情報ライブラリー

1.はじめに

 センサーやビッグデータ解析等の技術進化により、現実社会を情報(データ)という形でサイバー空間に写し取り、モデル化されたノウハウや経験・知見を活用する試みが、多方面で行われている。また、それらの情報(データ)を自由に組み合わせることで新たな気づきや発見を得ることにより、現実社会で新たな価値を生み出すIoT(Internet of Things)によるイノベーションが近年、加速している。急速に進化しているIoTの活用は、社会インフラの効率化や、高付加価値化にも有効である。
 当協会は、2015年10月~2019年4月まで、IoT推進コンソーシアムの下、経済産業省及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等が推進する、「先進的モデル事業推進WG(IoT推進ラボ)」の事務局を務め、先進的IoTプロジェクトの発掘・育成に向けて、企業連携・資金・規制改革支援を実施してきた。
 IoT推進ラボは、IoT・ビッグデータ・AIに関するプロジェクトの立ち上げ期に、各企業の取組を目に見える形で官民双方から支援し、後押しすることで、先進的なIoTプロジェクトの創出や社会実装に向けた環境整備を行うという当初掲げたミッションを概ね達成したと評価され、2019年4月、改組を行うこととなった。今後は、IoT・AI・ビッグデータ等に関する共創・連携に向けた地域の交流・情報共有・ネットワーク形成を推進する「地方版IoT推進ラボ」を中心として活動が推進される(事務局:独立行政法人情報処理推進機構(IPA))。
 本稿では、改組までの、3年間のIoT推進ラボの取組における主な活動を紹介する。

2.IoT推進ラボとは

 2015年当時、米国のIIC(Industrial Internet Consortium)1 やドイツにおけるIndustry4.02の動きにみられるようにIoT時代に対応した新たな生産プロセスの開発やサプライチェーン全体の最適化を目指して、官民を挙げた取組が各国で本格化していた。こうした中、日本においても「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命-」(2015年6月30日閣議決定)に基づき、IoT・ビッグデータ・AI時代に対応し、企業・業種の枠を超えて産官学でIoT・ビッグデータ・AI等に関する取組を促進すべく「IoT推進コンソーシアム」(会長:慶應義塾大学 村井純氏)が2015年10月27日に設立された。IoT推進コンソーシアム配下には、ネットワーク等のIoT関連技術の開発・実証、標準化等を進める技術開発WG(スマートIoT推進フォーラム)、先進的なモデル事業の創出、規制改革等の環境整備を行う先進的モデル事業推進WG(IoT推進ラボ)、その他、セキュリティやプライバシー関連など課題に応じて設置される専門WGが設置され、活動が開始された。


1 IIC(Industrial Internet Consortium):AT&T、CISCO、GE、IBM、Intel米国5社を創設メンバーに、2014年3月に設立。産業市場におけるIoT関連の産業実装を推進していくことを目指す。
2 ドイツ政府が推進する製造業のデジタル化・コンピューター化を目指すコンセプト、国家戦略的プロジェクト。


図表1 IoT推進コンソーシアムの体制(2019年3月時点)

図表1 IoT推進コンソーシアムの体制(2019年3月時点)



