一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2022.11.18

レポート

いちばんやさしい電子契約

合同会社PPAP総研 代表社員/
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)客員研究員 大泰司 章 氏

すっかり定着した感がある電子署名や電子契約ですが、どうもわかりにくい、導入するにはどうしたらよいか、という声をよく聞きます。
本日はあらためて、電子署名や電子契約について初めての方にもわかりやすく解説します。

はじめに

セキュリティ的にはほぼ意味はないのに受信者側にはとても面倒な「PPAP」、「Printしてから、Hanko押して、Scanして送ってくださいプロトコル」を略した「PHS」、そしてエクセルを方眼紙のように使ってフォームを作る「ネ申(かみ)エクセル」など、企業間や企業内で、電子ファイルやデータを送受信する上で非効率な方法が広まってしまっています。

PPAPやPHSは、この後お話する電子契約を上手に導入することによって解決することができますので、ぜひご活用ください。

電子契約をつかいましょう

電子契約とは

電子契約とは、従来紙ベースでやり取りしていた取引文書を電子化したものです。紙との違いは、ハンコの代わりに秘密鍵が用いられます。また、印影つきの書面は、電子署名つきのPDFなど電子ファイルが用いられます。印鑑証明書や印鑑登録証明書の代わりとなるのが電子証明書です。

電子契約サービス利用の流れ

電子契約サービスを導入した場合の例をご説明します。

A社(発注側)がクラウド上にある電子契約サービスに契約書案等書類をアップロードし、電子署名を行ってB社に送信すると、B社(受注側)に通知され、B社はサービス上で内容を確認、電子署名を行うことができます。サービスによって異なりますが、両社が電子署名を行った書類はそのままサービス上に保管することも可能ですし、別途ダウンロードして管理することもできます。

電子契約サービスで扱う文書

電子契約サービスでは、契約書だけではなく、見積書、発注書、納品書、請求書(インボイス)など、ビジネス上で利用されるほとんどの取引文書で利用されています。図面などの技術文書の共有などあらゆるファイル共有を行う場合もあるようです。結局、メールに電子ファイルを添付して送り合うより、電子契約サービスを使ったほうが便利だからです。電子契約という言葉から契約書に限定して考えがちですが、取引先との電子ファイル共有の基盤として考えていただくとわかりやすいかと思います。

電子契約のメリット、デメリット

まずは、導入によるメリットを4つご紹介します。

●ビジネスのスピードアップ
書面の場合にかかっていた、袋とじや封入などの工数削減による時間の短縮が見込める。

●コスト削減
工数削減による人件費はもちろん、印紙税が不要になる。

●コンプライアンスの向上
取引情報の管理が部門の裁量に左右されない、本社一元管理が可能。
BCPの観点から堅牢なデータセンタ保管のため、災害時等の紛失・消滅の可能性が減少する。
改ざんできない(した場合はわかる)ため、内部統制、監査上役立つ。

●リモートワークに最適
書面への物理的な押印の必要がなく、どこからでも送受信が可能なため出社の必要がなくなる。

一方で、以下のとおりデメリットもあります。

●導入のコスト
初期導入にあたっては社内や取引先への説明・説得のほか、業務フロー変更に伴うコストが発生する。

●取引先に合わせて利用
一般的には、購買側が電子契約サービスの利用を開始し、販売側をサービスに招待する。そうすると、販売側は取引先ごとに異なるサービスに対応せざるをえない。

サービス選択のポイント

実際にサービスを選択する際のポイントとしては、電子署名法や電子帳簿保存法などの法制度に対応しているか否か、ISMSやプライバシーマーク、JIPDECトラステッド・サービス登録の取得企業か否かなどのセキュリティやトラストレベルの確認、現在社内で利用しているシステムとの連携の可否などがあります。本格導入前にトライアル導入期間を設けるなど、使い勝手を確認するとスムーズかつ安心かと思います。

電子署名の方式

ほとんどの電子契約サービスでは、電子署名をすることが可能となっていますが、いくつか方式がある上に、我田引水な説明が多く、やや混乱しているようなので整理します。

電子証明書の持ち主(電子署名の名義)が、当事者(利用企業)なのか事業者(サービス提供事業者)なのかという軸と、電子署名をする場所がクラウドなのかローカルなのかという軸の2つを分けて考えると理解しやすいと思います。(図1)

注意すべきこととしては、本当に重要なことは本人確認のレベルとシステムの信頼性であって、それは方式の違いから生じるものではありません。

図1 電子署名の方式

電子帳簿保存法改正への対応

電子帳簿保存法とは

2022年1月1日に電子帳簿保存法が改正されました。電子帳簿保存法は、帳簿の保存、スキャナ保存、電子取引の3つに分けて考えるとわかりやすいですが、本日のテーマである電子契約は、このうちの電子取引となります。今回の改正により、取引関係書類の保存方法が変わりました。これまでは、電子データで受け取った書類をプリントアウトして紙で保管することが容認されていましたが、今後は電子データのまま保管する必要があります。

2年間の経過措置期間の後、2023年12月から電子保存が義務化されることになっています。インボイス制度も同じく2023年10月開始となりますので、あわせて今年度中の準備をおすすめします。

インボイス(適格請求書等保存方式)制度の開始

前述したとおり、2023年10月からインボイス(適格請求書等保存方式)制度が開始されます。適格請求書等保存方式の下では、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」の保存が仕入税額控除の要件となります。従来の請求書とは異なり、請求書上に適格請求書発行事業者の登録番号の記載が必須となりますが、こちらも電子契約サービスを導入することで対応がスムーズに行えると思います。

おわりに

デメリットのところで述べたとおり、電子契約サービスが普及すればするほど、販売側は購買側が導入する複数のサービスを使い分けなければならなくなるという問題があります。今後は、各サービス間のデータ連携を行えるようにすることで、自社がふだん使っているサービスだけを使えばすむようにしなければなりません。

また、実際の取引の現場では、取引文書の電子化である程度の効率化ができたとしても、契約の前段で発生する業者登録や、セキュリティおよびコンプライアンス等の対応チェックの煩雑さは変わらないので、引き続きこれらを効率化する取組みを進めていきたいと考えています。

講師
合同会社PPAP総研 代表社員/一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)客員研究員 大泰司 章 氏

三菱電機、日本電子計算の営業現場で実際に数多くの企業や官公庁と商取引をする中で、紙にハンコ、PPAP(Passwordつきzip暗号化ファイルを送ります/Passwordを送ります/An号/Protocol)、PHS(Printしてから/Hanko押して/Scanして送ってくださいプロトコル)、ネ申エクセルといった形式的な電子化に苦しめられる。
これらの不合理な商習慣を変えるべく、2012年より一般財団法人日本経済社会推進協会(JIPDEC)にて電子契約やインターネットトラストを普及させる。
2020年からはPPAP総研を設立してユーザ向けとベンダー向けコンサルティング活動に従事。

ootaishi