万人であった総人口は、2040年には1億817万人となり、2049年には1億人を割り込む事が推計されている。推計の内訳をみると、65歳未満人口は減少の一途を辿り、65歳以上人口は2040年まで増加し続け、その後減少に転じるとされている。65歳未満人口の減少と65歳以上人口の増加から、高齢化率(65歳以上人口が総人口に占める割合)は2050年~2053年の4年間が35.1%とピークとなり、その後は減少していくとされている。

3.2 現在に至るまでの人口の推移
 将来にわたって、少子化・高齢化が進んでいくと予測されているが、現在に至るまでの人口の推移についても確認をしてみる。
 総務省の人口推計が発表した資料によると、人口のピークは2008年の1億2,808万人(総人口。以下、同様。)であり、2018年には1億2,644万人と既に164万人の減少となっている。高齢化率の全国平均は、人口のピークである2008年では、22.1%であったものが、2018年には28.1%と、過去10年で6%の上昇となっている。

図表1 総人口と高齢化率
総人口
高齢化率
2008年
1億2,808 万⼈
22.1%
2018年
1億2,644 万⼈
28.1%

4.都道府県別の考察

4.1 都道府県別にみる高齢化の要因
 高齢化率は、65歳以上人口が総人口に占める割合である為、総人口を65歳未満と65歳以上と分ける事で、どちらの影響が強いのかを確認できる。
 人口がピークであった2008年と2018年のデータを比較すると、65歳未満人口が増加したのは東京都のみであり、東京都以外の道府県では65歳未満人口は減少している。埼玉県や千葉県では、65歳未満人口の減少幅は小さいものの、65歳以上人口の増加が顕著な結果となっている。一方、秋田県のように65歳以上人口の増加以上に65歳未満人口の減少が生じている県もある。全国平均を中心に見た場合に、高齢者の増加が問題の中心である地方自治体と65歳未満人口の減少が問題の中心である地方自治体に分けて考える必要があるのではないかと考えられる。

図表2 2008年・2018年比較 65斎未満人口と65斎以上人口の増減率

2008年・2018年比較 65斎未満人口と65斎以上人口の増減率

4.2 東京都への人口一極集中
 先程見たグラフの中で、東京都だけが65歳未満人口が増加している事が確認出来た。そこで、東京都人口が総人口に占める割合も確認してみたい。これは東京都への人口一極集中がいつから生じ、どのような推移を辿っているのかを確認する為である。
 図表3のように、1970年からの数値を見ると、1970年から1997年にかけ、東京都人口が総人口に占める割合は減少している。つまり、東京都以外の道府県の人口増加が東京都の人口増加を上回っていた時期であり、人口の増加を以て拡大という言葉を用いるのであれば、地方が拡大していた時期である。過去、このような現象が生じていた事を思えば、地方の衰退は自然の趨勢だけが要因ではないと考えられる。
 一方、1998年以降は東京都人口が総人口に占める割合は増加していく。東京都への人口一極集中は1998年を起点に生じていると見る事も出来る。

図表3 東京都人口が総人口に占める割合

図表3 東京都人口が総人口に占める割合

4.3 人口ピラミッド
 ここで、東京都の人口ピラミッドと秋田県の人口ピラミッドを見てみたい。東京都では、高齢者数よりも20~49歳周辺がボリュームゾーンとなっているが、20~24歳の層で極端に人口が増加している様子が確認出来る。一方、秋田県においては、60~75歳周辺がボリュームゾーンとなっており、東京都とは逆に20~24歳の層で人口が減少している事が確認出来る。
 また、人口の増減の要因として、出生や死亡などの自然増減、転出入による社会増減、国籍の異動による純増減が考えられるが、東京都人口の社会増は、その他の道府県人口の社会増減の合計値とおおよそ一致する。海外への転出を除けば、ある県の転出者はある県の転入者となり、均衡していることを示している。
 このように地方の20~24歳周辺人口が東京都などの都市部に集中していけば、高齢化率の分母を形成する総人口が減少する為、地方の高齢化率は上昇する事となり、行政の担い手不足や企業の後継者不足に繋がっていくと考えられる。

