一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2024.10.30

レポート

デジタル時代における消費者保護:ダークパターンと適正取引

⿓⾕⼤学
法学部教授 カライスコス アントニオス⽒

ダークパターンとは?

OECDによる定義

ダークパターンについてさまざまなプロジェクト、組織が説明していますが、現状、統一的な定義はありません。OECDでは、2022年に以下のようにダーク・コマーシャル・パターンを定義しています。

「ダーク・コマーシャル・パターンとは、消費者の自主性、意思決定又は選択を覆す又は損なうデジタル選択アーキテクチャの要素を、特にオンライン・ユーザー・インターフェースにおいて、利用するビジネスプラクティスのことである。これらは、しばしば消費者を欺き、強制し、又は操作し、様々な方法で直接的又は間接的に消費者被害を引き起こす可能性があるが、多くの場合、そうした被害を計測することは困難又は不可能であろう。

私は、上記の「多くの場合、そうした被害を計測することは困難又は不可能であろう」点がダークパターンの問題を端的に示していると思います。つまり、消費者側が「ダークパターンによる被害」を認識し相談することも、企業側が「自社で採用している手法はダークパターンとして被害を生じさせている」と認識することも難しいという点です。

OECDの定義を、日本の消費者契約法等も踏まえて説明すると、「消費者に誤認や困惑を生じさせ、それがなければしなかったであろう行為を消費者にさせるために用いられる技法や技法」と言えます。古くからある「サクラを使って集客する」手法などもダークパターンと位置付けることができますが、デジタル社会ではオンラインでよりダークパターンが使いやすくなり、影響力も増しています。

ダークパターンの種類

ダークパターンは人によって捉え方も異なり、また次々に新しい手法が出てくるので、分類はあくまでも理解を促すためのものと考えていただいた方が良いと思います。

  1. 強制
    事業者にとって都合の良い行為を消費者側に強制するもので、買い物する際にユーザー登録を強制する等が挙げられます。
  2. インターフェース干渉
    事業者に有利な選択肢を事前にチェック済みにしたり、そちらを視覚的に強調したりするもの
  3. 執拗な繰り返し(ナギング)
    通知やユーザーの位置情報取得などについて事業者に都合の良い設定を繰り返し要求する。ユーザーが最終的には面倒になり受け入れるというような場合です。
  4. 妨害
    解約行為やプライバシーに配慮した設定に戻す方法をわかりにくくしたり、難しくして妨害する。サブスクリプションの入会は簡単だったのに解約ボタンは見つからない、解約手続きの途中で何度も「本当に解約しますか」等表示が繰り返されるようなケースです。
  5. こっそり(スニーキング)
    例えば、取引の最後にオプションに関連しない料金を合計金額にこっそり追加したり、トライアル期間終了後に自動的に定期購入が継続するような、消費者が気づかなければ事業者が得をする、消費者が損失を被っていることに気がつかないといったケースです。
  6. 社会的証明
    他の消費者の行動などについて虚偽または不正確な通知や表示を行うものです。宿泊予約サイトで「今この部屋を見ているユーザー数」と表示される数字が正確であればダークパターンには該当しませんが、過去24時間の合計値を表示していたり、カウント自体していない場合はダークパターンになると考えています。
  7. 緊急性
    虚偽の拒否の時間的制限や量的制限を表示するもので、「この価格での販売は残り何分」と表示されても実際には翌日も同価格で販売しているケース等です。予約サイトの「残り何部屋」という表示も、厳密には「その予約サイトでの在庫数」でホテル自体にはまだ空室が多くある場合は注意が必要です。

分類はダークパターンを理解する上で非常に重要ですが、法規制や企業対応の際にとらわれ過ぎてしまうと抜けや漏れが生じるので、全体像を把握して「誤認を生じさせない、本来であればしなかったことをさせない」ための対応をする必要があります。

日本におけるダークパターンの規制状況

日本におけるダークパターン規制は、大きくは消費者保護法、個人情報保護法、競争法に分けることができます。ここでは、消費者保護法として消費者契約法、景品表示法、特定商取引法、取引DPF消費者保護法を紹介します。一つ強調したいのは、EUや米国では包括的かつ分野横断的な規制がされているのに対し、日本では上記のように個別の法律でごく一部が捉えられているだけで、被害が生じた場合、どの法律のどの条文が適用されるのかで躓いてしまうことが多い、という点です。

消費者契約法

消費者契約法の受け皿規定である10条で、「消費者の不作為をもって、当該消費者が新たな消費者契約の申し込み、またはその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が不当条項の類型として例示されており、ダークパターン被害への対応に使える条文だと考えています。また、3条1項4号では事業者の努力義務として、消費者が有する解除権の行使に関して必要な情報を提供することが定められています。努力義務なので、違反しても直ちに制裁が課されるわけではありませんが、例えば不法行為に基づく損害賠償請求をする場合には、情報提供しなかったという事情も考慮されるのではないかと考えています。

