一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2024.03.07

レポート

令和6年度 経済産業省デジタル関連施策について

経済産業省 商務情報政策局総務課
政策企画委員 神田 啓史氏

デジタル庁の位置づけ

デジタル庁は、デジタル社会の実現に向けた政府の基本方針を示した「デジタル社会実現に向けた重点計画※1」において、各省庁の司令塔の役割を果たす位置づけで、省庁横断でさまざまな活動を行っています。

例えば、携帯電話料金やテレワークなどについては総務省と共同で推進するなど、デジタル庁をハブとしながら専門的知見を有する行政機関と連携して政府全体でデジタル政策を推進しています。

経済産業省のデジタル関連施策

Society5.0の実現

デジタル技術を社会実装することで経済成長につなげること、そして、デジタル技術を活用することで社会課題の解決につなげること、その両面を実現することがまさにSociety5.0の実現です。

経済産業省では、Society5.0の実現が目指すべきデジタル社会のゴール地点と考え、さまざまな政策を検討し進めています。

中でも、サイバー空間を支えるためのデジタル基盤として、「デジタルインフラ基盤」「デジタル技術・産業基盤」「デジタル人材基盤」の3本柱を整備することで、リアルデータの利活用サイクルが確立され、それによって新たな革新的製品・サービスの創出が可能になると考えています。企業・産業の垣根を越えて利活用される「プラットフォーム」を構築するアーキテクチャをいかに描けるかがカギとなり、この協調領域を官として中心的に進めているのが、我々経済産業省とご理解ください(図1)。また、経済産業省のIT政策実施機関であるIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の機能強化、国際連携も重要な施策として掲げています。

図1 デジタル社会の全体像

図1 デジタル社会の全体像

1.デジタル技術・産業基盤の強化

①半導体 ~DX、GX、経済安全保障の3つ支える基盤~

加速度的にデジタル化が進展していく世界では、副作用として電力需要が爆増しエネルギー不足等が懸念されています。デジタル化の推進は必至ですが、同時にカーボンニュートラルの実現(GX:Green Transformation)も必要で、その2つの課題を解決するのが半導体です。生成AIの発展に伴うディープフェイクの蔓延やサイバー攻撃からの政府機能防護など、半導体技術をはじめとしたデジタル技術の進展が狭義から経済安全保障まで直結しています。こうした半導体の重要性が米国をはじめ世界各国で強く認識されており、実際、各国において半導体の生産基盤を囲い込むため、異次元の支援策を実施しています。

日本としても先端性の高い半導体の確保は、不測の事態への備えとしての危機対応でもあり、DXやGXの推進など日本の経済成長の鍵を握る重要な技術でもあるため、極めて重要な課題です。

半導体産業への大胆な支援に舵を切るに当たり、1980年代に世界一の売上高を誇っていた日本の半導体産業が凋落した要因を分析し、半導体戦略(図2)を掲げ、2030年までの基本戦略を描いています。イノベーションを加速するうえでミッシングピースになっている、先端半導体分野の製造基盤整備にも力を入れています。この戦略に基づいて法律改正や大規模な財政支援を講じてきた結果、熊本のTSMC(台湾の半導体受託製造企業)工場のような複数の大規模プロジェクトを実現するなど、供給力の確保と最先端半導体の開発等も視野に精力的な支援を行うことで、日本の半導体産業復活を目指します。

図2 我が国半導体産業復活の基本戦略

図2 我が国半導体産業復活の基本戦略

国際連携

半導体に関しては、積極的な企業誘致やAI活用に必要な半導体の設計、高度人材の育成、投資促進策など、さまざまな観点から総合的に取り組んでいますが、一番大きな肝となるのが国際連携だと考えています。サプライチェーンの強靭化や研究開発の促進には、同盟国や有志国・地域との連携が不可欠です。日米間でも首脳・閣僚レベルで半導体に係る協力が進展しており、2022年7月に開催された日米経済政策協議委員会では、日米共同研究開発の推進に合意し、日本は研究開発組織として日本版NSTC※2も立ち上げ、さまざまな国と連携を進めています。

2023年5月には、海外企業のトップと首相、経済産業大臣が意見交換を行ったほか、11月にはAPECにおいてAI・半導体分野の海外企業8社トップと意見交換会を行うなど、政策方針が大きく変わり、今、日本の半導体産業の潮目が変わっていることを実感しています。今の動きを断ち切らないよう、予算、税、政策のあらゆる面から後押しをしていきます。

