一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2023.06.14

レポート

カメラ画像利活用ガイドブックver3.0のご紹介

JIPDEC電子情報利活用研究部
主幹 恩田 さくら

注)講演資料の公開はございません。

カメラ画像利活用ガイドブック策定の経緯

2017年に、経済産業省・総務省、IoT推進コンソーシアムにより「カメラ画像利活用ガイドブックver1.0」が策定されました。当時は、IoT、AI等による高度なデータの利活用による新たなサービスやビジネスへの期待が高まり、カメラ画像についても、従来型の防犯カメラとしての利用に限らず、マーケティングやスマートな街作り等、商用目的での利用の可能性について検討が進んでいました。

一方で、カメラ画像をいつどこで撮影されているのか、どの範囲で利用されるのか、利用目的はなにかが、カメラを目視しただけではわからない等、生活者とのコミュニケーションに課題があり、カメラ画像の利活用を進める上で、生活者の不安を払拭することが必要でした。

そこで、「カメラ画像利活用ガイドブック」として、商用目的でカメラ画像を利用する事業者のユースケースを基に、利活用に際して、生活者のプライバシーを保護し、適切なコミュニケーションをとるにあたっての配慮事項が整理されました。カメラ画像利活用ガイドブックは、法令遵守を前提としつつ、事業者の皆様が自主的な取り組みをいただく際に参考としていただくことを想定しています。

「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」について

2022年3月には、「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」が公表されました。令和2年および令和3年個人情報保護法改正への対応、プライバシー保護の観点からの追加検討、プライバシーガバナンス等の検討状況を踏まえた再整理、技術の進展等に応じて検討がなされたものです。本日は、「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」(以下、「本ガイドブック」)の内容をご紹介します。

本ガイドブックの位置づけと検討対象

カメラ画像を取扱う際に留意すべき特徴は、以下の点です。

1.被写体本人が、個人情報の取得への暗黙の同意を行っているとは限らない状況で、個人情報の取得が行われる。

2.被写体本人にとっては、カメラで取得された情報がどの範囲で利用されるのか、カメラ本体を目視しただけでは想像・把握できない。

3.被写体本人にとっての意図的な行動だけでなく、無意識の行動等も含む膨大な情報が取得される。

4.取得時点では撮影側すら予想しなかった情報が、解析・プロファイリング技術の進歩により後日明らかになる可能性がある。

5.顔や容貌は容易に変更できず、また、外部から容易に観察可能であるために、被写体本人の写り込むカメラ画像や、そこから抽出される特徴量データ※1(個人識別符号)をIDとして、長期にわたって特定の個人が追跡されたり、様々な場面の情報が紐づけられる可能性がある。

  • ※1 取得した画像から骨格、輪郭、人物の目、鼻、口の位置関係等の特徴を抽出し、数値化したデータ。

このような留意すべき特徴を踏まえ、本ガイドブックは、以下に記載する、事業者の6つのユースケースを基に、配慮すべき事項を検討しました。

■ケース(1)属性推定
店舗等に設置されたカメラで、画像を取得し、特徴量データを抽出し人物属性(年代や性別など)を推定した後、速やかに撮影画像や特徴量データを破棄するケース

■ケース(2)動線分析
店舗等に設置されたカメラで、空間内を人物等が行動する画像を取得し、特徴量データを抽出しこれに基づき動線データを生成した後、速やかに撮影画像と特徴量データを破棄するケース

■ケース(3)リピート分析
店舗等に設置されたカメラで、撮影画像から特徴量データを抽出し、分析を行った後、撮影画像は速やかに破棄。特徴量データを一定期間保持し、同一人物の2回目以降の入店の判定キーとして、分析データを紐づけて保存し、一定期間経過後、速やかに特徴量データを破棄するケース

■ケース(4)人・車等の数のカウント
公共空間に向けたカメラで、通行する人・車等の数を計測した後、速やかに撮影画像を破棄するケース

■ケース(5)風景情報の利用
公共空間に向けたカメラで、(特定の個人を識別せずに)街中の看板・交通標識、及び道路の込み具合の情報を抽出した後、速やかに撮影画像を破棄するケース

■ケース(6)人物の滞留状況把握
準公共空間(駅改札等)に設置されたカメラで、その空間を通行する人物を撮影し、アイコン化処理の後、速やかに撮影画像を破棄するもケース