図表4 2018年の人口ピラミッド

図表4.2018年の人口ピラミッド

 なお、国立社会保障・人口問題研究所が行った調査によると、85歳以上の高齢者の移動理由においては「子との同居・近居」が31.8%と最も高くなっており、20~24歳周辺の若い世代が転出し、転出先で定住した場合、将来的には親を呼び寄せ、同居・近居する可能性もあり、これは高齢化ではなく、人口減少を推し進める方向に作用する可能性がある事も見ておく必要があるだろう。

図表5 高齢者の移動理由(過去5年間に移動した人、%)2

図表5 高齢者の移動理由(過去5年間に移動した人、%)

2 国立社会保障・人口問題研究所「2016 年社会保障・人口問題基本調査」:
http://www.ipss.go.jp/ps-idou/j/migration/m08/ido8gaiyou.pdf


5. 年齢別の考察

5.1 20~24歳周辺の移動理由
 20~24歳周辺の人々が転居する理由に関し、国立社会保障・人口問題研究所のアンケート調査を確認すると、15~19歳では「入学・進学」が37.4%と最も高く、次いで「住宅を主とする理由」3が24.6%となっている。20~24歳においては「入学・進学」が31.6%と最も高い点は15~19歳と共通するが、次点において「職業上の理由」4が23.2%となっている。25~29歳では「結婚・離婚」が28.7%と最も高く、次いで「住居を主とする理由」が23.9%、「職業上の理由」が22.6%と続く。

図表6 年齢階層別、過去5年間における現在地への移動理由(%)5

図表6 年齢階層別、過去5年間における現在地への移動理由(%)

 15~29歳の移動理由をまとめてみると、「入学・進学」「職業上の理由」「住宅を主とする理由」が主たる要因となっている事が確認出来る。


3 「住宅を主とする理由」とは、住宅事情・生活環境上の理由・通勤通学の便を指す。
4 「職業上の理由」とは、就職・転職・転勤・家業継承・定年退職を指す。
5 国立社会保障・人口問題研究所「2016 年社会保障・人口問題基本調査」:
http://www.ipss.go.jp/ps-idou/j/migration/m08/ido8gaiyou.pdf

6.賃金・産業面からの考察

6.1 地方からの転出
 20~24歳周辺が地方から「入学・進学」「職業上の理由」などから転出し、東京都を始めとする都市部へ移動している事が確認出来た。しかし、なぜ都市部への移動なのかという点に疑問が残る。
文部科学省が発表した平成30年度学校基本調査6によると、全国にある大学782校の内、138校が東京都に集中している。同様に専門学校においても、全国2,805校の内、360校が東京都である。この数値だけでも、「入学・進学」が東京都で最も多くなる事が推測出来る。(参考として、愛知県の大学数は51校、大阪府の大学数は55校となっている。また、埼玉県・千葉県・神奈川県・東京都の大学数の合計は223校で全国の約28.5%が東京都近郊に集中している。)
 では、「職業上の理由」ではどうか。「職業上の理由」となると、賃金との関係を見てみる必要がある。厚生労働省が発表した平成30年賃金基礎統計調査によると、全国の平均賃金が306.2万円のところ、東京都は380.4万円と最も高い賃金水準となっている。
 このように、都市部移動の理由を「入学・進学」「職業上の理由」から確認してみると、大学が多い事、賃金水準が高い事が都市部への移動を促しているのではないかと考えられる。

図表7 都道府県賃⾦(男⼥計)7

図表7 誤道府県賃金(男女計)


6 文部科学省「学校基本調査」:
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm>
7 厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」:
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2018/index.html