 IoT推進ラボは、先進的なモデル事業の創出、規制改革等の環境整備を目的に、資金支援、規制改革・標準化等の支援、企業連携支援等を通じて、個別企業による尖った短期プロジェクトや、社会実装を見据えた複数企業による中長期プロジェクトを支援してきた。IoT推進ラボの運営や取組に対するアドバイス等を行うIoT支援委員会(座長:株式会社経営共創基盤・冨山和彦氏)3を設置し、産学の有識者から、意見をいただきながら活動が進められた。会員数は、2019年4月19日時点で、3203社(団体)となった4
 IoT推進ラボの活動の広がりを下図に示す。各プログラムは、いずれも資金支援、規制改革・標準化等の支援・企業連携支援のいずれかを行うものとして位置づいている。
 IoT推進ラボで代表的な取組は「IoT Lab Selection(先進的IoTプロジェクト選考会議)」(下図①)と呼ばれるコンテストである。設立から3年半の間に計6回開催し、先進的なプロジェクトを目に見える形で選定・表彰をするとともに、選出されたプロジェクトに対して資金支援・規制支援を実施してきた。
 また、中長期のプロジェクトに対しては、テーマ別に複数企業による中長期的実証を行う「テストベッド実証」(下図③)も実施された。
 企業連携支援に関しては、「IoT Lab Connection」(下図②)と呼ばれるマッチングイベント(個別商談やピッチプログラム、ブース展示など)を、テーマ別に計8回開催した。また、企業等から提供されたビッグデータとそれを活用したデータ分析課題をもとにアルゴリズム開発競争をオンラインで実施する「ビッグデータ分析コンテスト」も、人材と企業の連携促進の観点から計4回開催された(下図②-1)。更に、海外のスタートアップ企業と国内企業のビジネスマッチングを行う「Global Connection」(下図②-2)も計3回、実施された。
 このようにIoT推進ラボの取組は多岐に渡ったが、「IoT Lab Selection」の最終プレゼン審査(公開)・表彰式、「IoT Lab Connection」のビジネスマッチング・プレゼンマッチング・ブース展示、「ビッグデータ分析コンテスト」の表彰式などは、同時開催のイベントとして集約し、『IoT推進ラボ合同イベント』として大規模に開催され、参加者は1日で多様な情報収集を行うことが出来た。毎回、関係者を含めると500名を超える皆様に参加いただいてきた。
 その他、IoTビジネスの創出を推進する地域の取組を選定する「地方版IoT推進ラボ」(下図④)、国内企業のIoT分野でのグローバル展開を促進するため、海外のIoT関連団体との連携を進める取組も推進された。


3 IoT支援委員会のメンバーは以下のとおり:
https://iotlab.jp/jp/supportcommittee.html
4 2019年4月19日の組織の改組をもって、IoT推進ラボは会員制度を廃止している。


図表2 IoT推進ラボの活動概要

図表2 IoT推進ラボの活動概要

3.IoT推進ラボの主な活動概括

 本稿では、IoT推進ラボの主な取組である、IoT Lab Selection(先進的IoTプロジェクト選考会議)、IoT Lab Connection(企業連携・案件組成イベント)、ビッグデータ分析コンテストについて紹介する。

3.1 IoT Lab Selection(先進的IoTプロジェクト選考会議)
 IoT推進ラボでは、政府関係機関、金融機関やベンチャーキャピタル等と連携し、「①成長性・先導性、②波及性(標準化・社会実装化等)、③社会性(社会課題の解決)、④実現可能性」の観点から、優れたIoTプロジェクトを産学の有識者の審査のもと選定してきた。選定されたプロジェクトは『IoT推進ラボ合同イベント』で表彰するとともに、資金支援やメンターによる伴走支援、規制改革・標準化に関する支援が実施された。
 2015年10月の設立以後、2019年3月までの計6回の実施で、支援対象となるファイナリストとして、計54プロジェクトに上った。

図表3 IoT Lab Selection の表彰までのフロー(第6回実施時)

図表3  IoT Lab Selection の表彰までのフロー(第6回実施時)

図表4 IoT Lab Selection の様子(第6回実施時)

図表4 IoT Lab Selection の様⼦(第6 回実施時)

