2026.04.16
レポート
企業IT利活用動向調査2026」から見る日本企業のDX、AI活用、ランサムウェア被害の実態(AIの活用状況と課題編)
株式会社アイ・ティ・アール
取締役 / プリンシパル・アナリスト 入谷 光浩氏
【概要】
- 組織としてのAI活用を行っている企業は36%にとどまり、業種により進展度合いも大きく異なる。
- 期待以上のAI導入効果が出ているのは「顧客対応・サポート業務」(29.1%)、「経営企画・意思決定支援」(27.8%)
- AI導入前後で課題に違い。人材不足等は導入後解消されるものの、セキュリティ対策や非データ化情報への対応等は導入後も課題。
- 全体の約7割がガバナンス体制整備、強化が必要と感じるのは「人間による最終判断の確保、AI出力の根拠や判断過程を説明できる体制」(35.3%)
本レポートでは、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(以下、JIPDEC)が2026年1月に実施した「企業IT利活用動向調査2026」(調査協力:株式会社アイ・ティ・アール)集計結果の中から、AIの活用状況とその効果、活用における課題について調査した結果を分析している。
AIの活用状況
企業の業務におけるAIの活用状況について質問を行った(図14)。全体の結果を見ると、AIを実践・活用している企業(「社内業務だけでなく新たなビジネスモデルや製品・サービスを開発・提供」「社内業務全体で積極的に活用」「特定業務領域で活用」の合計)は36%にとどまっており、本格的な活用に至っている企業はまだ少ない。まだ、試行段階や検討段階にとどまっている企業が多く、業務全体への本格的な組み込みや新たなビジネス創出への活用という観点ではまだ発展途上にある。
業種別に見ると、業種間で活用の進展度合いに明確な差が生じていることがわかる。情報通信は社内業務全体でAIを積極的に活用している割合が最も高く、AI活用が最も進んでいる業種といえる。また、AIを活用した新たなビジネスモデルや製品・サービスを開発・提供している割合も他業種を大きく上回っており、AIをビジネス創出にまで結びつけている企業が多い。金融・保険も積極的な活用層の割合が高く、情報通信と並んでAI活用の先行業種として位置づけられる。

図14 AIの活用状況:業種別
次に従業員規模別に見てみる(図15)。規模が大きくなるほどAI活用が進んでいる傾向が明確に表れている。5,000人以上の企業では、社内業務全体でAIを積極的に活用している割合と新たなビジネスモデルや製品・サービスを開発・提供している割合の合計が他の規模を大きく上回っており、AIが業務プロセスへの組み込みにとどまらず、事業創出にまで活用されている企業が相対的に多い。1,000~4,999人もこれに次ぐ水準にあり、大企業ほどAI活用の深度が高い傾向がうかがえる。
一方、50~299人の企業では、AI活用の検討はしているが、具体的な取り組みは行っていない割合とAI活用についてこれから検討していく割合の合計が全規模中最も高く、本格的な取り組みはこれからの段階にある企業が多い。

図15 AIの活用状況:従業員規模別
さらにDX実践段階別に見てみる(図16)。DXの実践段階が進むほどAI活用も深化している傾向が明確に表れており、DXの推進とAI活用の間には強い相関関係があることがわかる。全社的にDXが定着している企業では、社内業務全体でAIを積極的に活用している割合と新たなビジネスモデルや製品・サービスを開発・提供している割合の合計が全段階中最も高く、AIが業務効率化にとどまらず事業創出にまで活用されている企業が多い。DXの定着がAI活用の深化を促す土台となっていることがうかがえる。
全社戦略に基づいて部門横断的に実践されている企業でも積極的な活用層の割合が比較的高い。一方、全社戦略に基づいて一部の部門で実践している企業および部門単位での試行や実践にとどまっている企業では、実証実験・試行的導入やAI活用の検討はしている段階の割合が高く、AI活用が特定部門や試行段階にとどまっている企業が多い。さらに、DXに着手していない企業では、AI活用をこれから検討していくが過半数を占めており、DXの基盤が整っていない企業においてはAI活用も難しい状況が浮かび上がっている。

