一般財団法人日本情報経済社会推進協会

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2015.06.15

レポート

インターネット前提社会における経済の発展と信頼の醸成(2015年5月21日 第47回電子情報利活用セミナー)

オンライン完結型社会における基盤
~ID連携トラストフレームワークの役割~
JIPDEC 電子情報利活用研究部
第1課課長 保木野 昌稔

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はじめに~インターネット前提社会

 世界経済フォーラム(ダボス会議)が2011年2月に発表した『パーソナル情報:新たな資産価値の出現』というレポートでは、「個人が生み出す情報を構造化したものをインターネット上に流すようになったことにより、石油産業のように経済的にインパクトのある新産業が生まれ、パーソナルデータが流れることで生まれる産業がパーソナルデータエコシステムになり、その根幹を成すものがトラストフレームワークである」と言っている。
 パーソナルデータの価値がこのように認識されるとともに、モバイルやIoTの発展などにより、すべての人やモノがインターネットでつながり、その上にパーソナルデータを含むビッグデータが流れるインターネット前提社会になりつつある。こうした社会では、次回東京オリンピックが開催される頃には、自宅のテレビ、スマホから観戦チケットを入手、スタジアムまで車で行くと駐車場の空き情報が自動的にリコメンドされ、顔認証によるチケットレス入場、リアルタイムに道路情報をチェックし渋滞を避けて帰宅できるといった、一連のサービスを即自的にシームレスに受けることが可能になるだろう。
 こうした社会の根幹を成す技術としてID連携、それを支える枠組みとしてのトラストフレームワークが重要になる。

ID(アイデンティティ)連携トラストフレームワークとは

 ID連携トラストフレームワークにおけるIDとはアイデンティティのことを指し、識別子としてのIDだけでなく、身元確認や本人確認した結果を含む属性情報などを連携させるものがID連携である。ID連携は1.事業者の個人情報の管理負荷の軽減、2.利用者の登録負荷の軽減、3.ビジネスモデルの創出を目指している。
ID連携トラストフレームワークとは、インターネット上(非対面の環境)で利用者のデータやサービスの受け渡しを行う企業群が、「利用者がその相手を信用し情報利用を任せられる」信用・信頼できる存在であることを保証する枠組みである。第三者機関であるトラストフレームワークプロバイダがID連携を行うためのルール化をし、事業者が当該ルールに従いID連携を行っていることを監査、認証し、その運用状況を利用者に公開することによって信頼を担保する枠組みになっている。
 ID連携トラストフレームワークによって、利用者はあるIdP(Identity Provider)事業者1社に登録したアイデンティティを使いその他各社のサービスを利用でき(シングルサインオン)、必要な処理や手続きの手間を軽減、サービス提供事業者は本人確認や認証を切り分けることで個人情報の管理等の手間を軽減し、サービス提供や事業開発に専念できる。社会全体に対してはインターネット全体の安全性、信頼性の向上と社会的コストの低減(さまざまなサービスがオンラインで完結する)というメリットが期待できる。
 ID連携トラストフレームワークは世界最先端IT国家宣言(IT戦略)の中で、「IT利活用の裾野拡大に向けた組織の壁・制度、ルールの打破、成功モデルの実証・提示・国際展開」という文脈で位置づけられており、JIPDECが平成26年度経済産業省実施事業の一環として実証事業を実施した。同事業では、保証レベル1(個人の身元情報の登録は自己申告による)のテーマを「訪日外国人へのおもてなしサービス」に設定し、自己情報を登録した訪日外国人に無料でWi-Fi接続環境を提供した。保証レベル2(個人の身元情報の登録に際しては信用ある機関の登録情報を参照)では利用者情報の確からしさを確認する環境の利用をテーマにし、それぞれにビジネスモデルを募集するビジネスモデルコンテストを実施した。保証レベル1に対しては二十数件の応募があり、うち3件を採択してサービス実証までを行った(図1)。

図1 サービス実証

データ利用に向けた環境整備の推進状況

 センサーから取得した情報を利用者自身の健康管理などに役立てるとともに、事業者は新商品開発などに活用していく、双方がWin-Winな関係を築けるサービスが増えている。例えば、米Progressive社のSnapshotは、契約者の運転頻度、速度、急ブレーキなど運転行動データを収集し、優良ドライバーには自動車保険料をディスカウントするといったサービスであり、日本でもソニー損保や損保ジャパンが同様のサービスを行っている。近年のセンサー技術の発達に伴い、装着が簡単で多くの情報が取得可能なデバイスが開発され、より個人に紐づいた情報が事業者にも取得されている。そのため消費者は、企業が収集するデータの利用状況などを知ったうえでサービスを利用する、すなわち消費者と事業者の情報の非対称性を是正していく必要がある。こうした動きが世界的にあり、消費者の権限を強化する政策というものが各所で推進されている。イギリスでは、BIS(職業技能省)が消費者強化戦略(消費者の権限を拡大し、商品やサービスの購入時に消費者がよりよい選択や、取引を行う)の具体策を『Better Choices : Better Deals- Consumers Powering Growth』で発表しており、この施策を受けて企業・規制改革法が制定され、Midata initiativeという施策も推進されている。
政府に加え民間における取組も増えてきており、消費者権限の強化という考えの下にPersonal Data Store(PDS)という概念が登場している。現状のインターネットサービスでは消費者があるサービスを利用すると顧客データはベンダーAに蓄積され、第三者提供の可否を含めベンダーAの管理下に置かれ、消費者にはパーソナルデータの流れがわかりづらい。PDSはそれぞれのサービスの利用履歴がそれぞれのベンダーA,B,Cに蓄積されていくが、それらを消費者に公開するため消費者自身の意思で選択したベンダーに対してのみパーソナルデータを提供する情報コントロールを可能にする。
わが国でも、東京大学の柴崎先生が取り組まれている「情報銀行」は、各種サービスを利用した結果生成・蓄積されたプロファイル情報や利用ログを利用者側の意思で取得し情報銀行上に預け、情報銀行は当該消費者のポリシーに従い半自動的に消費者データを運用するというもので、PDSの1つと考えられる。

今後の方向性

 実世界とサイバー空間の相互連関が生まれ、様々な情報を半自動的に蓄積、解析した結果を踏まえ、その情報が現実世界のサービスへと展開されていくエコシステムは「Cyber Physical System(CPS)」と呼ばれている。CPSが実現する社会では、半自動的にデータが取得され、利用者の意思に基づき第三者提供、利用されるようになるだろう。他方、今後のインターネット前提社会においては、センサー情報やウェブサイト上のサービス利用履歴を適切に管理することが必要になる。CPS社会を実現するためには、データを活用して課題を洗い出し、検証を繰り返しながら解決することが必要である。
 JIPDECでは今年度、ID連携の事例、ノウハウやベストプラクティスなどの共有などを行い、ID連携トラストフレームワークの枠組みを事業者の皆さんと推進する場としてコンソーシアムを設立する。ID連携トラストフレームワークやコンソーシアムに関心のある方々からのご連絡をお待ちしています。

ご連絡先:dupc-identity@tower.jipdec.or.jp

  • 2015年5月21日 第47回電子情報利活用セミナー「インターネット前提社会における経済の発展と信頼の醸成」