 ファイナリストには、先進的にIoT・AI・ビッグデータの利活用に取り組む、スタートアップ企業から大企業の新規事業部門まで、様々なプロジェクト5が選出された。例えば、指紋による訪日観光客の個人認証に取り組む株式会社Liquid6、体内時計を可視化して睡眠を改善し生産性を向上させるサービスに取り組む株式会社O:(オー)7などが、過去にグランプリを受賞している。
 ファイナリストに対しては、規制支援、資金支援、伴走支援など各種支援が実施されたが、特徴的であったのは規制支援であろう。規制に関しては、急速にIoT・AI・ビッグデータの利活用が進む中で、既存の法制度で定められた事項(例えば、「旅券の呈示」や、「帳簿」の整備など)について、「電子的に行う」ことが認められるかどうかが法文上明記されておらず、それがプロジェクト推進のハードルとなっているケースが見受けられた。
 事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても、安心して新事業活動を行うことができるよう、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度である、「グレーゾーン解消制度」などを活用して支援が進められた。
 具体的な例としては、2017年7月に第2回グランプリに輝いたユニファ株式会社のプロジェクト等がある。ユニファ株式会社は、「園内見守り業務のデジタル化支援」のプロジェクトを提案し、社会問題となっている保育士不足の問題を解決し、少人数で経験の浅い保育士でも園児を安全に見守ることができる保育園向け業務支援を、スマートフォン・センサー・ロボット等のテクノロジーを駆使することで実現、業務負荷の大きい手書き書類のデジタル化(お便り帳・午睡チェック表・検温表等)や体調悪化・死亡事故を未然に防ぐ園児の見守り業務支援のサービスを目指していた。
 規制に関連する点として、保育所で預かる園児の健康管理に関する情報を電子化し、保育士や保護者等が、当該電子的記録をアプリ上で確認できる保育支援アプリを保育所に提供する場合、その電子的記録が児童福祉法上の「帳簿」に該当し、当該保育所が児童福祉法上の基準を満たすか否かについて、当時明らかではなかった。そこで、「グレーゾーン解消制度」を活用し、事業所所管である経済産業省と規制所管である厚生労働省で検討された結果、上記の電子的記録が児童福祉法上の「帳簿」に該当し、児童福祉法上の基準を満たすと確認できたため8、新規プロジェクトの推進につながった。
 今後IoT・AI・ビッグデータの利活用が益々進み、新しいサービスが創出されていくについて、似たように壁にぶつかるケースも出てくるのではないかと思われる。お困りの方は経済産業省の「グレーゾーン解消制度」窓口へ、ぜひお問い合わせいただければと思う。9


5 IoT Lab Selectionのファイナリスト企業のプロジェクト概要は以下を参照のこと。
・第1回ファイナリストプロジェクト概要(ファイル全体の22 スライド〜39 スライド)
https://iotlab.jp/common/pdf/160215_distribution_j.pdf?date=1602172103
・第2回ファイナリストプロジェクト概要(ファイル全体の41 スライド〜55 スライド)
https://iotlab.jp/common/pdf/161206_distribution_j.pdf?date=1612211700
・第3回・第4回ファイナリストプロジェクト概要(ファイル全体の39 スライド〜53 スライド)
https://iotlab.jp/common/pdf/180131_distribution_j.pdf
・第5回ファイナリストプロジェクト概要(ファイル全体の30 スライド〜38 スライド)
https://iotlab.jp/ConferenceRoom/article/file/180925_distribution_j.pdf
・第6回ファイナリスト+特別賞プロジェクト概要(ファイル全体の17 スライド〜25 スライド)
https://iotlab.jp/common/pdf/190318_distribution_j.pdf
6 株式会社Liquid: https://liquidinc.asia/
7 株式会社O: https://o-inc.jp/
8 「保育所における健康管理資料の電子化に係る児童福祉法の取扱いが明確になりました~産業競争力強化法の「グレーゾーン解消制度」の活用~」(2016年11月6日)
https://www.meti.go.jp/press/2016/11/20161107002/20161107002.pdf
9 プロジェクト型「規制のサンドボックス」・新事業特例制度・グレーゾーン解消制度
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/


 IoT Lab Selectionのファイナリスト企業の活躍は、多方面で進んでいる。IoT推進ラボの取組とは別途、2018年6月より、経済産業省新規事業創造推進室により、世界で戦い、勝てるスタートアップを創出することを目的に官民で集中支援を実施する「J-Startup」施策が始動した。この施策は、トップベンチャーキャピタリスト、アクセラレータ、大企業のイノベーション担当などが、日本のスタートアップ企業約10,000社の中から一押し企業を推薦し、厳正な審査で「特待生(J-Startup企業)」を選定し、様々な支援を官民で行うものだが、IoT推進ラボが支援を行ったファイナリスト企業であるスタートアップ4社も、この「J-Startup企業」としても選定されている(下表参照)。

図表5 J-Startup選定企業
企業名
プロジェクト概要
株式会社Liquid 指紋のみで短時間に個人認証を可能とする生体認証システムを開発。(第1回IoT Lab Selectionグランプリ)
株式会社ルートレック・ネットワークス 点滴栽培において、水や液肥の与え方を最適に制御するシステムを産学連携により開発。(第1回IoT Lab Selection準グランプリ)
株式会社ABEJA IoT化を進める様々な産業で活用可能な人工知能データ分析プラットフォームを開発。(第2回IoT Lab Selectionファイナリスト)
株式会社O: 非侵襲型で世界初の体内時計を可視化できる腕時計型デバイスを開発。(第4回IoT Lab Selectionグランプリ)