 賃金と人口の変化を、既に見た1970年からの東京都人口が総人口に占める割合を用いて確認してみる。1970年から2017年までの期間で、東京都人口が総人口に占める割合の前年差と厚生労働省が発表する「毎月勤労統計調査」の現金給与総額(調査産業計・事業所規模30人以上。以下、名目賃金)の前年比にも一定の相関関係が見られる。これらの数値を単回帰分析してみると、相関係数:0.7094、決定係数:0.5032、有意水準1%未満で帰無仮説棄却という結果になり、名目賃金と東京都人口が総人口に占める割合の間に相関関係を確認する事が出来る。東京都人口が総人口に占める割合は、1997年が最も高い事は既に確認したとおりだが、名目賃金においても1997年が最も高い状況となっており、その点も非常に興味深い。

図表8 名目賃金と東京都人口が総人口に占める割合

図表8 名目賃金と東京都人口が総人口に占める割合

6.2 稼ぐ力と修正特化係数
 職業上の理由の点から考えると、賃金を引き上げないと20~24歳周辺の層が東京都を始めとする都市部へ転出してしまう事から、賃金を引き上げられるように、地域の外から稼ぐ力を高めなければならないという結論に至るケースが多い。例えば、内閣府地方創生推進事務局が発表した「稼げるまちづくり取組事例集「地域のチャレンジ100」及び稼げるまちづくりを支援する包括的政策パッケージ2017について」8においても、①空き店舗・古民家等を活用した起業・移住促進による稼げるまちづくり、②伝統的な街並みを活かした集客拡大による稼げるまちづくり、③観光需要を取り込む稼げるまちづくり、④地場産業を核とした稼げるまちづくり、⑤健康長寿をテーマとした稼げるまちづくり、⑥コミュニティの賑わいづくりによる稼げるまちづくりなどのように、地域の外から稼いでくるという取組が中心となる。
 しかし、稼ぐ力のある産業が雇用を吸収する力(以下、雇用力)が高いとは限らないのではないか。そこで稼ぐ力を修正特化係数9という指標を用い、雇用力との関係性を確認してみる。修正特化指数とは、地域におけるある産業の従業者比率を全国における同産業の従業者比率で除する事で、地域におけるある産業の従業員比率が全国平均と比較してどうなのかを見る事が出来る指標である。地域におけるある産業が全国平均以上の従業員比率(つまり、修正特化係数が1以上)であれば、その産業に地域として特化しており、地域の外から稼ぐ力のある産業と言える。
 前述した秋田県を例に見てみよう。秋田県においては、社会保険・社会福祉・介護事業、医療業、飲食料品小売業、その他の小売業、総合工事業、飲食店が上位に位置しており、特に社会保険・社会福祉・介護事業の雇用力は突出している。反面、これらの産業の中に稼ぐ力(修正特化係数)が上位に入る産業は少なく、雇用力のある産業が稼ぐ力のある産業とは限らない事が確認できる。


8 内閣府地方創生推進事務局「稼げるまちづくり取組事例集「地域のチャレンジ100」及び稼げるまちづくりを支援する包括的政策パッケージ2017について」:
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/seisaku_package/index.html
9 修正特化係数は、ある産業の⼀⼈当たりの産出額(⽣産性)が全国で⼀律という前提を置いている。



図表9 秋田県の稼ぐ力と雇用力

図表9 秋田県の稼ぐ力と雇用力

 このように外から稼ぐ力と雇用力が異なり、かつ、雇用力の高い産業が別に存在する場合、若年層の雇用を吸収する事を目的とすれば、地域内の経済循環(GDPで言えば内需に相当する部分)を、上手く回していく必要があるのではないかという結論に至る。そして、この点は忘れられがちである。

7.地方における少子高齢化対策

7.1 少子高齢化の要因
 これまで見てきたように、地方における少子高齢化の要因として、65歳未満の人口減少、特に20代の若年層の転出超過が看過出来ない要因である事が確認出来た。紙面の都合上、ここでは出生数には触れないが、少子化と言われる現状において、若年層の転出超過は、地方の少子高齢化を加速させていくのである。
 よって、若年層の転出抑制、もしくは、UIJターンを促進し、若年層の就業の場を確保していく事が地方の少子高齢化対策の中心になる。