図16 AIの活用状況:DX実践段階別
AIの活用効果
AIは業務でどの程度の活用効果が出ているのだろうか。AIを活用している企業に対し、活用効果について質問を行った(図17)。設定した業務項目は以下の通りである。
① 全社共通業務(文書作成・要約、情報検索、ナレッジ共有など)
② 営業・マーケティング(顧客分析、レコメンド、広告最適化、需要予測など)
③ 顧客対応・サポート業務(チャットボット、音声認識、問い合わせ対応など)
④ 経営企画・意思決定支援(経営ダッシュボード、予算策定支援、経営分析など)
⑤ 経理・会計(請求書処理、経費精算、仕訳自動化など)
⑥ 人事・採用・教育(スキル分析、面接支援、教育コンテンツ生成など)
⑦ 製造・品質管理(画像検査、異常検知、品質予測など)
⑧ 保守・設備管理(予兆保全、稼働分析、点検記録自動化など)
⑨ システム開発・運用・セキュリティ(プログラミング支援、異常・脅威検知、運用自動化など)
⑩ 製品開発・研究開発(製品企画、設計支援、デザイン支援など)
全ての業務項目において、期待以上の効果が出ている割合と期待通りの効果が出ている割合の合計が60%を超えており、AIを導入した企業の多くで一定の効果が確認されていることがわかる。期待以上の効果が出ている割合が最も高いのは「顧客対応・サポート業務」であり、チャットボットや自動応答などAI活用が比較的早くから進んできた領域で、高い効果が実感されている。「経営企画・意思決定支援」や「製品開発・研究開発」もこれに続いており、高度な判断や創造的な業務において高い効果が出ていることがうかがえる。
一方、「全社共通業務」は、期待以上の効果が出ている割合は最も低いものの、期待通りの効果が出ている割合は最も高くなっている。これは、文書作成や要約、情報検索など定型業務での活用が中心であるため、効率化は図れるものの、業務そのものを大きく変えたり、付加価値を出すまでには至らず、期待を大きく上回る効果は得られにくいためだと考えられる。「営業・マーケティング」も同様である。

図17 AIの活用効果
次に、各業務で期待以上の効果が出ている割合を各DX実践段階別に分析を行った(図18)。その結果、DXが定着している企業ほど多くの業務領域で期待以上の効果を得ている傾向が見られ、DXの推進がAI活用の効果創出にも直結していることがわかる。特に「全社共通業務」「営業・マーケティング」「顧客対応・サポート業務」「経営企画・意思決定支援」の領域では、DXの実践段階が上がるほど期待以上の効果が出ている割合が高くなる傾向が見られる。これらは部門横断的に関わる業務であり、DXによる業務の標準化やデジタル化が進むことで、AIが活用できるデータや業務プロセスの質が高まり、効果創出につながりやすくなると考えられる。
一方、「人事・採用・教育」「製造・品質管理」「保守・設備管理」「システム開発・運用・セキュリティ」「製品開発・研究開発」といった専門性の高い業務領域では、DXの実践段階と期待以上の効果が出ている割合の間に明確な相関関係は見られない。これらの領域では、DXの推進度合いよりも、業務固有のノウハウやナレッジがAI活用の効果に影響している可能性が高いと考えられる。

図18 AI活用で期待以上の効果が出ている業務:DX実践段階別
AI活用の課題
AI活用を進める上でどのような課題が出ているだろうか。AIの導入前と導入後の課題について質問を行った(図19)。導入前の課題として最も多く挙げられているのは「AIの開発や運用ができる人材やスキルの不足」であり、次いで「従業員のAIに関する教育やリテラシーの不足」「活用目的や効果指標の不明確さ」が続いている。導入前の段階では、人材・スキル面の不安と、何をどう活用するかという目的・指標の不明確さが主な障壁となっていることがうかがえる。
導入後になると、これらの課題は全般的に割合が低下する傾向にある。特に「活用目的や効果指標の不明確さ」は導入前から大幅に低下しており、実際に導入することで活用の方向性が明確になるケースが多いことが示されている。一方、「AIの学習や利用時のセキュリティ対策の懸念」「AIの学習のためにデータ化されていない情報が多い」「個人情報や機密情報をAIで扱う際のプライバシーの懸念」「AIの出力結果に対する信頼性や精度への不安」は、導入前後での低下幅が小さく、導入後も引き続き課題として残存している。データ基盤の整備やセキュリティ対策・プライバシー保護は、導入後も継続的な対応が求められる。

図19 AI活用を進める上での課題:AIの導入前と導入後の課題
AIのガバナンス体制
AI活用におけるガバナンス体制はどのようになっているだろうか(図20)。「全社的なAI利用におけるポリシーやガイドライン、倫理規程を策定している」が最も多く、3分の1以上の企業がポリシーやガイドラインの整備に取り組んでいる状況にある。さらに「AIのリスク管理や倫理対応を担う専任組織や委員会が設置されている」と「AIガバナンスを経営レベルで定期的にレビュー・改善している」を合わせると、全社レベルでの組織的なガバナンス体制を整えている企業は全体の約7割に達しており、AI活用の拡大に伴いガバナンスへの意識が高まっていることがうかがえる。
一方、「部門ごとにガイドラインはあるが、統一されたポリシーはない」と「AI利用は各部門に任されており、全社的な統制はない」が合わせて2割以上となっており、全社横断的なガバナンスが整備されていない企業も一定数残っている。

