レポート

平成31年度経済産業省IT関連施策について
Society5.0実現に向けたイノベーション環境の整備

経済産業省
大臣官房政策企画委員(商務情報政策局担当) 俣野 敏道 氏

 本日は、平成31年度経済産業省関係の予算案のうち、特に第一の柱である「データを核としたオープンイノベーションの推進によるSociety5.0の実現」、第三の柱として掲げている「地域・中小企業の新たな発展モデルの構築」、国土強靭化対策に関連する部分について、施策の概要、具体的な予算事業を検討しているかを紹介する。

 現在、政府が掲げている「Society5.0」は、「経済発展と社会課題の解決を両立する人間中心の社会」と定義している。そして、Society5.0を実現するための戦略として、経済産業省では「企業と企業、機械と機械、人と人がデータを介してつながる世界=Connected Industries」を掲げている。Connected Industriesの戦略の肝を端的に表現する「現場のリアルデータとエッジ」である。

データを巡る国際的競争状況

 スマホの位置情報やSNSの情報や検索履歴等の分野は、すでに海外の巨大ITプラットフォーマーがビジネスを推進しているRed Oceanで、この分野での日本の施策はいかにデータ、プライバシーを守るかというところに主軸を置いている。一方、日本が強みを持つ産業データはBlue Oceanなので、この分野で戦っていくための施策をConnected  Industriesという概念のもと進めている。Society5.0やConnected Industriesという言葉は抽象的なので、動画等を通じてより深く理解していただこうと努めている。

 平成31年度、経済産業省はSociety5.0実現に向けたConnected Industries戦略を進める施策として以下の5つをポイントとして挙げている。

 1.新技術・事業の社会実装/データ共有促進
 2.AI戦略(技術開発/人材育成等)
 3.サイバーセキュリティ対策
 4.「人生100年時代」の新たなヒューマン・インターフェース
 5.官民デジタルトランスフォーメーション

新技術・事業の社会実装/データ共有促進

 昨年度、産業競争力強化法および生産性向上特別措置法の改正により、規制のサンドボックスが誕生し、企業の新たな挑戦を支援する仕組みが動き出している。また、既存のグレーゾーン解消制度や新事業特例制度も、申請前のサポートや回答時に理由の提示を義務化するなど拡充し、企業がより活用しやすいものとした。
 データ連携・共有の円滑化に向けた措置としては、現在のデータ収集や活用を行う事業者への支援のためのIoT税制(対象設備に対する3%税額控除)があと2~3年継続される。また、協調領域におけるデータ共有を促進するため、事業者が衛星データや海洋データ、道路データ等の公的データの提供を要請できる制度を創設した。

AI・データエコシステムの創出

 今後の展開としては、大手中堅企業を中心に利活用されるデータ量の拡大、協調領域の拡大を図るとともに、主にAIベンチャーに対し最先端AI技術を用いた業界横断型AIシステム開発支援を行い、両者がつながりAI・データの好循環を促すような取組を行っていきたいと考えている。
 また、NIST(アメリカ国立標準技術研究所)がアーキテクチャの構築を支援しているように、日本においても、業界全体でデータ共用・AIの連携が可能となるような業界共用データ基盤の構築支援として、新規に30.4億円を政府原案として要求している。

AI戦略

世界の中での我が国の立ち位置(国際ベンチマーク)

 日本は現在AI分野で各国に遅れを取っている。米国は、投資額では日本の60倍、人材は7倍という調査結果もある。このような認識のもと、AIに関しては、昨年9月に安西祐一郎氏を座長とするAI戦略実行会議が組織され、国としての戦略が検討されている。

 経済産業省の施策として、特にR&Dでは平成30年度よりエッジでのAI処理を目指しており、ベンチャー企業によるAIチップ開発支援として、テスト環境整備に16.8億円、次世代コンピューティングの開発として84.9億円、また、データセンタにおける省エネルギー化を目指した技術開発にも予算を要求している。
 一方、IT人材は2019年をピークに減少傾向に転じ、2030年には約79万人不足する調査結果をもとに、ハイエンドからリテラシーまで全体的な育成のための施策を進めている。
 トップ人材育成としては、IPAで行っている未踏人材事業やJ-Startup事業、またフランスの「42」のような、企業の事業プロジェクトに実際に参加してスキルを磨くAI実践スクールを通じた育成を考えている。
 ミドルスキルの育成では、厚生労働省と連携し「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を創設した。認定された教育訓練講座のうち厚生労働省の要件を満たしたものは「専門実践教育訓練給付」対象となる。

