一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2018.03.22

レポート

産業界でのデジタル化、ブロックチェーン活用の可能性

2018年1月30日開催JIPDEC・GBA共催ディスカッションより

現在、ブロックチェーン=仮想通貨のような報道も多く見られるが、ブロックチェーン技術は単に金融分野に限らず、今後産業界のデジタル化を加速させる技術として活用が進むことが予想される。
このため、JIPDECでは、非金融分野でのブロックチェーン活用に向けた議論の活性化を促すことを目的として、政府・地方自治体に対してブロックチェーンの普及活動を行っているGovernment Blockchain Association(GBA)と共に、ブロックチェーンの可能性と課題について幅広くディスカッションする「産業界でのデジタル化、ブロックチェーン活用の可能性」を開催した。

GBA:ブロックチェーン技術を主に公領域での活用促進を行う非営利団体で、米国内を中心に日本、シンガポール、イギリス、オーストラリア、フランス等、各国でローカルチャプター制度を取りミートアップ等の活動を通じて社会全体での新技術の活用を目指しています。

ディスカッションに先立ち、「ブロックチェーンの産業界での利用の可能性」「中⼩企業のIT化の現状と課題」「非中央集権型の新しいエコノミー」というテーマで情報提供があり、来場者とのフリーディスカッションを行った。

テーマ1:ブロックチェーンの産業界での利用の可能性

「未来投資戦略2017の中ではコネクティビティConnected Industries(つながり、新たな付加価値創造、生産性向上することで、社会問題の解決すること)が謳われている。中小企業庁の次世代企業間データ連携調査事業でもスマートバリューチェーンに取り組んでおり、チェーンをつなぐところにブロックチェーン技術の活用が考えられる。」と現在の施策状況が紹介された。
一方で、中小企業の業務IT化のネックとなっている多端末・多画面問題を解決し、生産性の向上につなげるためには、「従来型EDIを、銀行データも活用可能で、他サービスとの連携も容易なクラウドEDIに進化させることで、従来の仕訳・記帳業務のような基幹業務も軽減され、さらには配送車両や生産設備のシェアリング、納品時受領データ共有による自動支払い、資金支援(金融JIT)などの実現も期待できる。」

そのためには「クラウドサービスの参入促進、全銀協システム更新における中小企業向けオープンAPIの事業化促進、クラウドサービス間の信頼性確保(ブロックチェーン活用による相互認証等)、さらには、ブロックチェーンは東京だけでなく地域にも関わる話なので、地域の未来投資促進」が課題になるとしている。

テーマ2:中⼩企業のIT化の現状と課題

企業を取り巻く現状として、「日本の中小企業は約380万社(企業の99.7%)で、従業員5人以下は約320万社。大企業以上に人手不足が深刻であり、一人当たりの生産性を上げないと付加価値が上がらないとの問題意識から、生産性向上のためにはIT化が必要であるが、導入はメールやOfficeが約55%、給与・経理に関するパッケージソフトは40%程度にとどまっている。日本企業の大半を占める約300万社の中小企業のIT化は急務」との指摘があった。

中小企業庁が、IT化支援施策として平成28年度予算で実施した、ITツール活用により生産性向上を図る中小企業の経費一部補助(総額100億円、補助額︓上限100万円、補助率︓2/3)では、利用企業の約70%が「コスト改善が見込める」、80%が「売上向上が見込める」と効果を認識している。中小企業庁では、より面的にIT導入を推進するため、①⽣産性向上に繋がるITツールベンダーの⾒える化、②中小企業⽀援機関のITリテラシー向上、を図り、IT導入にかかる連携体制を構築することとしている。
さらに、全銀協が2018年から稼働を予定している全銀EDIシステム(ZEDI)は、振り込み情報にXML電文で多くの取引情報を添付することができるため、受発注から納品、請求、入金、売掛金消込といった一連の効率化に期待がかかる。
海外との比較では、サプライチェーンのトラッキング、伝票処理のデジタル化、土地登記のデジタル化、患者のデータを記録するヘルスケアの応用などが始まっているのに対し、ブロックチェーン技術がこれらの解決につながるのではないか、との期待が示された。

テーマ3:非中央集権型の新しいエコノミー

真のConnected Industries実現には、民間部門だけでなく、行政手続きのデジタル化も必須となる。デジタル・ガバメントの3原則(デジタルファースト原則、コネクテッド・ワンストップ原則、ワンスオンリー原則)実現において重要となる本人認証の仕組み等へのブロックチェーン技術の活用が期待される。実現に向けては国際間も踏まえた法整備、標準化が必要となる。

フリーディスカッション

情報提供の後に行われたフリーディスカッションでは、産官学それぞれの立場からの意見・要望等が出された。

・ブロックチェーンはインターネットと同様、特定省庁が所管するのではなく、ユースケースに応じて窓口省庁が異なるだろう。
・日本の現状を考えると、法整備よりもまずは一般認知を高めることが優先課題となるのではないか。ドバイでは、駐車禁止の罰金収受もブロックチェーンで行われており、一般の認知は高い。
・仮想通貨システム開発において、実行環境でテストする際でも、現行法ではトランザクション発生時点ごとの時価で計算して確定申告するという解釈になってしまう。国内の開発技術者にとって大きな問題であり、ブロックチェーン技術者の海外流出も懸念される。現行法は現在のような取引を想定していないので、開発コミュニティの中の不満にとどめず、様々な局面で関係省庁と対話を重ね、必要な法改正等につなげる働きかけを行っていく必要がある。省庁側でも、様々な場面に出向き多くの声を吸い上げて、法整備・施策に生かしていきたいと考えている。

新たな技術・制度の黎明期には、それに関わるであろう様々なステークホルダーがコミュニケーションを取り、多面的な検討を行う場が必要となってくる。JIPDECでは、今後もブロックチェーンに限らず、時宜にかなったテーマ設定でイベントを開催する予定である。

ディスカッション時資料