一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2019.09.04

レポート

自治体所有資産の付加価値化に係る調査

JIPDEC 電子情報利活用研究部 客員研究員  前田 邦宏

1.行政のデジタル・トランスフォーメーションが生む自治体の新財源

我が国では、行政に係る業務とシステムをデジタルで再デザインすることで、行政手続におけるより簡易な手段での本人確認や申請情報のワンスオンリーの実現などを目指している。これらを実現することによって、事業者に求められる時間や手間を削減するとともに、行政システム・データとの連携を通じて、これまで組織内で分散していたデータを分析・活用できる環境を構築する『デジタル・トランスフォーメーション1』事業への取り組みを推進している。
当協会でも、行政の保有する情報資産のオープンデータ化の推進事業について、経済産業省や地方自治体、民間企業と検討を重ねてきた。特に地図や地点情報を立体的に捉えた情報空間についての意見交換を行い、自治体所有資産の付加価値を高めるための地点情報や付帯情報のオープンデータ化による事業可能性調査を行ってきた。自治体所有資産を使った媒体活用、具体的には自治体広告事業における媒体の地点情報やネーミングライツ(道路や橋、球場などに企業などが名前を使う権利)の対象となる施設の位置情報を地図上で可視化し、オープンデータとして公開することがそのひとつである。
これまでの地方自治体によるオープンデータに関する取り組みは、専門的な知識を持つ市民のボランタリーな協力を得て行う地域課題の解決、官民の協働事業として業務効率の向上を目的としたもので、地方自治体の収入に直接繋がる施策は少なかった。本調査で検討するオープンデータ化は、地方自治体の新財源による収入を促す事業可能性について着目し、オープンデータを通じた自治体財務改善という新しいモデルの確立の可能性を検討した。
さて、全国には、47都道府県・1718市町村があるが、自治体広告やネーミングライツの契約条件を一覧化した公式情報が整備されているところは殆どない。これは、自治体の財務諸表の費目には営業費も広告収入もなく、広告事業は利益を上げるものでなく、公共資産の有効活用による雑収入あるいは使用料という位置付けとなっているためである。
そこで、自治体広告事業の立ち上げプロセスの詳細情報を公開している横浜市や福岡市などの公開資料やヒアリングをもとに、どのような場所の施設に広告が設置可能であるか、ネーミングライツの対象となるかについて調査した。また、価格の妥当性や出稿動機については、自治体側のオンライン上で公募条件や契約成約のスポンサーとの相互のプレスリリースを突き合わせることで調査した。インターネット上の調査の結果、競技施設(球場や公園)・文化施設(ホールや科学館、美術館、プラネタリウム)・交通関連(歩道橋、市道の通り名、駅名、バス停名)、その他多くの媒体があり全国で800件以上存在することがわかった。


1 「デジタル・トランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)」は、スウェーデンのウメオ大学教授であるエリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した概念であり、その主張は、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という考えに基づいている。Transは日本語で“超”の意味で、英語圏でXと略される。

2.⾏政における業務効率化と各申請業務のワンストップ化の必要性

⾃治体所有資産の付加価値化において、施設や媒体を管理する所轄部署が異なっている点が課題としてある。例えば、街路灯は都市計画課や⽔道課、歩道橋ネーミングライツは道路課、花壇は公園課といったように、⾃治体広告やネーミングライツの取扱い窓⼝は⼀本化されていない。また、市町村ごとに窓⼝の名前も異なっている。更に、広告内容や⽤途⼟地によってデザインや内容の審査が必要となることがあり、申請⼿続きも煩雑となっている。
そこで⾃治体では、その業務を⺠間に業務委託しているところも多い。しかし、業務委託をするにあたり、⺠間の広告代理店にある媒体リストや現地写真や地図による位置表⽰、⼈流調査などの資料がそろっている⾃治体は少ない。このような状況では、⺠間で⾼く売れる場所にある広告枠も評価以下の値段で安価に売られてしまう可能性もある。調査の過程でも、某市が提⽰した年間10万円の看板設置場所を契約⺠間業者が100万円で売っているということを“誰かが損した訳ではないのだが”という前置きを付けた上で市⺠が通報した件や、市庁舎内に無料で設置していた⾃動販売機の設置料を設定しようとしたら競売で価格が⼤きく跳ね上がったことなどが起きていることがわかった2
これらの事態が起きる背景には、⾃治体所有の遊休施設や余裕空間を利活⽤する際の契約プロセス、価格の妥当性、及び付加価値向上のスキルが⾃治体に培われていないことが原因の⼀つとして考えられる。