図20 AI活用におけるガバナンス体制
次に、AIガバナンスにおいて、特に強化が必要と感じる領域について質問を行った(図21)。「人間による最終判断の確保、AI出力の根拠や判断過程を説明できる体制」が最も高く、次いで「AIシステムに固有のリスク(誤作動・偏り・誤用など)を特定・評価・軽減する仕組み」が続いている。AIを業務や意思決定に組み込むうえでの信頼性と説明責任の確保が、最大の強化領域として認識されていることがわかる。
次いで、「AI活用に関する経営方針や責任体制、倫理原則を明確化する仕組み」と「AIに利用するデータの取得・品質・利用範囲・保存・廃棄を統制し、信頼性と再現性を確保」が上位に挙げられている。技術的な管理にとどまらず、経営レベルでの方針整備やデータガバナンスを含む包括的なガバナンスの必要性が強く認識されていることがうかがえる。
一方、「AIシステムや関連データへの不正アクセス防止や情報漏えい対策」「社内教育や利用者リテラシーの向上」「AIモデルの学習・更新・検証・廃棄までを一貫して管理する仕組み」といった個別の技術・運用領域は相対的に低い水準にとどまっている。これらはすでに既存のセキュリティ対策やIT管理の延長として取り組まれているケースが多く、AI固有の課題としての優先度が相対的に低く評価されている可能性がある。

図21 強化が必要なガバナンス領域
調査結果の考察
本章では、生成AIの利用状況と活用効果、活用における課題について調査結果を分析した。そこから得られた考察を以下にまとめる。
1.AI活用はまだ試行段階にあり、本格活用に向けた取り組みの加速が求められる: AIを実践・活用している企業は全体の3分の1強にとどまっており、業種・規模によって活用の深度に大きな格差が生じている。情報通信や大企業がAI活用を牽引する一方、サービス業や中小企業では検討・試行段階にとどまる企業が多く、AI活用の裾野を広げるための支援や環境整備が重要な課題となっている。
2.DXの推進がAI活用の効果を高める土台となる: DXの実践段階が進むほどAI活用も深化し、より広い業務領域で期待以上の効果が得られる傾向が明確に表れている。特に部門横断的な業務においては、DXによる業務の標準化やデジタル化がAI活用の効果創出に直結している。一方、専門性の高い業務領域ではDXよりも業務固有のノウハウがAI活用の効果に影響しており、業務特性に応じた活用戦略が求められる。
3.AI導入後も続く課題への継続的な対応が不可欠となる: AI導入によって活用目的や効果指標の不明確さは解消される傾向にある一方、セキュリティ対策、データ基盤の整備、プライバシー保護、出力結果の信頼性への不安は導入後も課題として残存している。AIを業務に本格的に組み込んでいくためには、ツールの導入にとどまらず、データ基盤の整備やセキュリティ対策、従業員リテラシーの向上を継続的に推進することが不可欠である。
4.AI活用の拡大に伴い、実効性あるガバナンス体制の構築が急務となる: 組織的なガバナンス体制を整えている企業は約7割に達しているものの、強化が求められる領域として、人間による最終判断の確保と説明可能性、AI固有リスクの管理、経営レベルでの方針整備、データガバナンスが上位に挙げられている。ポリシーの策定にとどまらず、包括的なガバナンスを実効性あるものとして機能させることが、AI活用を安全かつ持続的に推進するうえで重要な取り組みとなる。
本内容は、筆者自身の調査分析に基づく個人的見解で、JIPDECの公式見解を述べたものではありません。
著者プロフィール
株式会社アイ・ティ・アール
取締役/プリンシパル・アナリスト 入谷 光浩氏

ITRにおいて、システム運用とセキュリティに関する市場・技術動向調査と企業向けのコンサルティング・アドバイザリーを担当。
ITR以前は、グローバルIT調査会社IDCにて、15年以上ソフトウェアとクラウドサービスの調査・コンサルティングを担当し、日本における調査責任者も務める。
その他、複数の外資系大手ITベンダーにおいて、事業戦略の立案や新規事業調査を担当。
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