一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2023.01.19

レポート

2022年秋期 OECD CDEP(デジタル経済政策委員会)会議レポート

JIPDEC 電子情報利活用研究部 主席研究員 水島 九十九

1.はじめに

OECD(経済協力開発機構)は、2000名を超える専門家を抱える世界最大のシンク・タンクである。38カ国のOECD加盟国は、世界中の国々や関係機関と協力して、経済や社会の発展のためデジタル経済政策の構築に取り組んでいる。60年に及ぶ経験と知見を活用して、国際協力の中心的役割を果たし、世界100カ国以上で改革の推進と定着に向けた支援が行われている(*1)。

2022年9月27日から12月16日に、第87~90回のOECD CDEP(デジタル経済政策委員会)と関連する作業部会が開催された。また今回は6年ぶりに、2022年12月14日から12月15日にスペインで「OECDデジタル経済閣僚会合」が行われた。最終的に閣僚会合の成果物としてOECD閣僚宣言などが採択された。OECD BIAC(経済産業諮問委員会)の日本代表委員として会議に参加したので、以下の通りご報告する。

2.OECD CDEP(デジタル経済政策委員会)

OECD CDEP は、ICT(情報通信技術)の発展のため、重要な課題に対する必要な政策及び規制環境の促進について議論を行う委員会である。1982年4月にICCP(情報コンピュータ通信政策委員会)として設立しており、約40年の長い歴史を持つ。各国政府は、情報通信政策の動向や施策について情報共有し、オープンで国際的な議論を行っており、その成果は様々な勧告やガイドラインとして公表されている。

OECD CDEPの下部機構として5つの作業部会があり、専門的な議論が行われている。今年度からAI政策とガバナンスを議論する会議体として、WP AIGO(AIガバナンス作業部会)が新設された。各作業部会の主な活動テーマは下記の通りである (*2)。

1

WP CISP(通信インフラ・情報サービス政策作業部会)
情報通信インフラやサービスに関する政策分析及びベストプラクティスの共有、インターネット・通信と放送の融合・次世代ネットワークやブロードバンドの発展等における社会的及び経済的な分析等

2

WP MADE(計測分析作業部会)
情報通信産業における付加価値・雇用・取引及びデジタル技術の効果的な利用等に係る統計手法の開発、デジタル経済政策が経済成長・生産性・イノベーション等に与える影響の評価等

3

WP DGP(データガバナンス・プライバシー作業部会)
データの収集・管理・利用に関する課題の解決に向けたデータガンバナンス政策の発展や個人情報及びプライバシー保護の強化等を目的とし、ベストプラクティスの特定及び調査や、データガバナンス及びプライバシーに係る活動等

4

WP SDE(セキュリティ作業部会)
デジタルトランスフォメーションにおける信頼の確立及びレジリエンスの向上等に向けたデジタル・セキュリティ政策の発展等を目的とし、ベストプラクティスの特定及び調査や、OECD水準の普及及び実施に向けた活動等

5

WP AIGO(AIガバナンス作業部会)  ★2022年度新設
AIによる社会的・経済的影響及びリスクの分析・評価、インシデント報告のフレームワーク構築、AIガバナンスの構築、AI技術のトレンド分析になどの活動

以降では、①DFFT(Data Free Flow with Trust)、②WP AIGO(AIガバナンス作業部会)、③OECDデジタル経済閣僚会合について解説する。

3.DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)

前回会議から継続して、日本政府が提唱する「DFFT」について議論された。現在、多くの国々の法規制が包括的でない構造であるため、グローバルな法律の断片化と不確実性を生み出し、国境を越えて事業を行う企業にとって大きなリスクとなっている。世界的に非常に煩雑で、ますます複雑になってきており、国境を越えたデータフローにおける信頼が強く求められている。多様なコンプライアンス規制は、単なる形式的なものでなく、個人データ保護を強化することの意義を唱えている。