2 公共施設が劇的に変わるファシリティマネジメント 尾島卓弥(編著)学陽社 2012 年

3.自治体所有資産の概観

自治体所有資産には、大別して行政資産と普通資産の二種類がある。それらは行政業務に必要な施設や不動産であり、施設の使用料による収入はあっても、収益を目的にしたものはない。そのため、自治体の公会計において、所有資産は入手時の価格と市民同様固定資産として固定資産台帳によって管理され、ライフサイクルの短い資産は運用し易いよう、別途、公有資産表でも一覧化されている。
固定資産台帳の目的は、不動産や建物、機器などの減価償却あるいは維持費用や再建、売却等の推移を貸借対照表(バランスシート)の一部として管理するために作成される。これら地方自治体の公会計のルールには、資産を購入あるいは売却した時点で計上される単式簿記・現金主義と、請求書や契約書が成約した時点で帳簿に計上され、複数年度で減価償却を行える複式簿記・発生主義があるが、これまで地方自治体の公会計ルールの書式は不統一で前者から後者への移行の途中である。
この背景には、かつて自治体は税の徴収とその配分が各年度で精算される大福帳型の財務管理であり、民間で生じるようなキャッシュフローを精緻に把握した上での、機動的な財務管理ではなかったという時代背景がある。かつて税の徴収とその配分が地方自治体の役割であったが、地方債の発行や国からの助成金が中心となった財務内容に変化した事に加え、少子化や過疎化が加速的に進む状況では、自治体の財務状況は疲弊しており、自治体は新しい財源の確保の必要性に迫られ、また首長や市職員にも経営感覚が求められる時代になっている。政府資料によれば、全国の自治体の赤字地方債の総額は200兆円、年間10兆円もの地方債が追加発行されている。財務改善はどの地方自治体にとっても重要な課題となっている3


3 昨今は国債の発⾏数があまりに⼤きいために、それに⽐べると、⾃治体のプライマリーバランスは⿊字化されており、償還返済も進んでいる。懸念事項は、今後の労働⼈⼝の減少による税収減と国が地⽅に委託するインフラ維持費⽤のために発⾏される⾚字建設地⽅債割合の⼤きさにあると⾔えるだろう。参照:地⽅債の発⾏と償還—統計の裏にある真実を探る | ニッセイ基礎研究所
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54719&pno=1?site=nli