7.2 地方における若年層の就業に関する政策
 若年層向けの就業に関する政策は、それほど多くない。
 前述の「稼げるまちづくり取組事例集「地域のチャレンジ100」及び稼げるまちづくりを支援する包括的政策パッケージ2017について」は、地方全体の振興の為の政策であった。また、総務省の「地域力強化プラン~Society5.0時代の地方~」10では、①「地域の既存産業を高度化する、新産業を創出する」、②「地域への企業の移転を促進する」、③「地域内産業チェーンを構築する」という三本柱を以て、就業の場の確保が検討されているが、若年層向けに限定されたものではない。
 若年層向けの取組として確認される政策は、内閣府地方創生推進事務局が出している「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」11という枠組みの中で検討されているUIJターンによる起業・就業者創出(交付金や助成金などの拡充)や、「キラリと光る地方大学づくり~地方における若者の修学・就業の促進~」12での検討などに留まっている。


10 総務省「地域力強化プラン~Society5.0時代の地方~」:
http://www.soumu.go.jp/main_content/000591070.pdf
11 内閣府地方創生推進事務局「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」:
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/pdf/h30-06-15-kihonhousin2018gaiyou.pdf
12 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地方への新しいひとの流れをつくる」現状と課題について:
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/wakuwaku_kaigi/h30-02-14-shiryou2.pdf



7.3 政策の点検・検討ポイント
 上記のように、地方における若年層の就業に関する政策は、驚くほどに少ない。また、地方自治体が行っている個別の取組が、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の資料12に紹介されているが、社会的要因による人口増を達成している地方公共体の事例は少ない。若年層向けの政策としては、子育て支援が地方でもよく聞かれる政策ではあるが、それに比べると、就業に関する政策や取組は、まだまだ少ないのが現状である。このため、若年層の転出抑制やUIJターンが促進されないのではないか。
 若年層に限定されたものではない地方の産業振興策についても、前節で紹介した「地域力強化プラン~Society5.0時代の地方~」を例に、若年層の就業の場に繋がっているのかどうかを以下で確認してみたい。
 まず、「地域の既存産業を高度化する、新産業を創出する」という部分に関して、地域の基幹産業への革新的技術の実装が検討されている。革新的技術の活用においては、AI・IoTなどの利活用が想定されている。新しい技術の利活用は、その技術を扱う事が出来る人々の雇用を拡大する反面、合理化される事によって雇用を失う事になる人々が存在する事も忘れてはならない。人口減少社会である我が国の地方においては、前者が後者を上回るであろうという仮定に基づいて、このような政策が実行されている。よって、実際にそのような状況になっていくのかを定期的に点検する必要があり、更に、拡大する雇用が若年層の就業の場として適合していくかどうかも点検すべきポイントとなる。
 また、地域の基幹産業とは何かという視点である。一般的に基幹産業とは経済の基礎をなす産業の事を言う。例えば、ある地域の基幹産業をその地域で「稼ぐ力のある産業」と仮定すれば、先述の秋田県の事例では、電子部品・デバイス・電子回路製造業や林業が基幹産業にあたる。ところが、前述のとおり「稼ぐ力のある産業」が「雇用力のある産業」とは限らず、若年層の就業の場を確保していく為に新たな雇用を生み出していく事が必要となる。秋田県の事例で言えば、「雇用力のある産業」は社会福祉・介護・医療といった分野が該当する。これらの平成30年度の秋田県内における新規求人数を見てみると、電子部品・デバイス・電子回路製造業1,498件、医療・福祉は20,605件となり、「雇用力のある産業」での新規求人数が大きく「稼ぐ力のある産業」の新規求人数を上回る。このような状況からも、「稼ぐ力のある産業」一辺倒の政策ではなく、「雇用力のある産業」の充実を図れば、雇用の拡大に繋ぐ事が出来る可能性が高く、検討される必要がある。付言しておくと、内閣府13が行った調査 の中には、20~29歳の52.3%、30~39歳の57.6%が地方に移住してもよいと考えている事が報告されており、移住の条件として最も多い要望は、「教育、医療・福祉などの利便性が高いこと」(51.1%)となっている事から、秋田県の事例にあるような社会福祉・介護・医療といった分野の充実は、地方移住を促す事にも繋がっていくのではないかと考えられる。
 更に、「地域への企業の移転を促進する」であるが、ここではサテライトオフィスやテレワークが想定されている。このような形であれば、大きな負担を掛けずに、地方での雇用創出が可能になるのではないかと思われる。一方で、その数はかなり限られた数・職種になる事も考えられる。また、本格的な企業誘致を行うのであれば、移転費用など企業に掛かる負担が大きい上に、ある地方での就業者増加がある地方での就業者減少になるというトレードオフの関係が生じれば、一方の問題が解決しても、もう一方の問題が深刻化するだけになってしまう事も指摘しておきたい。
 「地域内産業チェーンを構築する」という部分では、地域資源や地域の企業・大学の力を活用した事業創出が検討されている。この検討の中でも登場する域学連携の取組を通して、大学卒業後の移住先を決めたというケースも聞かれるが、このような事例はまだまだ少数であろう。とは言え、企業や自治体が積極的に関わる事で、大学から地方へという人の流れが出来る可能性は十分にあるのではないかと思われるが、雇用を受け入れることが出来る程度の体力ある企業や自治体が関わっている事が必要要件ではないか。
 そして、前章にて指摘したように、以上のような政策の着眼の中に、地方での域内経済循環の視点は全く見られない。地方においては、稼ぐ力のある産業を支援するよりも、雇用力のある産業を支援する方が雇用の拡大に繋がりやすいことから、その支援方法を本格的に検討すべきではないか。