  • NSTC:米国の国立半導体技術センター

②蓄電池

蓄電池は、デジタル社会の基盤を支える重要技術です。蓄電池・部素材の設備投資に対する大規模な支援を通じ、2030年に向けて、現在主流の液系リチウムイオン電池の国内製造基盤を確立するとともに、全固体電池の本格実用化に向けて技術開発を推進します。また、上流資源を有するカナダ、オーストラリア等と協定を締結するなど、同志国・資源国との連携を強化しています。

人材育成の面では、投資拡大に伴い、関西近辺において今後5年間で約1万人の雇用が見込まれております。それを踏まえ、2022年に立ち上げた産学官のコンソーシアムでは、工業高校や大学院生等から社会人までバッテリー人材の育成、確保の取組を進めております。

また、蓄電池のサプライチェーン全体にわたるサステナビリティの確保が極めて重要なポイントとなります。適正なリユース・リサイクルのシステム構築、カーボンフットプリント(CFP)の算定方法の策定、人権・環境デュー・ディリジェンスの実施方法の構築等の取組も進めています。

③情報処理基盤(AI/コンピューティング)

オンプレミス環境からクラウド環境へと変化していく中で、かつてはメインフレーム市場で約4割を誇っていたわが国のシェアが、クラウド主流となった現在は2.6%まで下落し、コンピュータサービス領域での貿易赤字は拡大を続けています。マクロでの経済的なインパクトを考えれば、国内の情報処理基盤の整備は必須です。

また、今後のゲームチェンジャーと考えられるAIの基盤モデルの発展に関しても、日本としていかに計算資源と呼ばれる次世代計算環境の整備ができるのかが課題となります。米国西海岸の企業・サービスの成功モデルを参考に、ユーザーからのフィードバックをしっかり得ながら、情報処理能力の量・質ともに高度化させ競争力をあげていくことが重要です。

圧倒的に不足しているAI用計算資源の国内整備を強化し、スタートアップを含む競争力のある生成AI基盤モデルの開発には加速支援を行い、利活用の促進、データホルダーとAI開発者のマッチングなどコミュニティ形成に必要な環境整備等にも注力していきます。具体的には「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」プロジェクトを立ち上げ、2024年2月2日に採択者含め発表※3しました。

AIの開発・利用を促進するためのルールメイキング

2023年5月のG7広島サミットでは、日本がイニシアチブをとり「広島AIプロセス」が立ち上がりました。その後、総務省が中心となって議論が進み、2023年12月には「広島AIプロセス包括的政策枠組」として首脳級で最終合意に至っています。

国内に関しては、既存のガイドラインを統合・アップデートしたAIに携わる開発者、提供者、利用者共通のガイドライン(図3)を総務省、経済産業省で取りまとめ、パブリックコメント(2023年2月19日で終了)を経て、3月に公表する予定です。

図3 AIのルールメイキング(AI事業者ガイドライン、各主体の取り組む主な事項)

図3 AIのルールメイキング(AI事業者ガイドライン、各主体の取り組む主な事項)

AIの安全性評価手法の確立

AIのルールに関する議論の中で、今後大きな課題となるのが安全性の評価です。2023年、英国及び米国でAIに関する安全性の評価手法を確立するための機関「AISI(AIセーフティ・インスティテュート)」が立ち上がりました。日本でも、岸田総理から「AISI」設立の指示を受け、2024年2月1日にIPAに日本版「AISI」※5を設立する旨を発表しました。

2.デジタルライフライン全国総合整備計画の策定・推進

デジタルライフラインの概要

産官学が連携してデジタル技術を社会実装し、日本全国で恩恵を感じていただくことが整備計画を策定する目的です。具体的には、「アーリーハーベストプロジェクト」と題し、3つの分野で先行的な取り組みを開始(図4)し、変革の第一歩を目に見える形で示しています。各省庁連携の下、具体的な地点やプレイヤーを特定し、2024年度から社会実装を開始する予定です。

図4 デジタルライフライン全国総合整備計画(アーリーハーベスト)

図4 デジタルライフライン全国総合整備計画(アーリーハーベスト)

3.デジタル人材育成・デジタルトランスフォーメーション

デジタル人材基盤:デジタル人材育成の政策体系

経済産業省では、世界をリードするトップ人材を育成する事業として「未踏事業」を20年以上前から行っており、現在の修了生は2000人を超えています。この事業の拡大、横展開により、育成人数を2027年度までに年間70名から年間500名に拡大する予定です。また、ボリュームゾーンの人材育成として、2022年度から2026年度までにデジタル技術を活用し付加価値を生み出すデジタル推進人材230万人の育成を目標に掲げ、2023年度は目標約35万人に対し上半期のみで約31万人を達成させるなど、網羅的なデジタル人材の育成に注力しています。