4.ネーミングライツ事業が示す自治体所有資産の付加価値化の手法

2004年頃から全国に先駆けて、自治体広告の分野を開拓した横浜市のネーミングライツ事業の内訳をみると、単年度で日産スタジアム(年額1億5千万円、5年契約)市民球場(年額4千万円、5年契約)、子供向け科学館(年額1千7百万円、3年契約)など、年額2憶3千万円以上の契約金額が3年から10年間の長期契約を獲得している4
その他、庁内の印刷物に広告を入れることで印刷代等を削減する自治体ガイドマップや保育関係のパンフレット、公式ホームページのバナー広告などの自治体広告によって、平成21年度の自治体広告収入は1億7千9百万円、経費節減メリットのある施策は約5千2百万円に相当し、ネーミングライツ収入は単年度でも6億3千万円の収入となっている。
また、横浜市だけが特筆するものではない。各自治体公式ホームページとスポンサー企業のプレスリリースを照合しただけでも、年間の使用料の収入は82憶円以上、契約期間を発生主義ベースで積算すると704憶円以上に達している。
福岡のあるベンチャー企業は、自治体所有資産の余裕空間の媒体化提案のみを10年間に渡って継続し、合計50億円の売り上げに達した。これは自治体の目線では価値がない、あるいは民間企業側から利用出来ないと思われた余裕空間の利用許可をベンチャー1社が発掘し、マッチングすることで事業化したものである。この事例は、自治体の集客力や知名度の高低と、ネーミングライツ事業は関係がないということを示している。
例えば、駅前公衆トイレがネーミングライツの対象になった事例もある(例えば、京都には美しい和風の公衆トイレがある)。民間からの申し出で使用料の代わりに、トイレの建て替え、装飾、定期的な清掃代行による自社業務のサービスを代わりに提供することで、現金収入がなくとも財政メリットのあるケースもあるであろう。また、それがマスメディアなどで話題になって配管業者であるスポンサー企業の知名度向上につながるという便益が、自治体・地元企業・市民の利便性や治安対策、観光客の好感度アップなどにつながったのである。
つまり、これまで目に見えなかった公的価値(Public Value)を創り出すことが可能になっているのである。少なくとも、企業活動の寄付行為でなくともCSR活動が可能であるとともに、自治体が財務改善のために知恵を絞り、汗をかく行為に市民も反対するどころか、応援する側に立っているという市民の意向も確認できるものになっている。
一方で、自治体職は、これらの業務は法定業務というより所轄部署内にある設備の管理・運用の延長線上で行っているところが多く、広報部署と別に市役所内に、宣伝事業部が出来たわけではない。
そのため、広告事業の経験のない自治体は、広告代理店などに各条例や用途土地や商店会のブランドイメージに合わせたデザイン審査手続きの代行などを委託し、実際の広告制作や設置を地元の広告業者が行うなどの動きが多い。しかし、アウトソーシングするにも媒体者としての自治体側に課題があり、自治体広告の価格設定の妥当性や価値説明の根拠を示すには、自治体が媒体提供者として適切な価格を提示し、費用対効果の算定基準を明らかにする必要があるが、なかなか難しいという意見も確認された。


4 横浜市におけるネーミングライツ導⼊施設(平成28年4⽉1⽇現在)

