一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2016.09.15

レポート

仮想通貨と法制度の最新動向(2016年9月15日 第59回JIPDECセミナー)

仮想通貨と法制度の最新動向
創法律事務所
代表弁護士 斎藤 創 氏

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ビットコインの概要とその特徴

 ビットコインを通貨や従来型電子マネーと比較した場合、①決済コストが低廉、②強制通用力(発行国内であればどこでも通用すること)の不存在、③匿名性、④投機性を持つ、という特徴があるが、最大の特徴は発行者の不存在である。ビットコインは参加するピア・ツー・ピアネットワーク全体で生成され、特定の発行者、中央機関、ホストコンピュータを持たない。

通貨該当性、電子マネー該当性、有価証券該当性

1. 通貨・外貨該当性・使用規制
(1) 通貨該当性
 「通貨」の定義は明確ではないが、一般に強制通用力の有無、発行者、法律上の発行根拠などを総合して決定されるものと思われる。そのため、ビットコインには強制通用力はなく、ネットワーク上の合意により生成されるという「発行者の不存在」、「法的な発行根拠がない」という性質からも通貨ではない。Mt.Gox破たん後に民主党議員から提出された質問主意書に対する政府答弁でも「強制通用力がないこと」等を理由にビットコインは通貨ではないとされている。
 
(2) 外貨該当性
 「外貨」は外為法(外国為替及び外国貿易法)上、外国の通貨とされており、ビットコインは外国でも強制通用力がないことから「外貨」に該当しない。

(3) 通貨・外貨ではないことと使用規制
 日本で「通貨であること」とは強制通用力(誰でも受け取ってくれる)があることを意味し、授受・使用を希望する人の間でビットコインが流通することを禁止・規制する法律はない。

2. 電子マネー該当性・電子マネーとの違い
 電子マネーを定義・規制する法律は資金決済法であるが、iDなどのような後払式電子マネーについては定義も規制もない。前払式電子マネーには自家型(発行主体だけに使用可能)と第三者型(発行主体以外にも使用可能。Suicaなど)があり、第三者型の前払式電子マネーは、発行者による事前の登録、未使用残高の2分の1以上の預託金が必要などの規制がある。
 前払式支払手段は、①金額(もしくはこれを換算した個数、度数等含む)又は物品・サービスの数量が、紙や電磁記録可能なカード等に記録される、②それに応ずる対価が支払われる、③その発行する者(又はその指定する者)から物品を購入/サービスの提供を受ける時等に利用可能と定義され、Suica、図書カード等もこれに該当するが、ビットコインは発行者に対して「対価」を支払っているわけではなく、発行者もしくはその指定する者に対して使用できるものではないので②と③に該当しないと考えられている。

仮想通貨に関する新規制

 上述の通り、これまでビットコインに対する規制はなかったが、2016年5月、ビットコインと現金、ビットコインと他の仮想通貨を交換する取引業者に関する新規制が成立し、1年以内に施行される。

1. 改正法の概要
 改正法は、マネロン・テロ資金供与規制及び利用者保護の観点からの規制を導入しており、 仮想通貨と法定通貨の売買等を行う交換所を「犯罪収益移転防止法の特定事業者(銀行、信託会社、貸金業者、クレジットカード会社等)」に追加し、犯罪収益移転防止法に規定される①本人確認義務(口座開設時等)、②本人確認記録及び取引記録の作成・保存、③疑わしい取引の当局への届出、④体制整備(社内規則の整備、研修の実施、統括管理者の選任等)の義務、を課している。
 また、利用者保護のため、①利用者の保護等に関する措置の実施(誤認防止のための説明、利用者に対する情報提供、金銭等の受領時における書面交付、内部管理)、②名義貸しの禁止、③利用者が預託した金銭・仮想通貨の分別管理、④情報の安全管理、⑤財務規制、⑥帳簿書類の作成・保存、事業報告書の当局への提出、⑦当局による報告徴求、検査、業務改善、⑧停止命令、登録の取消、が求められている。

2. 改正法についての評価
 改正法の詳細は、今冬発布見込みの政令・府令に委ねられているため明言はできないが、法改正の議論において、仮想通貨の技術的発展を阻害しないこと、ベンチャーでも業として行えることに配慮しているため、比較的低額な純資産や資本金が認められる等、「資金移動業(100万円未満の資金送金を業とする事業者)」に課せられる規制に類似のものになると思われる。したがって業界側からは、イノベーション促進と安全性のバランスがとれたものであるという意見が多い印象を受ける。

3. 改正法下の仮想通貨の定義
 改正法では、仮想通貨を第1号で①物品の購入・サービス利用等に際し、代価の弁済のために使用できる、②不特定多数の者に対して使用することができる、③不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値、④電子情報処理組織を用いて移転することができるもの、⑤本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く、ものと定義しており、第2号で⑥不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの、⑦本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く、と規定されている。ビットコインは当然仮想通貨に該当し、Rippleは第1号仮想通貨に、Etherは少なくとも第2号仮想通貨に該当すると思われる。他方、Suicaなど電子マネーは③に該当しないことや、仮想通貨との間で相互に売買できないことなどから、仮想通貨には該当しない。また、当該ゲームでのみ使用でき、RMT(リアル・マネー・トレーディング)もできないゲーム内通貨の場合、②~④のいずれにも該当しないため仮想通貨に該当せず、企業ポイントを電子化したマイルやポイントの場合は、②、③に非該当のため仮想通貨に当らないとされる。

仮想通貨と消費税

 日本では消費税施行令に例外として列挙されている電子マネーや商品券、株券、土地などを除き、何らかの価値を持つモノの購入や役務提供には消費税が科せられるため、現行法上例外に列挙されていないビットコインには消費税が課せられている。そのため、Aという人が1ビットコインを5万円で買うとすると、5万4千円を支払うことになる。他方、当該Aが商店Bで5万円の物を買う際、「仕入税額控除(すでに消費税がかかったものを交換で仕入れたと考えて、その消費税相当額を控除できる)」が働き、商店Bは1ビットコインで売って良い、ということになっている。
 そのため現在、ビットコインを購入する際には非課税とし、国内で物品やサービスの対価として支払う際に消費税を課すよう業界団体が要望している。これは、小売業者などの経理処理が容易になるとともに、海外の制度との整合性を図るというメリットがある。欧米ではビットコインは非課税であり、シンガポールと豪州では課税だが豪州は非課税化を検討中である。そのため、もし海外の取引所でビットコインを購入し、日本でビットコインを売った場合、消費税分の儲けが出て、実質的脱税になってしまう。税収の適正化という観点からも法改正が望まれるところである。