本ガイドブックでは、防犯目的や公共目的で取得されるカメラ画像の取り扱いについては取り上げていません。また、事業者が別途保有する会員情報と紐づけて特定の個人を識別したサービスに活用するケース等は検討対象に含んでいません。また、撮影画像や特徴量データ、及びそれに紐付く情報の第三者提供や共同利用は、ケースとしては取り扱っていません。

プライバシー保護について

基本的な考え方

私法上、生活者のプライバシーや肖像権の侵害に対しては、損害賠償請求や差止請求が認められており、裁判においては、プライバシーや肖像権が法的保護の対象となるか(違法な侵害となるかどうか)は、取得・利用される情報の性質、情報の取得・利用の目的、取得・利用の態様が適切か等を総合的に判断して、生活者が社会生活を営む上での受忍限度の範囲内かどうかにより判断されます。

カメラ画像やその特徴量データ(個人識別符号)は、特定の個人を識別し得る情報であり、取得・利用される情報の性質としては、プライバシーや肖像権に対する影響が大きいことから、カメラ画像を利用する目的が正当であり、撮影の必要性があるか、撮影方法や手段、利用の方法が相当であるか、について、適切な実施となるよう、確認いただくことが重要となります。例えば、あえて生活者が撮影をされていると認識できない、隠し撮りのような方法で撮影した場合、不適切な例となる可能性があります。

カメラ画像を取得する範囲について注意すべき点

特定の個人のデータを取得する時間的・空間的範囲が広がるほど、特定の個人の行動が詳細に把握可能になるため、プライバシーの観点から注意が必要です。

カメラ画像から検知や推定を行う際に注意すべき点

技術の進歩に伴い、カメラ画像から様々な情報を検知・推定できるようになってきました。特に、人種、信条、健康など最も私的な情報を抽出し検知したり、推定を行ったりすることについては、プライバシーへの影響が高いため、慎重な配慮が求められます。

撮影の対象となる場所の性質により注意すべき点

不特定多数の生活者が自由にアクセスでき、通ることができる空間で事業者が管理権限を持たない「公共空間」(道路・公園など)においてカメラ画像を利活用する際には、生活者が社会生活上その空間の利用を避けることが困難な場合も想定されるため、カメラ画像の取得・利用目的の正当性、撮影の必要性、撮影方法の相当性等が、合理的に説明可能かを慎重に確認する必要があります。事業者が管理権限を持つが不特定多数の生活者が自由にアクセスでき、通ることができる「準公共空間」(駅、複合施設内通路等)においても、公共空間に準じて十分な配慮が望まれます。

個人情報保護法の遵守を前提としたカメラ画像の取扱い方

取得の過程に関して、顔等で特定の個人が識別可能な状態でカメラ画像を取得する場合、当該カメラ画像の取得は「個人情報」の取得に該当します。画像から特定の個人を識別するために、顔等の特徴を電子計算機の用に供するために変換した符号(特徴量データ)は「個人識別符号」に該当し「個人情報」となります。特定の個人情報を検索できるように体系的に構成した個人情報を含む集合物は「個人情報データベース等」に該当し、これに含まれる個人情報は「個人データ」、その内事業者が開示等を行うことができる権限を有する個人データは「保有個人データ」に該当します。それぞれに個人情報保護法で定められる事項を遵守した対応が必要となります。

処理・保存の過程に関して、顔などが判別可能な状態で取得された画像は、多くの場合、画像を機械可読の状態に置換し、分析などが行われるため、本ガイドブックでは、検討対象とした各ケースで処理・保存される各種データについて、個人情報保護法を遵守した取扱いについて解説しています。例えば、属性情報を例に挙げると、画像データから性別・年代等の情報を推定した場合、当該推定情報単体では、特定の個人を識別できないため、個人情報ではありません(撮影画像は速やかに破棄されている前提です)。ただし、特徴量データと紐づけられている場合には、個人情報(場合によっては、個人データ、保有個人データ)に該当しますので注意が必要です。詳しくは、本ガイドブックの本文を参照してください。