5.自治体所有資産の付加価値の向上=民間と同等の質と量が伴ったサービス

地点情報を持つ自治体広告やネーミングライツは、比較対象となる類似のサービスがなく、民間の屋外広告業界でもその標準価格の算出方法が不統一である問題を抱えている。交通広告のように1日の乗降客数が日本で1番の新宿駅なら、その数字を根拠にマスメディアの一部として媒体販売できるが、自治体は定量的な根拠のないまま、地元の企業が地元の広告業者を通じて、地元の人にアピール出来る程度の曖昧な価格設定にならざるを得ない。その点、自治体広告の値段設定は民間より安く設定しがちで、また、他の自治体と横並びになる傾向も強い。そのため広告代理店も制約が多く、発注経路も申請手続きも複雑で、媒体価値を示す根拠のない自治体広告を率先して営業しようという事業者は少ないことが確認できた。
一方、インターネット広告を中心とする広告業界では、屋外広告の『強制視認性』の魅力は高く、同様の意味で、自治体が市民に配布するゴミ袋に印刷された広告は、市民が使用する際も、廃棄の際も、誰かが共同ゴミ捨て場をすれ違う際にも市民に『強制視認性』のある特殊な広告効果を持ち合わせているという意見がある。
そこで、地点情報を持つ自治体広告やネーミングライツが持つ特性を付帯情報として地図上にマッピングするなど、何故そこに付加価値があるのかが、地図からだけでは見えない情報の可視化を試行した。
まずは、全国各地のネーミングライツの対象となる媒体の類型化と一覧化を行った。全国都道府県の北から南に向けて、特に多いスポーツ施設、文化施設、交通、その他のカテゴリーに分けた上で、その媒体の種類や収容人員・集客人員やその付加価値情報などをマッピングした。こうすることで、自治体がネーミングライツを入札公募する際に、適正な価格付けに役立つのではないかという考えである。
調査を行うと、ネーミングライツの対象となる媒体は非常に多様であることが判明した。日本初のネーミングライツの事例として有名な味の素スタジアム5の例から、球場などが多いのではないかと推測していたが、県有林やダム、海水浴場、道路の通り名など特定の空間を想起することや、その印象付けを狙っているものも多く、あるスポーツや競技が好きなひとの集客やインプレッション数(視認回数)のみがネーミングライツ取得側の動機になっている訳ではないことがわかった。
そのため、全ての施設のネーミングライツ取得企業の取得動機を調査するのは難しいものの、自治体と同時期に発表された企業プレスリリースに書かれた株主向けの取得理由の説明などを参考に、スポンサー企業とネーミングライツ取得動機の類型化も同時に行うことにした。
例えば、歩道橋ネーミングライツの場合、その場所の通行量より市内在住の住民に、店舗(地元の医院等)との近接性(右折100mといった距離)や病院の種類の認知に意味がある。また、地元密着型の不動産業者は、規模が小さな子供用の市民野球場にもネーミングライツを契約し、野球大会を主催したり、社名入りのタオルを配るなど、子供が大きくなったり、兄弟が増えたタイミングで、同じ校区内で引っ越しするだろうということを見越して、家族の成長を互いに喜ぶ親密性を長期のブランディングに活用している。これらの事例のように、媒体との親和性や信頼性を獲得するには、ただのビルの看板の認知回数数より、ずっと説得力のある契約動機が学認できた。
更に、大企業が創業地への恩返し的な意味合いの寄付動機も多々見受けられた。例えば、全国規模の赤ちゃん用品のチェーン店である西松屋が兵庫県姫路市のシェアサイクル事業へ500万円の寄付を行った。自転車に表示されるロゴは控え目で宣伝という印象すら与えないほど控えめであった。その理由は、西松屋チェーンの本店所在地が姫路市であるが、企業が大規模化するにつれて、地元の住民でもどこが本社の企業かが分からなくなってきたためである。また、北九州市で創業した会社が大きな会社として福岡を本社にしたものの、創業した地の競技場の改装を機にネーミングライツを取得した例、一部上場企業にはなったものの運送業や産業廃棄物廃棄など、トラックでは名前を見ても、どの場所にあるどんな企業かが地元の人でも想像しづらい会社が、市民球場のネーミングライツを取得し、創業者の名前でもある社名を冠している例があった。いずれも地場産業の振興にはプラスの効果をもたらしている。
一方で、自治体広告やネーミングライツに問題がないわけではない。例えば、企業の不祥事によってスポンサー契約を短い期間で解約をしなくならない事、スポンサー企業が別の会社にM&Aされる事など、地名や公共施設名として定着する前に名前が変わってしまうようなことがあれば意味がなくなってしまう。これについては、横浜市が公表している『ネーミングライツの現状と課題について6』や『公共施設へのネーミングライツの導入の実態と今後のあり方7』等の論文などをご参照頂きたい。
京都市美術館の命名権がまだ現時点(2019年3月時点)で解決されていない。京都市は日本でも景観条例の審査要求が厳しい観光都市であるが、ネーミングライツには9件の実績があった。しかし、歴史ある美術館に命名権はふさわしくないとの異論や市民団体からも市議会に命名権導入の取り消しを求める請願書などが出され、審査委員会と反対派は対立した状況にある。今回は契約プロセスの中での対話不足(過去の美術品寄贈者への配慮不足等)が原因だという地元メディアの報道も確認された。
また、兵庫県がふるさと納税で県に30万円以上を寄付した人に県立コウノトリの郷公園(豊岡市)で飼育するコウノトリの命名権を特典にする-と公表し、批判を浴びた。これは議論の焦点が天然記念物という点にあった。
上記2例は、希少な公共物の名称が、市民や第三者に与える心証とその共通認識の差を考慮すべき問題であり、今後、選択の対象として留意するべき課題となることを示している。


