レポート

個人(ヒト)からモノへ
IoT時代の情報産業の進化を考える
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科
特任講師(非常勤) 植木 淳朗 氏

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 近年、IoT(Internet of Things)への注目が高まっている。IoT社会においては、モノがネットワークに接続されることにより、個人(ヒト)と情報の関わり方だけでなく、モノと情報、モノとモノの関わり方がだんだんと変化し、進化していくと考えられる。本講演では、IoTの発展による情報産業の変化や課題、可能性について紹介する。

IoTはどこに向かっているのか?

 かつて、インターネットを通じた情報発信の主体は、主にヒトであった。しかし近年では、個人だけでなく、ヒトが所有する携帯電話などのデバイスそのものが情報発信の主体となることで、ネットワークに発信される情報量が爆発的に増えてきている。
 さらに、情報量の増加だけでなく、それら主体間の連携にも、大きな変化が起こっている。これまでM2M(Machine to Machine)のように、単純に一対一のやりとりのみで完結していたものが、これからは、機械と機械の間にヒトが介入して命令を行うなど、各主体のつながりがどんどん複雑化していくことが考えられる。
 また現在、情報は、人が経路をつくり意識的にネットワーク上に発信しているものがほとんどである。しかし、今後は、たとえばある環境に埋め込まれたセンサーが情報を自動取得し、自動的にネットワーク上へアップロードしていくといったような、人間が意識的に処理を行う範囲を大きく超えた情報が多く生みだされていくだろう。

注目したポイント

 ものが情報化すること、すなわち、機械から自動的に生成されるような情報が増えることにより、実空間の情報化が進んでいく。これにより、Webと同じように、KPIやコンバージョンのようなデータ評価が、実空間にも適用できるようになると考えられる。
 また、機械が自動的に情報を生成するということの根底では、ロボットが大きな役割を果たしている。ここで重要なのは、ロボットが、人による設定・命令を待つものではなく、自律的に情報を収集・動作・発信する存在であるということである。このように自動的・自律的に動作する機械により、人の暗黙知や身体情報、地理情報といった、人が意識的には発信できないような情報の流通が増大していく。また、情報を機械が自動的に取得しネットワークにアップロードするような、MtoMでの情報のやりとりがベースとなっていくことなどから、情報流通構造において大きな転換がもたらされると考えられる。

予想される問題

 情報流通の質や量が変化していく中で、さまざまな課題が生じることも考えられる。たとえば、複雑系ネットワーク下では、一つの誤った情報が広範囲に影響するため、情報の評価を複数のソースから行う必要があるだろう。また、個別のデバイスやネットワークへのハッキングや情報漏えいなどを、ネットワーク全体で検出できるようなアルゴリズムの設定も求められるのではないだろうか。さらに、不特定多数の情報源を活用するためには、その情報の出所や経路といったメタ情報が重要となるので、その情報の信頼性を測るアルゴリズムや評価システム、またメタ情報の標準的な記法などが必要となるだろう。
 また、情報発信主体や情報流通量が増大するにつれて、ヒトが手動で処理できる範囲はますます限られていく。情報の精査や組み合わせ、各デバイスのアップデートなどを手動で行っていくことが困難になることが想定されるため、自律的に探索的に情報を結びつけられる仕組みや、一定のルールのもとに機器自体が自律的にプログラム更新を行い、各情報の連携を学習できるような仕組みづくりが求められるだろう。
 また、情報流通に関して、現状は人や企業間での情報のやりとりを想定した法制度やルール設計となっているが、今後は、機器間での情報交換に関する規定やプロトコルの設定、また自律的に情報収集する学習型の人工知能に関する法整備などが必要になると考えられる。

注目したい分野・領域

 IoTが盛んになるなかで注目を集めている分野・領域がいくつかある。
 多種多様なモノが情報発信主体となっていくことで、現在APIとして提供されているもののモノ版のような、不特定多数の主体における相互通信を保証するようなプロトコルが今後生み出されていくだろう。また、マルチレイヤーネットワークに関する研究としては、メッシュネットワークや時空間共有コミュニティシステムなどが注目を集めている。
 また現在は、携帯電話の利用契約のように、デバイスごとにネットワークへのアクセス権を買うかたちが主流であるが、今後は、所有するデバイスを包括してひとつのIDに結び付けるかたちの契約など、契約の性質にも変化が生まれるだろう。
 人工知能に関する分野にも注目が集まる。情報処理の過程において、たとえば色や形を個別で学習させてからそれらをつなげる学習をさせるなど、人間の脳のような処理をさせることで、短時間で高性能なコンピューティングが実現できるディープラーニングという研究も盛んにおこなわれてきている。また、人を介さずに相互学習をすることができる人工知能間のコミュニティや、不適切な機械やコード動作などを半自動的に検出・ジャミングできる危機回避アルゴリズムなどの開発も進むだろう。
 さらに、情報の流通管理に関する組織的なシステムも重要になってくる。たとえば、企業と企業が個人情報のやりとりを行うための仕組みであるトラストフレームワークや、デバイスが取得した情報を特定の運営体(情報銀行)に預け、安全に管理するための研究が行われている。さらに、たとえばサービスごとにプライバシー管理条件の設定などを行う負担を軽減するため、ポリシーの委託サービスのようなものも生まれるのではないだろうか。

まとめ

 今後、IoTの発展によって変化・増大する情報流通に適切に対応するために、情報の交換基準や法律、情報利活用のための社会システムの整備だけでなく、インフラとして使用されるための自律学習型人工知能技術の開発なども進んでいくと考えられる。
 また、情報流通の変化・増大にともない、ヒトが一つ一つ設定や命令を行っていくことが困難になっていくことが想定される。こういった状況下では、たとえば大まかな基本サービスやプリセットを定めておき、ヒトは必要になった時にだけ詳細を見ればよいといったような、情報流通の事前設定をしていくことや、機器間やサービス間で情報流通のルール違反を相互監視できるようなシステムをあらかじめ組み込んでおくことなどが理想的だろう。複雑系のネットワークを処理する場合、拡張可能な設計を土台とし、小さく単純化した範囲から運用を始め、だんだんとパターン学習をさせていくようといったように設計開発をすすめていくのが、IoT主流の時代にあった方法ではないだろうか。

  • 2015年5月21日 第47回電子情報利活用セミナー「インターネット前提社会における経済の発展と信頼の醸成」