 なお、IoT推進ラボでは、スタートアップ支援だけでなく、大企業などをはじめとした成熟した企業においても、優れた人材・技術・ノウハウが蓄積されており、その資源を最大限活用してイノベーション創出することが、日本全体の産業競争力強化には不可欠であるとの認識から、第6回IoT Lab Selection(2019年2月)の実施において「イントラプレナー賞」を新設した。イントラプレナー(intorepreneur)とは一般に「社内起業家」のことを指すが、IoT Lab Selectionでは、既存の組織内で、先進的な新規事業を牽引するイントラプレナー(組織内の既存技術・リソース等を、新たな分野に転用したり、組織外のスタートアップ等との直接的な連携を行ってイノベーション創出を進めている人材)や、既存組織での技術を活用して立ち上げた新規事業を元に、スピンオフ、カーブアウト、スピンアウトなどの形で新たな組織内でイノベーションを推進する人材などを見える化し、既存組織内のリソースの活用促進を目指したものである。
 イントラプレナー賞には、SBイノベンチャー株式会社のプロジェクト「conect + project」10が選ばれた。同社は、社内起業家を発掘・育成を推進するソフトバンクグループの社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」で事業承認を受けたプロジェクトで、大企業でありながら大企業とは違ったスピード感のある開発・プロジェクトの推進を実践し、多様な企業と協業している。IoTアプリをノンプログラミング・デザイン力不要で生成できるサービスを提供している。
このプロジェクトや、第6回IoT Lab Selectionで設定したイントラプレナー賞の趣旨自体が、様々に参照され、今後多くの企業にイントラプレナーの取組が波及することを期待している。


10 「Conect+」 https://www.conect.plus/

3.2 IoT Lab Connection(企業連携・案件組成イベント)
 IoT推進ラボ設立当時、既存のビジネスモデルの変革が迫られる中、自前主義に陥ることなく、他社とも積極的に連携して、広がりあるプロジェクトの創出を目指す必要性が益々高まっていた。IoT推進ラボでは、ビジネスマッチング(各社希望に応じ1社対1社の個別ミーティングをアレンジするイベント:写真左)、プレゼンマッチング(先進的な取組を行う企業からのピッチイベント:写真中央及び右)、ブース展示(地方版IoT推進ラボなどからのブース出展)などを行うIoT Lab Connectionを計8回開催してきた。

図表6 IoT 推進ラボ IoT Lab Connection の様子(第8回実施時)

図表6 IoT推進ラボ IoT Lab Connectionの様子(第8回実施時)

 各回は異なるテーマを設定して開催された(下図参照)。また、ビジネスマッチングのイベントにも、毎回100を超える企業・団体からの参加があった。

図表7 IoT Lab Connection のテーマ、参加団体数、ミーティングアレンジ数等
       
回次 日付 テーマ 参加団体数 ミーティングアレンジ数
第1回
2016年1月28日
観光、製造(スマート工場)
190
550
第2回
2016年7月31日
ヘルスケア(医療・健康)・スポーツ、物流・流通・インフラ
183
518
第3回
2016年10月4日
スマートホーム、モビリティ
135
454
第4回
2017年3月13日
フィンテック、教育、農業(食品)
131
461
第5回
2017年7月25日
働き方改革・シェアリングエコノミー
139
534
第6回
2018年3月6日
エンターテインメント、リスクマネジメント、AI
173
573
第7回
2018年9月18日
スマートライフ
108
352
第8回
2019年2月27日
2030年の街づくり
120
441
合計
1179
3883

 2016年~2017年における実施では、IoT・AI・ビッグデータの活用により、産業分野を越えたクロスインダストリーへの挑戦が、新たなビジネスを生む機会となることを期待し、13の産業分野11を対象に、1回の開催につき複数の産業分野をテーマに取り上げ、異業種との交流を図ってきた。2018年以降は、テクノロジーを活用して暮らしや街に具体的にイノベーションを起こすことを目的に、分野を問わず様々な技術・サービス・ソリューション・ユーザ/顧客基盤・フィールドを持つ事業者がネットワーキングを推進できるよう、「スマートライフ」(第7回)、「2030年の街づくり」(第8回)とテーマを設定してイベントを開催した。