国境を越えたデータフローにおいて信頼を確保するために、様々な国際規制協力をベースにしたプラットフォームが要望されている。信頼を醸成して法的確実性を提供するため、各国にて継続的に国内政策を見直すことが必要であり、プライバシー協定のような取り決めも有効と考えられている。

また日本において、DFFTの専門委員会が立ち上げられたことが報告された。専門家グループは、企業や研究機関を含むデータ利用者が国境を越えたデータフローの課題を特定し、エビデンスベースによる解決策指向のアプローチを開発している。この研究成果により、課題に対する効果的な解決策を提供し、優先される政策領域について高いレベルの政治的コンセンサスを得ることを目指している(*3)。

OECD CDEPでは、国境を越えたデータフローを信頼できるものにするため、報告書やツールが公開される見込みである。
また、「DFFT」については、別のJIPDECレポートにて解説している(*4)。

4.WP AIGO(AIガバナンス作業部会)

OECD CDEPでは、2016年からAIに関する課題に取り組んでいる。2018年にマルチステークホルダーの専門家グループにより 「OECDのAI原則」が策定され、2019年5月に閣僚理事会は「AIに関する理事会勧告」を採択した。

今年度、「OECDのAI原則」を実装することを目指して、OECD CDEPの傘下に新たにWP AIGO(AIガバナンス作業部会)が創設された。これは、ONE AI(非公式のOECD専門家ネットワーク)のWG on AI policies(AI政策に関する作業部会)が移行して新設された会議体である。非公式であった専門家グループが正式化されることとなった。

WP AIGOの役割は、AI政策とガバナンスに関する作業計画を策定し、監督・支援することである。各国のAI政策と行動計画の策定、モニタリングやAIインパクトの評価、アカウンタビリティのあるAIアプローチの策定、OECD AI Policy Observatoryによる関連情報などの提供を行っている(*5)。

WP AIGOの傘下では、以下の3つの専門家グループが活動している。

■WP AIGO傘下の専門家グループ

WG1

AIシステムのリスク評価するためのフレームワークと、AIのインシデントなどを追跡するためのフレームワークを開発

WG2

信頼できるAIのためのツールを開発し、AIシステムが信頼できるように適切に機能するためのアカウンタビリティを確保するための実践的ガイダンスを作成

TF

AIコンピューティングなどに関して、各国のAIコンピューティング能力を測定し、ベンチマークするためのフレームワークの作成

WP AIGOの活動では、OECDのAI原則の普及に向けて、国際的な専門家やステークホルダーにより、主なテーマとして以下の議論が行われている。
 - 国際的な相互運用性を考慮したAIリスクの管理手法やツールの開発
 - AI関連のインシデントをモニタリングし、情報共有のためのフレームワーク構築
 - 信頼できる倫理的で人間中心のAI利用、有効なAIガバナンスの構築とリテラシー向上
 - AIに関する法制度や規制が過度に広汎に渡らないための施策検討

5.OECDデジタル経済閣僚会合

2022年12月14日~15日に、OECDデジタル経済閣僚会合「OECD Digital Economy Ministerial Meeting」が、スペインのグラン・カナリア島にて行われた。本会合は1998年のカナダ・オタワ、2008年の韓国・ソウル、2016年のメキシコ・カンクンに続き4回目の開催となる。今回は、「信頼性のある、持続可能で、包摂的なデジタルの未来の構築による、長期的な復興及び経済成長の促進」を主テーマとして、以下の4テーマが協議された (*6)。

■OECDデジタル経済閣僚会合の4テーマ

テーマ1

国際経済におけるデジタルイネーブラー
①オンライン・プラットフォーム、②国境を越えたデータの流れ、③デジタル・セキュリティという3本柱について、いかに成長と繁栄をもたらすか、またそれらのリスクや課題に取り組む。

テーマ2

より良い社会の構築
DXは社会のあらゆる側面に影響を及ぼし、社会の繁栄、新たな経済的機会、包括性に対して大きな期待を抱かせるものであり、その社会的側面に対処する。