また、生成AI時代の人材育成という点においては、公開しているデジタルスキル標準を2023年8月に改訂し、生成AIの適切な利用に必要となるマインド・スタンス及び付随するリスクなどについての文言を追加しました。ビジネスパーソンに求められるスキルの変化にも対応しています。

民間企業等が提供する講座をデジタルスキル標準に紐づけて提供するポータルサイト「マナビDX(デラックス)」もDX人材の育成、ビジネスパーソンのリスキルにお役立ていただければと思います。

中堅・中小企業等のDXにおける目指すべき姿

大企業やグローバル企業などDX先進企業においては、DX銘柄の選定やDX投資促進税制などによる支援を行っていますが、課題は中堅・中小企業のDX化の促進です。地銀、信金など地域の支援機関による伴走が不可欠なため、地域の支援機関と企業側が連携を強化し、DXを通じた企業価値の向上と地域全体の持続的な発展につながる好循環を目指すべく注力をしています。

業界横断のDXに向けたデータ連携基盤(データプラットフォーム)の構築

社会全体でDXを促進するためには、業界横断のデータプラットフォームの構築が不可欠です。世界では、それぞれの特性に応じて最適化されたモデルが構築されつつありますが、日本としても官民協調の下、業界の垣根を超えた、またグローバルとも連携可能なデータプラットフォームの構築が急務となります。このため、オープンで寡占がなく域外の巨大プラットフォーマーとも連携するエコシステム(Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム))(図5)の構築に取り組んでいます。

図5 ウラノス・エコシステムの今後の展開

図5 ウラノス・エコシステムの今後の展開

4.IPAの機能強化

IPAとは、安全で利便性の高い“頼れるIT社会”の実現のため、情報処理の促進、情報セキュリティ対策の強化及び優れたIT人材の育成等を行う独立行政法人です。2023年6月、デジタル社会の実現に向けた重点計画が閣議決定され、NIST(米国国立標準技術研究所)も参考にデジタル戦略等における基準・標準作成機関として位置付け、経済安全保障の観点も踏まえたデジタル産業基盤の強化及びデータ駆動型の新産業創出をリードするための機能強化を検討することとしており、今まさに制度的手当の整備等の改革に向けて邁進しています。

5.国際展開

DFFT

データの越境移転時の課題解決につながるDFFT(Data Free Flow with Trust)の具体化に向けて、IAP(DFFT具体化のための国際枠組み:Institutional Arrangement for Partnership)をOECDの下に立ち上げ、プロジェクトベースでデータの越境移転を後押しする活動も行っています。

CBPR(越境プライバシールール)システム

個人データの越境移転を行う事業者に対して、適切な保護水準の確保をもとめる仕組みとしてAPEC域内で始まったCBPR(図6)ですが、2022年4月には米国主導でグローバル化するための新たな運営組織グローバルCBPRの設立が宣言され、2023年6月にはAPEC加盟国外から初めて英国も準会員として参加することが承認されました。日本では一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が認証機関としての役割を担っています。事業者がデータを越境移転する場合の各国のルールがばらばらで煩雑であること、また、それによる法務部門等バックオフィスのコスト増加等も考えると、今後、CBPRの認証を受けることで効率化されるメリットをよくご理解いただき認証を受けることもご検討いただきたいと思います。

図6 CBPR(越境プライバシールール)システム概要

図6 CBPR(越境プライバシールール)システム概要

労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針について

現政権において、賃上げをどのように行っていくかは極めて重要な課題です。賃上げの実現には、労務費の適切な転嫁がサプライチェーン全体で認められる必要があります。現状を見ると、情報サービス業では労務費の割合がコストの約6割弱と非常に高い状況にある一方、サプライチェーン全体に対する転嫁は6割弱が要請すら出来ていない状況(図7)です。

2023年11月、2024年1月に開催した政労使会議では、労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針に基づいて、発注者、受注者双方が採るべき、求められる行動の徹底を産業界にお願いをしています。労務費の転嫁、それによる社会全体での賃金の上昇を目指していきますので、ぜひご確認いただきご協力をよろしくお願いいたします。

図7 労務費の転換の状況

図7 労務費の転換の状況

本内容は、2024年2月2日に開催されたJIPDECセミナー「令和6年度 経済産業省デジタル関連施策について」講演内容を取りまとめたものです。

講師
経済産業省 商務情報政策局総務課 政策企画委員 神田 啓史氏

2007年に東京大学法学部を卒業後、経済産業省入省。
資源エネルギー庁電力・ガス事業部、特許庁総務課、内閣官房、原子力損害賠償支援機構出向、留学(コロンビア大学大学院)、経済産業政策局経済産業再生課、大臣官房秘書課、製造産業局自動車課、大臣官房政策企画委員、22年7月より現職。

講師写真:木村 一輝氏