図表8 「2030年の街づくり」イベント時のプレイヤー概念図

図表8 「2030年の街づくり」イベント時のプレイヤーー概念図

 ビジネスマッチングは、参加企業(団体)に、テーマに係るニーズや、自社が保有するシーズ(技術、顧客基盤、実証フィールド、提供サービスなど)を事前登録してもらい、参加企業内で、どの企業とのミーティングを希望するかを事務局へ連絡。事務局の事前アレンジにより、イベント当日に複数の個別ミーティングを行うイベントである。第1回~第8回の延べ数で1179企業(団体)が参加、イベント内でアレンジした個別ミーティングの数は計3883件、参加企業が1日のイベントで交流した企業数は平均7.8社、イベント後も交流を続ける予定の企業数は平均3.1社との回答を得ている12
 このイベントを契機に協業体制等が構築された例としては、保険会社と大学発のベンチャー企業がAIに関するアドバイザリ契約を締結し、共同でAIの開発に取組み、保険金支払い業務等への応用の検討が開始された例や、マッチングで出会った事業者等が立ち上げた取組を通じ、情報通信事業者、ものづくり企業、自治体など複数の関係者が業種・業態を超えて連携し、地方におけるIoT・AIの普及や地場産業の技術継承の取組として、地方版IoT推進ラボへ発展した事例も生まれている。


11 製造分野、モビリティ、医療・健康、公共インフラ・建設、エネルギー、農業、物流・流通、⾏政、産業保安、教育サービス、⾦融、スマートハウス、観光
12 各イベント開催直後のアンケート調査より。

 当初の実施では、各テーマに係る、IoTを活用した新しいソリューションを形にする、あるいは拡充するために、連携できる要素技術(端末・デバイス、クラウド等)を保有する企業間のマッチングを求める例も目立ったが、2017年頃から、個々のソリューションは形になっており、異なるサービス同士が、少し先の未来の暮らし、街などに新しい価値を創出・実装することを目指してマッチングを求める形が目立つようになった。2018年9月にイベント内で実施したディスカッションでも「IoTハードウェアを作っているというと「モノ」を作っていると思われがちだが、実際は、サービスとつながるインタフェースを作っているのに近い感覚」との示唆があった。サービス連携により新しい体験をどのように産みだしていけるかがIoT利活用のポイントのひとつであるといえる。
 また、顧客接点やビッグデータをもっており、企業連携によりデータのさらなる利活用や技術の活用による付加価値向上を求めている企業からの参加は、金融、家電、エネルギーなどの分野が先行しているように見えているが、直近のイベント実施においては、玩具、書店、建設、飲料分野など、業種・業態の多様化が進み、様々な分野で、IoT・AI・ビッグデータの活用に向けた機運が高まっていることが見て取れた。また、自社にオープンイノベーションのためのラボや、スタートアップと連携するためのキャピタルなどを設立する企業もみられ、企業連携のノウハウが各社内に蓄積し、深化していることも見て取れた。
 昨今、オープンイノベーションの機運も高まり、民間団体主催の大規模なマッチングイベントや、大企業とのマッチングを狙ったビジネスコンテスト等も増加した。今後は、民間主導の場で、高度なサービス連携・企業連携が益々推進されるものと考えられる。

3.3 ビッグデータ分析コンテスト
 IoT推進ラボでは、企業等から提供されたビッグデータとそれを活用したデータ分析課題をもとに、アルゴリズムの開発競争をオンラインで実施してきた。このコンテストでは、普段接する機会の少ない産業界の実際的な課題・データを対象に、データ分析を行うことにより、優秀なデータサイエンティストの発掘や、優れた分析者の技術からの学びによる人材育成効果を併せて目指したものである。

図表9 データ分析コンテストの様⼦(第4回実施時)

データ分析コンテストの様⼦(第4回実施時)