景品表示法

5条において、優良誤認、有利誤認、指定告示が規制されています。これらの共通点は、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する行為を規制するものである点です。ダークパターンは、まさに消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するものに該当するため、条文の要件を満たす場合は規制されることになります。また、26条一項には、事業者が講じるべき表示の管理上の措置が定められており、ダークパターン規制との関係で特にアフィリエイト広告等が関係する可能性があります。
私見ですが、現在の景品表示法は事業者が自らの商品について行った表示が規制対象ですが、表示だけでなく取引行為全般に拡大し、かつ事業者が自らの商品について行う表示に限定しなければ、EUや米国の規制にかなり近づくのではないかと思っています。

特定商取引法

最近の改正で通信販売における最終確認画面での表示義務が定められています。また、最終確認画面における人を誤認させるような表示も禁止されています。世間的にはこれがダークパターン規制として機能するのではないかと注目されているので、今後、この実効性確保が重要となります。

取引デジタルプラットフォーム(DPF)消費者保護法

一つは、販売事業者等による商品等の販売条件等の表示に関して、その取引DPFを利用する消費者から苦情の申し出があった場合、取引DPF提供者は事情の調査、その他の表示の適性を確保するために必要な措置を講じることが義務付けられています。また、取引DPFにより提供される場における商品等の販売条件等の表示が一定の要件に該当する場合においては、内閣総理大臣は取引DPFの利用の停止その他の必要な措置を取ることを要請できるとされています。これらも、表示に関連するものなのでダークパターン対策として機能する可能性を秘めています。

事業者に求められるスタンスとは

これまで紹介したダークパターンや法規制の状況を踏まえ、事業者に求められるスタンスを私なりにまとめてみたいと思います。

まず、事業や取引の社会通念に照らして考えてみることが重要だと思います。よく「ダークパターンはグレーゾーンがあってわかりにくい」と言われますが、これまでご紹介した事例を見ても、かなりの部分が白か黒か明確です。グレーゾーンな行為をしたからといって社会的法的に制裁が下ることはないと思います。

次に、ダークパターンを用いてしまいやすいのは縦割りの組織が多いので、企業内の横の連携を作ることが大切です。

3番目には、合理的な透明性を確保することです。「今見ている人」を「過去24時間に見た人」に変えると消費者の行動のインセンティブが下がり売上減が懸念されますが、長期的に見ればダークパターンを用いる企業は敬遠され、さらには業界全体の信頼性を損なう危険性もあります。表示を適正にすることで、消費者により好まれる企業になることができると私は考えています。

最後に、メディア等ではどうしてもダークパターンが使われた例が注目されがちですが、本来的にはそもそもダークパターンを使用しない企業を高く評価すること、ダークパターン対策を取っていることをマーケティング戦略に取り込むことも大事だと思います。

先月末に設立され私も理事を務めている一般社団法人ダークパターン対策協会では、一種の共同規制としてダークパターンを使っていない企業を認定する取り組みを進めています。また、立法レベルでは、EUや米国のような分野横断的かつ包括的な規制が日本でも実現することが望ましく、日本弁護士連合会の意見書でも同様の指摘がなされ、現在、消費者委員会「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」で検討されています。しかし、個人的には様々な理由から日本で今後分野横断的かつ包括的な立法は困難なのではないかと思っているため、一種の共同規制としての認定制度を広めていきたいと考えています。

本内容は、2024年10月8日に開催されたJIPDECセミナー「「ダークパターンとは何か? 今後の規制動向と企業リスク」での講演内容を取りまとめたものです。

講師
龍谷大学 法学部教授、博士(法学) カライスコス アントニオス氏

アテネ大学法学部卒業後、アテネ大学大学院法学研究科修士課程を修了。修士課程在学中にギリシャ共和国司法試験に合格し、アテネ弁護士会所属の弁護士として実務に携わる。
その後、文部科学省の国費留学生として日本に留学し、早稲田大学で博士号(法学)を取得。
京都学園大学専任講師、立正大学専任講師、関西大学准教授、京都大学准教授を経て現職。INTI国際大学(マレーシア)客員研究員を務める。
マラヤ大学(マレーシア)法学部客員教授、タマサート大学(タイ)法学部客員准教授、スオール・オルソラ・ベニンカーサ大学(イタリア)法学部客員准教授、ホーチミン市法科大学(ベトナム)非常勤講師等を歴任。
日本消費者法学会理事、特定非営利活動法人消費者支援機構関西理事、総務省情報通信法学研究会構成員、国民生活センター調査研究誌「国民生活研究」外部編集委員、消費者庁新未来創造戦略本部「新未来ビジョン・フォーラム」フェロー、徳島県持続可能な社会を目指した国際連携ネットワーク(TIS)構成員。その他、国内外で様々な委員・編集委員職に従事。
2021年11月に、第5回津谷裕貴・消費者法学術実践賞の実践的学術賞を受賞。
主に日本とEUにおける民法・消費者法の比較法的研究に取り組んでいる。

龍谷大学法学部教授、博士(法学) カライスコス アントニオス氏