一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2022.12.16

レポート

【コラム】海外のプライバシー動向に係る日本への影響

一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 主査  石井 美穂

EUでは、大手プラットフォーム企業の社会的・経済的影響に対応するため、「デジタルサービス法(DSA:Digital Services Act)」と「デジタル市場法(DMA:Digital Markets Act)」が、2022年7月5日に、EU議会で賛成多数で採択されました。DSAとDMAは、その制裁金の大きさにとどまらず、規制が広範囲に及び、かつ強力であることから、とりわけ、米IT大手プラットフォーム企業に大きな影響を与えます。具体的には、DSAによって、特定の種類の広告をプラットフォーム上に掲載することが禁止され、子ども向けのターゲット広告や、ユーザーの民族性や性的指向に合わせたターゲット広告が排除されることになります。また、DMAによって、プラットフォーム企業はメッセージングアプリの相互運用を可能にするよう求められる可能性があります。
DSA・DMAの日本への影響について、DSAに関しては、プラットフォーム企業に対して日本のユーザーや権利者等が直接的に履行の義務を求める場面が発生する可能性は低いですが、日本における法規制の議論において有益な参考材料となりえます。他方、DMAに関しては、日本企業のEUにおける取引環境に影響を与える可能性があるため、日本の政策動向等にも直接的な影響を与える可能性があります。
米国では、2022年7月20日、米国初の包括的な個人情報保護のための法律となるデータプライバシー保護法(ADPPA:American Data Privacy and Protection Act)の法案が、米下院のエネルギー・商業委員会で可決されました。人権としての個人情報保護の意識が高いEUに比べ、これまで米国では、自国企業のイノベーション阻害要因となりかねない個人情報保護法策定には消極的でした。しかし、近年はメガプラットフォーマーの経済的影響力に加え、民主主義に与える影響が懸念されることから、ADPPAも個人の権利に配慮した法案となっています。たとえば、個人情報の取得や利用に関して、企業の個人に対する「duty of loyalty(忠実義務)」、受益者のため忠実に信託事務を処理する義務を課す点が特徴としてあげられます。これは、GDPRや日本の個人情報保護法における、個人への通知と同意に基づく義務を超えて、はるかに厳しい制限を課すものです。
ADPPAは、適用スコープが広い上に、強力なエンフォースメントによりその実効性が担保されていることから、日本企業への影響は少なくありません。また、個人への通知と同意に基づく個人情報の取得の限界を超えた制度設計という点においても、政策的に重要な論点が含まれます。

著者
JIPDEC 電子情報利活用研究部 主査  石井 美穂

博士(メディア・デザイン学)

慶應義塾大学DMC機構助教、慶應義塾大学メディアデザイン研究所リサーチャー(現職)を経て、2019年より現職。
実施業務:
・プライバシー保護・個人情報保護に関する調査研究
・パーソナルデータの保護と利活用に関する調査研究

ishii