配慮事項

配慮事項の全体像

本ガイドブックでは、カメラ画像の利活用検討そのものに係る「基本原則」、生活者やビジネスパートナー等とのコミュニケーションに係る「コミュニケーションの配慮」の他、企画、設計、事前告知、取得、取扱い、管理、継続利用といった事業のプロセスごとに配慮事項を整理しています(図1)。

図1.「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」配慮事項の全体像

以下、本ガイドブックで整理している配慮事項の中から、主なポイントのみご紹介します。ぜひ本ガイドブックの本文もご参照ください。

基本原則

基本原則として、a.~o.までの15個の原則を記載しています。カメラ画像の利活用を進めるにあたっては、運用実施主体を明確にし、当該主体が配慮事項の内容を実施する責任を有することが重要となります。また、カメラ画像利活用の目的が正当であることの確認や、目的を達成するためにカメラ画像を利活用する必要性の確認、撮影方法等が社会生活を営む上での受忍限度を超えない相当なものであるかの確認することも必要です。その他、基本原則で定められている内容については、本ガイドブックの本文をご確認ください。

生活者とのコミュニケーションの配慮

本ガイドブックで検討対象としたユースケースの場合、カメラに映り込むすべての生活者から、利活用の目的等に対して明確な同意をとることは困難です。そのため、生活者との齟齬のないよう丁寧なコミュニケーションに努めることが重要となります。

カメラに写り込み得る生活者(母集団)の特性を分析し、実質的な理解を得るために、画一的な方法によらず、各母集団の特性に応じた適切な方法で、十分な時間をかけ、丁寧にコミュニケーションを図ってください(図2)。

図2.コミュニケーションの配慮(掲示例等)

運用開始後も、生活者がプライバシーの観点で不安に思う点や、理解の進度などを汲み取り、必要に応じて、当該取り組みの改善や情報のさらなる開示や説明を継続的に行っていただきたいと思います。

企画時の配慮

情報システムの抜本的な作り直し等を防ぐため、設計の段階でプライバシーに係るリスク分析を行いその結果を受けてプライバシーに配慮した対応が行えるよう、全体の計画を立案してください。プライバシーバイデザインの考え方も参考にしていただくと良いと思います。

設計時の配慮

生活者のプライバシーに係るリスク分析を行っていただくことが重要です。外部のパッケージ化されたサービス(SaaS等)を導入する際も、情報セキュリティ対策はもちろん、事前告知や取得時の通知に十分な情報が開示されているか、撮影されたカメラ画像や特徴量データが必要な期間を超えて保存されるようなことはないか等、必ず確認していただきたいと思います。

事前告知時の配慮

実際にカメラ画像の利活用を開始する前に、利用目的を特定し明記したうえで、十分な期間、事前告知を行ってください。

取得時の配慮

利用目的の通知公表は法的にも求められています。本ガイドブックでは、撮影の対象となる場所において物理的な通知方法で実施する場合に加えて、詳細情報を記載したWebサイトへQRコードなどで誘導するなど、階層的な情報発信を行う方法も紹介しています。

取扱い時の配慮

カメラ画像から必要となるデータを生成または抽出した後、元となるカメラ画像は速やかに破棄します。生成したデータについても、特徴量データなど特定の個人を識別できる情報は、利用目的を達成した後、速やかに破棄してください。

管理時の配慮

生成・抽出したデータには、合理的な安全対策、セキュリティ対策を講じる必要がありますが、特にエッジ側にデータが保管される場合は、ネットワーク機器としての対策はもちろん、機器の盗難など物理的なリスクにも十分な配慮が必要です。

継続利用時の配慮

継続的な利用を行う場合には、定期的なリスク評価を行っていただきたいと思います。万が一、漏洩等の事故が発生した場合、情報システムの更改・新技術の導入などの際には、必要に応じてリスク評価を行っていただきたいと思います。

最後に

今回は時間の関係で、特に配慮事項については全体構成を中心にお話しし、具体的な内容は、ポイントのみのご紹介となりました。ぜひカメラ画像の利活用を進められる際には、本ガイドブックの本文をご覧いただきたいと思います。また事例集等、カメラ画像利活用ガイドブックの関連成果物も公表されていますので併せてご参照ください。

講師
JIPDEC電子情報利活用研究部 主幹 恩田 さくら

カメラ画像利活用ガイドブックver2.0及びver3.0改訂時に、事務局として従事

講師写真:JIPDEC恩田さくら