5 戦後、GHQが接収した旧日本軍の航空基地跡(現・調布空港含む敷地)からオリンピック後に返還された経緯から、その後の利用について国、都、隣接市町村の合意が必要となったことから、第三セクターである東京スタジアムを設立し、今日まで共同で運営している。年間2億3千3百3万円の6年契約、2億円の5年契約、そして2024年までの2億5千万円の5年契約を更新し、合計21年間のネーミングライツ最長契約を記録した。また2020年の東京オリンピックの会場としても採用され、調布市や周辺自治体への使用料・鉄道会社等への経済的恩恵も大きい。
6 ネーミングライツの現状と課題について(横浜市 都市経営・総務委員会資料 平成22年4月22日)
7 『公共施設へのネーミングライツの導入の実態と今後のあり方』, 畠山 輝雄, 2014年1月号、自治総研通巻423号
https://ci.nii.ac.jp/naid/130007628696

6.自治体広告を含めた民間の屋外広告取引・配信プラットフォームへの期待

地点情報を持つ自治体広告やネーミングライツは、民間が手掛けている屋外広告(Out of Home=OOH)の広告仲介事業者に類似する業態である。しかし、日本の特殊な事情で民間側でも屋外広告の費用対効果の評価尺度や業界標準化が難しい。ひとつには、日本の屋外広告業者は各地に分散しており、更に関係者の数が多く合意形成が困難なことがあげられる。例えば、交通広告においても、関東圏の鉄道会社11社のシェアを足し合わせても50%に満たないのが現状である。
これらの媒体の空き枠を各社が個別に管理している他、最近導入が進んでいる各種サイネージ(デジタルサイネージはもちろん、温度や天候で広告コンテンツの内容が変化するプログラマティックOOH)としての入稿システムも異なるため、個別対応するには膨大な時間と手間が掛かる。広告スポンサーがやりたいと考えても現状では、ごく限られた枠しか使えないという実態がある。
最新の事例(2019年1月)8では、株式会社電通と系列子会社の株式会社サイバー・コミュニケーションズが、OOH(屋外/交通)広告における新たな取り組みとして、グーグル社の配信システムを使って、都内の屋外・主要駅のデジタルサイネージ合計274面の自動的広告売買・配信の実証実験を開始したとのプレスリリースが配信されている。つまりこの実証実験では、274面のデジタルサイネージの広告枠の購入・配信などが自動的、一元的に管理できることが可能な上、広告主は、現在活用しているグーグル社のオンライン広告取引プラットフォーム(Google Marketing Platform)上で、インターネット広告と屋外広告の両方の買い付けが可能となる。今回の掲載面は、大型屋外ビジョンである渋谷109フォーラムビジョン、原宿表参道ビジョン、池袋パルコビジョン、新宿アルタビジョンに加え、東京メトロ主要駅デジタルサイネージ263面、京王井の頭線吉祥寺駅デジタルサイネージ5面となっている。
国内の屋外広告業界団体である『日本屋外広告フォーラム9』では、屋外広告に関する調査方法、データ活用方法等について研究、開発、実験を通じて「業界標準の広告効果管理データ策定」を目指し、『屋外広告指標推定システム Ver.3.0(http://outdoormedia-index.videor.co.jp/)』をリリースしている。
今後は、他の広告媒体では当たり前になりつつある広告枠の自動取引を整備し、広告配信のための共通基盤を確立することで、急成長を続けるインターネット広告と高度なインタラクティヴィティやセンサーなどとリアルタイムに連動するDOOH(デジタル屋外広告)へと進化し、市場化するだろう。


8 電通とCCI、Google Marketing Platformを活⽤し、都内でOOH広告の⾃動的な広告売買・配信の実証実験を開始
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2019/0121-009735.html
9 ⽇本屋外広告フォーラム(Outdoor Advertising Research Forum)
http://www.okugai-forum.jp/

7.提言:公有地は自治体が市民から資産運用を必要とする預かりもの

本調査は、まだ予備調査段階ではあるが、自治体広告やネーミングライツの市場性を把握したことで、自治体所有資産の付加価値化に関する多くの知見を得た。そこで、自治体と今後デジタル・トランスフォーメーションを推進する上で、三つの提言をしたい。

