2018.02.28
レポート
経済産業省Connected Industriesの推進について
平成30年度ICT関連施策
経済産業省 商務情報政策局
総務課 政策企画委員 今里 和之氏
Connected Industriesとは
「Connected Industries」とは、様々な企業や機械、データなどがつながりAI等によって新たな付加価値や製品・サービスを創出することで生産性を向上し、高齢化やエネルギー制約などの社会課題の解決、産業競争力の強化、国民経済の健全な発展を推進するものである。
2017年3月に開催されたドイツ情報通信見本市(CeBIT)に世耕経済産業大臣とともに出席した安倍総理は、我が国が目指す産業の在り方としての「Connected Industries」のコンセプトについて、1)人と機械・システムが協調する新しいデジタル社会の実現、2)協力や協働を通じた課題解決、3)デジタル技術の進展に即した人材育成の積極推進を柱とする旨をスピーチした。
経済産業省はその具体的実現のため、これまでバラバラに管理され連携されていない工場、技術・技能等のデータを、1)自動走行・モビリティサービス、2)ものづくり・ロボティクス、3)プラント・インフラ保安、4)スマートライフ、5)バイオ・素材の重点分野ごとに、データ利活用、標準化、IT・AI人材の育成、サイバーセキュリティ強化など横断的に大臣懇談会の場で業界固有の課題、規制・制度を検討している。今年度中には各分野における具体的取組み、スケジュール等について方向性を整理し、今年6月に公表予定の経済成長戦略に盛り込み実施段階に入る予定である。
本日はこの重要施策の一つである「Connected Industries」の実現に向けた税制措置を含む施策についてお話しする。
データ活用に向けた法整備、「コネクテッド・インダストリーズ税制」の創設
一定のサイバーセキュリティが講じられていることを前提に、企業や業種の壁を越えたデータ連携・利活用により生産性を向上させる取組みに必要なシステムや、センサー・ロボット等の導入に対して、特別償却30%または税額控除3%(賃上げを伴う場合は5%)を措置する「コネクテッド・インダストリーズ税制」の創設を国会審議に諮っているところである。
この税制措置を受けるためには、最低投資合計額が5,000万円を超える取組みについて、1)(社内外の)データ連携・利活用の内容、2)セキュリティ面、3)生産性向上目標に関する事業計画を策定し、主務大臣の認定を受けることが必要である。認定されれば、計画に含まれる設備に対し、平成32年度末まで税制措置が適用される。
この「コネクテッド・インダストリーズ税制」の適用事業者認定制度の創設等を含む産業競争力向上に向けたデータ利活用を促進するため、一連の新法を策定中である。
例えば、各事業者からデータを収集し、主体的・恒常的業務としてデータ共有、連携する取り組みに係る計画を認定し、その「認定革新的データ産業活用事業者」がさらにデータのハブ機能としてセキュリティ確認を経た場合、その公益的性格から関係省庁・公共機関等に対し公的データの提供を要請できる制度等の創設も視野に入れている。
産業データ活用促進事業
「Connected Industries」重点5分野の協調領域における産業データのさらなる活用(共有・共用)のため、その基盤となるデータ標準・互換性、API連携等を検証するフィージビリティ・スタディ実証調査を幅広く補助する「産業データ利活用促進事業」に平成29年度補正予算18億円が充当されている。
また、IoT等を活用した新たなビジネスモデルを創出するため、6つの個別産業分野(産業保安、社会インフラ、スマートホーム、航空機、サービス、流通分野)ごとにデータ様式の標準化等のルール整備や、規制の見直し等の事業環境整備を行う実証事業に平成29年度補正予算3億円、平成30年度予算25.4億円を充て、最終年度となる次年度に向け仕上げの段階に入っている。
また、昨年5月に「データの利用権限に関する契約ガイドラインVer1.0」を策定・公表した。データ関係については分野横断的に契約による産業データの利用権限の取決めを促したが、AIが誤作動した結果の問題といったAI責任関係、メーカーから稼働データの提供を受けて開発・作成した学習済みモデルの権利関係といったAI権利関係は明確でなかった。そのため、AIに関する責任分野のルール化、権利関係の明確化、データ関係については取引類型の深掘りやユースケースの充実などを行い、来年5月頃に改訂・公表予定である。
研究開発支援
データ利活用と同様、データを処理するハードウェアについても競争力を維持することが重要であり、AI処理に特化したAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業に対しても予算措置を講じる。
すでにアイディアを持っているベンチャーや中小企業が、設計から試作段階において研究開発や拠点整備を行うことを想定した「AIチップ開発加速のためのイノベーション推進事業」には平成29、30年度予算計25億円を充てるとともに、次世代データセンタや量子コンピュータ技術開発など大掛かりなプロジェクト想定した「AIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業」に総額100億円を充てる。
IT、セキュリティ人材育成
クラウド、IoT、AI、データサイエンスなど新技術・システムに対応するITSSレベル4相当の高度IT人材を育成するため、「専門実践教育訓練給付」の対象となる講座を選定したところで、次年度以降給付開始予定である。
また、才能のある学生や若手を発掘してきたこれまでの「未踏事業」を拡充し、その才能をさらに起業・事業化に生かす「未踏アドバンスト」事業を通して活動を支援していく。
さらに、昨年4月IPAに設置した産業サイバーセキュリティセンターでは重要インフラ業界60社以上から約80名の研修生を受け入れ、重要インフラ対策を進めてきた。次年度は受け入れを100人程度に拡大を目指し、米国・国土安全保障省(DHS)及びICS-CERTから専門家を招聘するなどし、重要インフラ・産業基盤のサイバーセキュリティ対策を担う人材の育成に平成30年度19.1億円充当する。
ベンチャー・中小企業支援
これまで多種多様かつ多くの企業を支援してきたベンチャー施策を統合し、限られた有能なベンチャーのあらゆる業務プロセスを多方面から支援する。
企画から量産までのハードウェア製造プロセス全体をサポートする者を補助する「スタートアップファクトリー構築支援事業」に30億円、リアルデータを持つ大手・中堅企業とAIベンチャーによる共同開発「AIシステム共同開発支援事業」に24億円、さらに10万社単位の中小企業がITツールを導入すること等を目標とする「IT導入補助金サービス等生産性向上IT導入支援事業費」に500億円、ITを本格的に用いて革新的なサービス、試作品開発、製品プロセスの改善を行う事業者等を支援する「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業」に1,000億円を充当、特に企業間データ活用型事業には1社あたり補助上限額を1,000万円、補助率2/3となっており、補正予算の目玉といえる。
デジタルガバメント
経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業では、従来の紙中心・長時間・煩雑だった行政手続きを法人番号の活用でワンストップ・ワンスオンリーへと変えていく。
その一環として、補助金申請のデジタル化については2018年度よりシステム開発に着手し、申請から審査までトータルなシステム化を図る。2019年度には省内で試行し経産省の新規行政手続システムを接続。2020年度には経産省のシステム開発で利用した仕様をオープン化し他府省へ展開する予定である。
本日はConnected Industriesの推進に関する新たな取り組みを中心にお話させて頂いたが、これ以外にも産業力向上を支援するさまざまな取り組みがあるので是非活用していただきたい。