サイバーセキュリティ対策

 Connected Industriesにおいては、サプライチェーンの構造も変化し、サイバー空間のつながりが複雑化する中では、セキュリティが弱い中小企業から侵入され、サプライチェーン全体に拡大するケース等も考えられる。実際に、水平的にはサプライチェーン経由で国内企業も感染したWannaCryやフラッシュメモリに不正プログラムが仕掛けられた事例のように広がり、垂直的には、米国ではすでにサイバー攻撃の約1割が制御系まで到達している状況となっている。
 このため、防衛や電力等重要インフラやスマートホームにおける対策ガイドラインの策定といった各産業分野の取組の強化と、セキュリティビジネスのエコシステム(ホワイトハッカーによる製品の検収、有効性の検証基盤)構築などセキュリティ製品・サービスの検証基盤整備を、両輪で進めていきたいと考えている。
 併せて、セキュリティ人材の不足、コストの問題が対策のネックとなりがちな中小企業に対しては、サイバーセキュリティお助け隊の創設等、日本商工会議所等既存の支援ネットワークを最大限活用しながら中小企業向けセキュリティ対策を支援していく。
 また、日本は2020年にオリンピック・パラリンピック開催を控えており、セキュリティはより一層重要となってくる。JPCERT/CCを通じて各国とより一層情報共有を行うとともに、初動対応支援を行う「サイバーレスキュー隊」の設置、さらに米国・イスラエルからトップガンを招聘し知識の共有や共同演習等も検討している。

「人生100年時代」の新たなヒューマン・インターフェース

 第四次産業革命や生産性改革・働き方改革が実現すると、AIや機械が代替できない「高度な創造性」が求められる仕事がより一層重要となる。具体的には、人間の創造性を付加価値の源泉とするコンテンツ産業の重要性は高まり、コンテンツのバリューチェーン(生産・流通~消費)に触れる者は増加していくことと考えられる。
 具体的には、新しいBtoCのインターフェースとコンテンツを考えるクリエイティブな部分(=コンテンツ産業)がさらに競争激化すると考えられ、どのようにクリエイティブな人材を増やしていくかが課題となってくる。このため、例えば日常データをケアプラン作成や生活サポート内容の検討に活用する等新たなサービスにつなげるような実証事業を通じて、超高齢社会を迎える日本でビジネスが成立する健康市場、高齢者市場創出に向けたチャレンジを行っていく。

求められるデジタルトランスフォーメーション

 これまでの施策は新しい取組への支援が主であったが、ここではConnected Industriesを社会に浸透させていくための第1歩として、既存の仕組みに縛られている企業がいかにITを戦略的に刷新し、自らの会社の変革(=デジタルトランスフォーメーション(DX))を支援する施策を紹介する。
 システムの変革という文脈ではアジャイル・クラウド、サービス設計では管理者視点からユーザー視点への転換、さらに経営面でいうと戦略的データ活用等がDXとして語られている。
 経済産業省は政府のDXも進め、従来のような単純な文書のPDF化等や個別業務の電子化ではなく、組織としてデータ管理・活用ができる環境を整備していく。具体的には、経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業として、1つのID/PWで手続きを可能とする法人共通認証基盤の構築や補助金申請システムの開発実証を進めているところである。また、さまざまな中小企業支援機関とデータ連携し、中小企業へのプッシュ型情報提供を目指す。

法人共通認証基盤で何が変わるか?

 一方、民間企業では、将来の成長、競争力強化に新たなデジタル技術を活用したDXの必要性は理解されているものの、レガシーシステムの刷新や業務全体の見直しには現場の抵抗も大きく、いかに実行するかが課題となっている。しかし、この課題を克服できない場合、2025年以降最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性がある。
 このため、経済産業省ではDX実現シナリオを掲げ、DX推進ガイドラインの策定、ITシステムの現状・問題点把握のための「見える化指標」策定等を進めているが、今後さらにDX実現に向けた追加策を考えていきたいと思っている。
 また、経済の太宗を占めるサービス産業の生産性向上に向けては、付加価値向上、供給の効率化・集約化ともにIT投資が必要となる。このため、中小企業生産性革命推進事業として1100億円を計上し、バックオフィス効率化や新規顧客獲得のためのIT導入に対する補助や、事業者間でデータ活用し生産性を高めるプロジェクトへの補助等を行おうとしている。

G20に向けて

 先日のダボス会議で安倍首相は、DFFT(Data Free Flow with Trust)は最重要課題で、信頼できる相手とデータを共有していく経済圏を作っていくべきだとスピーチした。
 日本国内に対しては、どのようにConnected Industriesを推進し、超高齢社会の中でどのように強みを発揮させていくかを考え支援を行っていくが、さらにその延長として、今後どこの国とリアルデータを共有しながらビジネスを展開させていくかの制度設計をしていく必要がある。今年、日本は初めてG20サミット議長国となるが、日本が 世界に向けて何を貢献し、何を発信していくのかを考えることが、G20に向けて国際面での経済産業省の最大のミッションとなると考えている。

本レポートは、2019年1月24日開催の第80回JIPDECセミナー内容を取りまとめたものです。