テーマ3

DXにおける人間中心の考え方
DXが進む中、デジタル環境が人々にもたらす多大な恩恵と潜在的なリスクの両方について検討し、消費者、特に児童などに共通する現状や影響を検討する。

テーマ4

AIと新興技術
AI利用におけるプライバシー、安全性、自律性、平等性などに対するリスクや改善策、また新しい技術に対する課題に取り組む。

今回のデジタル経済閣僚会合では、デジタル経済分野の近年の進展や課題について議論がなされた。最終的に2つの閣僚宣言が採択され、更に複数のデジタル・セキュリティに関する宣言が承認された(*7)。

【1】信頼性のある、持続可能で、包摂的なデジタルの未来」に関する閣僚宣言(*8)

DFFTや信頼できるAI、次世代インフラ開発に向けた課題認識や方向性がとりまとめられた。主なポイントは以下の通りである。
 -デジタル化が、包摂的な経済及び社会の繁栄などに貢献し、世界的な課題に取り組む。DXを加速することにより、もたらされる機会を捉え、リスクを軽減する。
 -デジタル政策に関する人間中心で、包括的で、実行可能かつ持続可能なアプローチを形成し、推進することにより、マルチステークホルダーによる分野を超えた国際的な協力を図る。
 -オープンでグローバル、相互運用可能で信頼性が高く、安全にアクセスできるインターネットなど持続可能なデジタル環境を促進する。
 -デジタル政策などの知識や経験を共有し、グッドプラクティスを特定し、人間を中心とした、信頼性のある、持続可能なデジタル政策基準やガイダンスを開発する。

【2】信頼性のあるガバメントアクセスに関する高次原則に係る宣言(*9)

DFFTを脅かす新たなリスクへの対応として、民間部門が保有する個人データに対するガバメントアクセスについて議論された。主なポイントは以下の通りである。
 -個人データの国際的な移転において、信頼性のある自由なデータ流通へのコミットメントを高める。
 -共有する民主的価値と法の支配へのコミットメントの重要性を理解する。
 -データの国境を越えた流通が保護措置における法的枠組みにおいて、データの国境を越えた流通を促進する。
 -民間部門が保有する個人データへのガバメントアクセスに関して、7つの原則を規定する(法的根拠、正当な目的、承認、データの取扱い、透明性、監督、救済)。

6.おわりに

今回6年ぶりに開催されたOECDデジタル経済閣僚会合では、2021 年の OECD 設立 60 周年ビジョン・ステートメントである「グローバルな協力への信頼:今後 10年に向けたOECDのビジョン」が再確認された。デジタルやデータ主導の時代において開かれた社会を支援するため、デジタル化の課題への対応を図り、自由なデータ流通を促進することが示された。

OECD CDEPでは、デジタル経済に関する政策課題、デジタル化が社会・経済に与える影響等について議論が行われた。また各作業部会ではデジタル政策における様々な問題点や解決策などが協議された。世界の専門家による議論は、その最先端のアプローチを把握するためにも極めて重要であると認識している。

JIPDEC 電子情報利活用研究部 主席研究員  水島 九十九

- 個人データ保護法制等の国際動向調査、プライバシー対応の調査・研究など
- ISO/PC317「Privacy by Design」 日本国内審議委員会事務局長
- APEC CBPR認証審査、Global CBPR制度の立ち上げ
- 認定個人情報保護団体事務局メンバー

■協会外の主な活動
- OECD BIAC(経済産業諮問委員会)日本代表委員
- 経団連 「デジタルエコノミー推進委員会企画部会」 メンバー
- JEITA「個人データ保護専門委員会」 客員、JISA 「国際委員会」 オブザーバー
- CFIEC 「DX推進事業」 TF2委員、 電子情報通信学会 「倫理綱領検討WG」 委員
- APEC CBPR認証審査員、 プライバシーマーク審査員、 ISO/IEC 27001審査員補