2024.12.16
レポート
個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しについて
一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 主幹 恩田 さくら
個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)は、2003年に制定された後、2015年、2020年、2021年と改正が行われてきました。個人情報保護委員会(以下:PPC)は、2023年から、関係団体や有識者からのヒアリングを実施する等、いわゆる3年ごと見直しに係る検討を開始しています。
2024年6月に「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」として、PPCの考え方がまとめられました1。中間整理において提示された主な論点をいくつかご紹介します。
要保護性の高い個人情報の取り扱いについて(生体データ)
現行法では、身体の特徴のいずれかを電子計算機の用に供するために変換した符号のうち、本人を認証することができるようにしたものは、個人識別符号に該当するとして規律がされていますが、生体データであることに着目した特別の規律は定められていません。一方で、諸外国に目を向けると、生体データがセンシティブデータに該当するとし、原則、本人同意の取得を要求する例などが見られます。生体データは、長期にわたり特定の個人を追跡することに利用できる等、個人の権利利益に与える提供が大きいことなどから、実効性のある規律を設けることを検討する必要があるとされています。
こどもの個人情報等に関する規律の在り方
現行法では、こどもの個人情報の取り扱い等に係る明文の規定は基本的にありません。海外の法制度においては、こどもの個人情報等をセンシティブデータに分類して特別な規律の対象としたり、こどもの個人情報等に特有の規律を設けるなど、こどもの個人情報等に関する規律が存在しています。こどもの脆弱性・敏感性およびこれらに基づく要保護性を考慮するとともに、データの有用性も考慮する必要があるとされています。こどもの権利利益の保護との観点から規律の在り方の検討を深める必要があるとされています。
個人の権利救済の手段と在り方
法の規程に違反する個人情報の取り扱いに対する抑止力を強化し、本人に生じた被害の回復の実効性を高めるとの観点から、団体による差止請求制度や被害回復制度の枠組みは有効な選択肢となり得ます。PPCが実施したヒアリングにおいては、その導入について反対もあったため、導入の必要性を含めて多角的な検討を行っていく必要があるとされています。
実効性のある監視監督の在り方
国内では、独占禁止法を始め、金融商品取引法、公認会計士法等に課徴金制度が導入されています。これまでの法改正においても課徴金に関する議論がされてきているところではありますが、関係団体からの反対も示されており、導入の必要性を含めて検討する必要があるとされています。
また、漏えい等報告・本人通知に関しては、2022年度から漏えい等報告が義務化されたことなどにより、報告件数が増加傾向にある一方で、これらの義務が事業者の過度な負担になっているとの意見も示され、これを踏まえて、個人の権利利益侵害が発生するリスク等に応じて、漏えい等報告や本人通知の範囲・内容の合理化を検討すべきとされています。また、関係団体からは「おそれ」要件についても要望が示されているため、その具体的な当てはめについては現実の事例に応じて精査する必要があるとされています。
データ利活用に向けた取り組みに対する支援等の在り方
社会にとって有益であり、公益性が高いと考えられる技術やサービスについて、既存の例外規定では対応が困難と考えられるものがあるため、検討が必要であるとされています。
また、民間における自主的取り組みの促進として、プライバシー影響評価(PIA)や個人情報の取り扱いに関する責任者はデータガバナンス体制の構築において主要な要素となるものであり、その取り組みが推進されることが望ましいものの、その義務化については慎重に検討を進める必要があるとされています。
その他、プロファイリング、個人情報等に関する概念の整理、プライバシー強化技術(PETs)等の論点についても、引き続き検討するとされています。
中間整理に対して、2024年6月から7月にかけて実施されたパブリック・コメントでは、各種団体・事業者72者、個人1,659者から、合計2,448件の意見提出がなされました2。7月からはPPCにて「個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会」が開催されており、課徴金制度や団体による差し止め請求制度および被害回復制度について検討が進められています3。
- 著者
- JIPDEC 電子情報利活用研究部 主幹 恩田 さくら
データ利活用や保護に係る検討に従事。直近では、「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブック」「カメラ画像利活用ガイドブック」の策定・改訂に事務局として従事。