7.1 自治体のファシリティマネジメントを『施設管理』から『施設経営』へ概念転換する。
自治体所有資産の利活用を進めるにおいて、既存の施設だけでなく、遊休施設や不動産のファシリティマネジメントを『施設管理』から『施設経営』と位置付けと関係職員のマインドセットを転換している事例が確認できる。そこでは、遊休施設や有休不動産の利活用を取り入れ、条例を柔軟に変更あるいは新しい条例にもとづいた成功例が生み出されている。人材不足の市町村は、民間の知恵や投資の制度を取り入れ、その収入をシェアする対等なパートナーを見つけるなどの努力が必要であろう。例えば、内閣府の『公的ストックの有効活用先進事例10』や民間事業者による公有施設のリノベーション事業『公共R不動産 11』、DIY型賃貸の事例などを拡大していくことが必要ではないか。


10 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/innovation/pubstock/pubstock.html
11 R不動産株式会社
https://www.realpublicestate.jp/


7.2 自治体所有資産の付加価値向上は、行政が民間と協働して基盤整備をする必要がある。
地元の特性や人流、付加価値を細かに把握している近隣の親しい広告業者は貴重な仲介者であるものの、本業界の価格妥当性検証や標準化は、民間だけに任せず、官民で共同してルール作りを早急に進めることが必要ではないか。

7.3 自治体横断可能な広告展開が可能な制度とシステムの導入提案
現在の都市生活者はふるさと納税のように、自分が地理的あるいは行政区分としてどこに住んでいるかよりも、日常生活(通学の環境や通勤先の職場も含め)で享受できる公共サービスが良いところに納税したいという傾向も都市生活者に多く見受けられる。自宅にいる時間は寝る時だけで、仕事場が隣の市にあれば、隣の市のサービス拡充も望むのが普通であろう。しかしながら、広告を特定の複数の都市だけに横断して広告を出稿したいと言った場合に対応できる制度を持っている自治体は少ない。また、コミュニティバスの広告は、そのルート内の広告が多くを占めるが、媒体も移動体も同時に広域連携が可能になることが望ましいのではないか。

7.4 むすび
昨年2018年末に日本の自治体のファシリティマネジメントの今後を占うニュースがあった。埼玉県深谷市が所有する元小学校跡地の体育館部分を過去2度にわたって、公募入札したが不調に終わったため、民間出身市長の決断で、利用用途を住宅とする10年の定期借地権を条件に、地元民間企業に対し、マイナス入札(解体費の一部を負担)する全国自治体初のマイナス入札を行った。市長は、入札業者の事業計画や地域にとってのメリット(住民増・税収増)を踏まえた上で、民間企業で言う不良資産(遊休施設)化するまま放置するより、家族連れで転入してくる新しい市民を迎えて、住民増・納入税増で10年後以降にプラスに転じると判断した結果である。
本調査は、自治体所有資産の付加価値を媒体(広告の認知機会)と認識して、分析を始めたが、最終的には自治体が市民から預かっている公有資産の状況を透明化し、民間企業が公共施設の信頼性や中立性にもとづく付加価値化提案や企画を受け入れ、民間の不動産価値や媒体価値と同様に収支の合う基盤整備こそ、新しい政策として重要なことが明らかになったと言える。これは、国土交通省の「空き家対策特別措置法 12」や「個人住宅の賃貸借や管理に関するガイドライン」で示したDIY型賃貸13他、空き家等地域貢献活用施策とも重なる問題である。日本の政府・自治体は、経営者としての日本の付加価値向上に努め、株主に相当する国民・市民の雇用機会の分散化、地域の固有の文化や自然資源を守りつつ、日本の時価総額を上げるよう努力していくことが必要なのではないか。


12 https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=426AC1000000127
13 貸主が修繕を行わず、借主が自費で修繕やDIYを行う借主負担型の賃貸借契約のこと。