 過去4回のコンテストでは、「観光」「流通・小売」「電力・気象」「インフラメンテナンス・鉄道」がテーマとして取り上げられた。第4回のテーマ「インフラメンテナンス・鉄道」では、東日本旅客鉄道株式会社から提供されたデータをもとに、線路のゆがみ量予測及び鉄道に関するデータ活用の分析アイデアを競った13。また、優秀なデータサイエンティストの表彰式は、『IoT推進ラボ合同イベント』にて実施し、アルゴリズムやアイデアの概要を広く周知した。自社でビッグデータを保有しつつも活用について検討している企業の皆様にとっては、今回のコンテストで示された分析精度や多様なアイデアなど、データが生み出す豊かな価値を実感でき、利活用へ一歩踏み出すきっかけとなればと考えている。また、このようなコンテストをオープンに継続的に実施されることで、ビッグデータ利活用の機運をさらに高めていくことができるのではないかと考えられる。


13 第4回ビッグデータ分析コンテストの詳細はこちら: https://signate.jp/competitions/136

4.おわりに
 経済産業省が2017年3月に日本の産業が目指すべき姿(コンセプト)として発表した「Connected Industries」14の中では、横断的に進めるべき政策として、リアルデータの共有・利活用が挙げられ、ユーザ起点のデバイス側の強みを生かしつつ、リアルデータ獲得競争の中から抜きんでる「リアルデータでしかできない新サービス」の構築が目指されている。IoT推進ラボの取組を通じ、製造現場、ヘルスケアなどの分野で、日本が強みとしているリアルデータを計測するデバイス側の技術力や、リアルサービスの質の高さを起点に、AIも活用しつつ、自動化や予知を実現するプロジェクトが確実に表れており、取組が進められている。
 また、特に2018年度の実施の中では、IoT・AI・ビッグデータを活用した個々のソリューションが他のコネクテッドなサービスと連携するという方向性が次の一手として志向されているプロジェクトが多くみられたことが特徴的であった。例えば、「保育」「救命共助」「防犯」などの分野において、先進的なソリューションと、ウェアラブルデバイス、ドローン、ネット接続された住設機器などとのサービス連携が広がっていく方向性が示された。こういった動きが進むことで、生活や業務のそれぞれのシーンの利便性が益々向上することが想定される。また、そういった動きとも重なる部分があるが、他のサービスとの連携や社会実装に推進力を与える際に、「スマートシティ」の取組のように、ある地域にフォーカスして具体的なミッションを定め、仲間を集め、新たな取組を進めることは、生産性向上・効率化にとどまらず、生活において様々なデータ活用・サービス連携による新しい価値創出が可能となった今、改めて今後社会実装を進めていく推進力・求心力を高める方法として有効だと考えられる。
 2019年4月以後、IoT推進ラボの取組の中心となる「地方版IoT推進ラボ」施策を中心とし、IoT・ビッグデータ・AI等に関する取組の共創・連携に向け、地域の交流・情報共有・ネットワーク形成等を推進していくが、テクノロジーの社会実装に向けて重要な役割を果たすことができると考えられる。
 「地方版IoT推進ラボ」では、経済産業省・IPAが、地域における新たな価値創造に向けて、IoTプロジェクトを創出する取組を「地方版IoT推進ラボ」として選定し、ラボマークの使用権付与、ポータルサイト、ラボイベント等によるIoT関係者への広報、地域のプロジェクト・企業等の実現・発展に資するメンターの派遣について支援を行っている。各地からの応募は随時受け付けているのでホームページを参照いただきたい15

 なお、改組後も、これまでのIoT推進ラボの取組で選定されたプロジェクトに対する支援は継続される。今後、2015年から実施してきた官民連携で支援を実施したIoT推進ラボのユニークな取組が、どのような点で有用であったのかフォローアップ調査を行い、これからの施策にフィードバックすることが重要であることから、当協会はIoT推進ラボの3年間の活動に対し、今後約1年間フォローアップを実施し、IoTプロジェクトに係る課題や有効な支援の在り方を整理する予定である。


14 経済産業省「Connected Industries」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/connected_industries/index.html
15 地⽅版IoT推進ラボの⽀援内容:
https://local-iot-lab.ipa.go.jp/about_iotlab.html
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/local_iot-lab/index.html