2025.12.15
レポート
新しい時代の幕開け: AIの発展におけるデジタルトラストと第三者評価の在り方
一般財団法人日本情報経済社会推進協会
デジタルトラスト評価センター 曾我部 倭玄
皆さんは、インターネット上でサービスを利用する際、そのサービスや提供元をどのように、また、どこまで信頼していますか? この「オンライン上での信頼」こそが、デジタルトラスト1の核となる概念です。デジタルトラストを支える最も基本的な仕組みとして、電子署名やeシールがありますが、ここ最近はVerifiable Credentials(VC)と呼ばれる、ある主体が持つ属性情報、例えば、学歴や資格、免許等を電子的かつ機械可読(=マシンリーダブル)形式で証明する仕組みや、そのVCに代表される、自分の属性情報を含むデジタルIDを自分自身で管理するための仕組みの一つである「デジタルアイデンティティウォレット」といった新しい技術2の登場により、エコシステムが大きく変化し始めています。JIPDECでは、デジタルトラスト関連の第三者評価として、厳正な審査を実施している「JIPDECトラステッド・サービス登録」(JTS登録)3事業を行っていますが、VCについても2025年度から、登録メニュー化の検討を進めています。4
さらに視点を広げると、近年、AIの発達がすさまじく、2025年はAIエージェント5関連の動きが顕著であり、Anthropic社が発表した「MCP」6やGoogle社が発表した「A2A」7の登場により、「2025年はAIエージェント元年」とも呼ばれていたりします。ここ数年のAIの発展は、ほぼ全ての産業に大きなインパクトを与えていますが、AIを活用する際にも「オンライン上での信頼」が重要です。
想定されるユースケースの一つとして、電子契約の場合、契約書の作成からデジタル署名の代行まで、といった契約プロセスについて、自社のAIと契約先のAIが人手を介さずに実行することが考えられます。その契約が年に100件程度のものであれば、大幅な工数削減となるでしょう。
では、このようなユースケースにおいて、「オンライン上の信頼」は誰が、どのように担保するのでしょうか。AIは便利な反面、意図しないタスクの実行や個人情報・機密情報の漏えい等のリスクがあるのも事実です。顧客向けサービスを提供する事業者等がAIを当該サービスに導入する際は、AIのガバナンス8についても併せて検討する必要があるでしょう。ただし、その検討を自社単独で行うには、手間と時間がかかります。
その対策の一つとして、第三者評価の積極的な活用があります。第三者による厳正な審査を受けることにより、サービス提供者は顧客向けサービスの改善点を効率的に検知し、当該サービスのPRにもつなげられます。加えて、サービスを利用する側も安心してサービスを利用できるようになります。この点は、このAI時代において、より明白となるのではないでしょうか。
現状、AI関連の第三者評価としては、AIMS(AIマネジメントシステム)認証9がありますが、近い将来、既存のさまざまな第三者評価にもAIに関する評価項目が加わる可能性は大いにあります。人に代わって、AIが審査をすることも検討されていますが、その話はまた別の機会に…
ともあれ、AIの発展によって、オンライン上での信頼(の核となるデジタルトラスト)と第三者評価の在り方は大きく変わります。とはいえ、AI関連のガバナンスや制度の検討は始まったばかりであり、今後、どのような経過をたどるのかは誰にも分かりません。引き続き発展するであろうAIに対して、デジタルトラストと第三者評価がどうあるべきか? また既存の評価基準をどうアップデートしていくのか? 議論は始まったばかりに過ぎないのです。
- 1 デジタルトラスト:インターネット上における通信の相手が本人であり、なりすましをされていないことを、誰でも確認できることや、デジタルデータは容易に改ざんされてしまうため、電子署名、タイムスタンプ等により、それを防止することを実現すること。
- 2 VCやデジタルアイデンティティウォレットについては、デジタル庁主導で、2025年3月10日に第一回有識者会議が開催されたため、会議資料もご覧下さい。
- Verifiable Credential(VC/VDC) の活用におけるガバナンスに関する有識者会議 別ウインドウで開く
- 3 JIPDECトラステッド・サービス登録別ウインドウで開く
- 4 詳細は2025年度の事業計画、「3 デジタルトラストの推進」、「(2)JIPDECトラステッド・サービス登録」をご覧ください。
- ディスクロージャ—資料
- 5 AIエージェント:与えられた目標を達成するために人手を介さず、自律的に行動するAIの技術・ツールのこと。なお、特段の断りがない場合、本コラム本に登場する「AI」はAIエージェントを指している。
- 6 MCP(Model Context Protocol):LLM(大規模言語モデル)と外部システムを繋ぐためのプロトコルのこと。
- 7 A2A(Agent to Agent):人手を介さず、あるAIエージェントと別のAIエージェントを繋ぐプロトコルのこと。
- 8 AIガバナンス:AIの利活⽤によって⽣じるリスクをステークホルダーにとって受容可能な⽔準で管理しつつ、そこからもたらされる正のインパクト(便益)を最⼤化することを⽬的とする、ステークホルダーによる技術的、組織的、及び社会的システムの設計並びに運⽤。(総務省 経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」、「第1部 AIとは」、「関連する⽤語」から引用)
- AI事業者ガイドライン別ウインドウで開く
- 9 AIマネジメントシステムの認証を対象とした認定の開始について別ウインドウで開く
著者情報
- 著者
- JIPDEC デジタルトラスト評価センター 曾我部 倭玄
ドイツ適合性評価機関TUViT eIDAS.PROFESSIONAL
「JIPDECトラステッド・サービス登録」の業務に加え、トラストサービスに関する普及啓発活動等にも従事。

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