13 内閣府「人口,経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」:
https://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-shourai/index.html

7.4 担い手不足解消に向けて
 以上のように、地方において、若者世代の就業の場を拡充していく事に的を絞った政策は少ない一方、あらゆる世代の就業の場となるような産業振興策が実施・検討されている。それらの政策にも数々の前提や検討・点検すべき点もあり、政策が意図するとおりに事が運ぶのかどうかは未知数である。また、出生数が減少している事から、就業が促進されたとしても担い手不足がどこまで解消されるのかは、不透明な状況とも言える。つまり、「行政サービスの維持や民間企業の事業継承に支障をきたしている」状況が必ず改善されるとは言えないのである。特に、従来から労働力に依存した行政サービスや企業経営を行っている場合、その改善は容易ではないのではないか。
 秋田県の事例でも見たように、地方において雇用力のある産業というのは労働力に依存した労働集約型産業である場合の方が多いのであるが、そのような産業において、ITなどの活用し、業務を簡素で効率化していく事には大きな意味がある。これまで人手を費やして行っていた作業が自動化されるだけでも、担い手不足の解消に繋がる事が期待される。また、そのような労働環境実現は、若年層にとって働きやすい労働環境の実現に繋がっていく。一方で、業務を簡素で効率化する事をせずに、ただ担い手不足だからと若年層の就業を促しても、担い手不足が解消される事もなく、若年層も疲弊してしまうのではないだろうか。
 地方で進む少子高齢化に歯止めをかける為には、若年層の定住が必要であり、定住する為には就業の場を提供する必要があり、就業したくなるような働きやすい労働環境を実現していく必要がある。働きやすい労働環境を、業務の簡素化・効率化という方向で実現する事が出来れば、担い手不足の解消にも繋ぐ事が出来る。これは行政においても、企業においても同様である。
 そして、このような取組は「稼ぐ力のある産業」ではなく、「雇用力のある産業」を中心に進めていく事が出来れば、より多くの就業者がその恩恵に与かり、地方の活力に結び付いていくのではないだろうか。
 我が国の直面している課題は、人口減少や少子高齢化による担い手不足の為、ITを最大限活用する事が出来ないという点である。ITを最大限活用する事が少子高齢化や担い手不足の解消に資するものになっていくのではないかとも考えられる。このような視点も取り入れた政策立案を期待したい。