2025.05.23
レポート
データ越境移転の最新動向-グローバルCBPRの運用開始に向けて-
一般財団法人日本情報経済社会推進協会
認定個人情報保護団体事務局 事務局長 奥原 早苗
JIPDECが審査機関を務めるCBPRシステムは、現在APECによって運用されているAPEC CBPR1と、Global CBPR Forumが運用するグローバルCBPR2があります。本誌発行時点では、グローバルCBPRの運用は、まだ正式に開始されていない状況にありますが、徐々に認証システムの枠組みが整いつつあり、運用開始のリリースが近いと見込まれています。
運用開始が近いと言える理由として、2024年4月にシステム文書3を取りまとめ公表した後、2025年3月にグローバルCBPR認証マークの登録商標手続きが完了したことが挙げられます。APEC CBPRは、APECとしての統一された認証マークは存在せず、その代わりにJIPDECを含む八つの審査機関が五つの国や地域で独自の認証マークを作成し、APEC CBPRの認証シールとして、認証企業へ提供してきました。APECは、“CBPR”等の文字情報のライセンサーであるため、審査機関はそれぞれの国で独自にデザインした認証マークに「APECCBPR」や「JIPDEC,JAPAN」等、誰が何の認証をしたものかAPECの文字情報を組み合わせた商標登録を行い、認証企業との間で認証マークの利用に関するライセンス契約等を締結します。
他方、グローバルCBPRでは、個々の審査機関が提供するさまざまな種類の認証マークに替えて、統一されたグローバルCBPR固有の認証マークを全ての認証企業が利用する点が大きな違いです。これは、新しい認証制度としての認知度の向上や、ブランド力を高めるという点で、有効と言えます。なぜなら、これから認証を取得しようとしている潜在的な申請事業者、サービスや商品の利用に伴い個人情報を提供する消費者等、個人情報を扱う規制当局や関係機関等、CBPR認証制度自体を良く知らないステークホルダーにとって、とても分かりやすい仕組みだからです。JIPDECは、先般米国商務省4とグローバルCBPRの認証マーク利用に関するライセンス契約を締結しました。この後、国内での商標登録に続き、認証企業の皆様にご案内の上、サブライセンス契約を順次締結する予定です。
なお、グローバルCBPRの正式な運用開始に向けては、まずAPEC CBPRと同等の認証制度として運用することが検討されています(グローバルCBPR独自の運用・審査はもう少し先になります5)。そのため、CBPRの審査機関、認証企業として申請する組織・団体は、グローバルCBPRが運用開始された後も、当面APEC CBPRシステムに基づいて申請を行い、その結果、審査機関や認証企業として認められた場合、自動的にグローバルCBPRの審査機関や認証企業としても認められるというパラレルな運用6となることが想定されています。
APEC CBPRは制度自体の認知度が低いことや日本での認証企業数が少ない等が課題とされていますが、APECに21のエコノミー(国や地域)が参加する中、CBPRシステムへの参加に手を挙げているのは9エコノミー、そのうち審査機関を置いて運用している数は5エコノミーに留まっていることが背景として挙げられます。しかしながら、グループ企業の認証数も含めれば、約2,000社が既に認証を取得し、AppleSalesforce、IBM、CISCO、Box等のグローバル企業が名を連ねています。韓国、シンガポール等、政府機関が審査機関を兼ねている国のように審査料を無償化した制度の運用が可能な一部を除いては厳しい状況にあるものの、グローバルCBPRはAPEC CBPRシステムに手を挙げた9エコノミーの他に、準会員として英国を始め、バミューダ、ドバイ国際金融センター、モーリシャスが参加し、興味を持つ国や地域がAPEC域外で広がりを見せており、幅広い国や地域からも注目されてきていることも事実です。
激しい競争環境下に置かれ、自社の状況に鑑みたリスク分析を行った結果、何をどう選択して取引先や利用者に安心や安全を提供できるのか、デジタル社会が進展し、個人データの越境移転が増大する中、第三者認証の取得はアカウンタビリティ/ガバナンスツールとしても重要性が高まっているため、企業のニーズを踏まえて、さらなる制度の改善に貢献していきたいと考えています。
今後の動向は、グローバルCBPRフォーラムワークショップ(2025/5/26~5/28:シンガポール/セントーサ島)への参加や、APEC CBPRについて話し合われている会合(2025年ホスト国:韓国/慶州)等で得られた情報を元に、本誌等を通じて皆様へご案内していきます。
- 1 APEC CBPRs別ウインドウで開く
- 2 Global CBPR Forum別ウインドウで開く
- 3 適合を見極めるフレームワークや認定ルール説明、質問事項等、認証制度運用にかかる全ての文書を指します。別ウインドウで開く
- 4 Global CBPR Forumの商標等を管理する組織がまだ本格稼働していないことから、フォーラムの議長を務める米国がライセンサーとして商標登録を行ったためです。
- 5 グローバルCBPRの認証基準がAPECの認証基準を踏襲しているためです。現在、グローバルCBPR独自の認証基準の整備が進められています。
- 6 JIPDECは、APECのAA(審査機関)として認定を受けているため、2024年4月に先んじてグローバルCBPRのAAとして認定されました。グローバルCBPR独自の運用が開始された後は、APEC CBPRとグローバルCBPR両方の認証を取得することはできなくなります。
- 著者
- JIPDEC 認定個人情報保護団体事務局 事務局長 奥原 早苗
美容業界の法務・お客様対応・経営企画等の各部門責任者を経て、2020年4月よりJIPDEC認定個人情報保護団体事務局に勤務。2022年より現職。
消費者視点で、各省庁(消費者庁、経済産業省、総務省等)や事業者団体の審議会や委員会、有識者会議等に参画。金融、情報通信、サービス関連企業等の社外アドバイザーも務める。
・玉川大学工学部マネジメントサイエンス学科 非常勤講師
・サステナビリティ消費者会議 主任研究員
・資格:プライバシーマーク審査員、消費生活アドバイザー、消費生活専門相談員
【著作】
『消費者法研究第10号 「令和2年改正個人情報保護法と消費者」』(信山社、2021年10月発行)
『消費者法研究第12号「消費者志向経営と企業価値評価」』(信山社、2022年3月発行)
『これからの民法・消費者法(Ⅱ)「越境取引と個人情報保護」』(信山社、2023年3月発行)
『ビジネス法務「新たなパーソナルデータの利活用の問題 第3回 消費者視点から考えるデジタル社会のデータ利活用」』(中央経済社、2025年2月発行)
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