レポート

社会保障・税番号制度と民間事業者の役割

-個人情報保護法と番号法の関連性・相違性-



特定個人情報保護委員会 委員長
一橋大学 名誉教授  堀部 政男氏

プライバシー・個人情報論議の世界的展開

堀部政男氏

 「プライバシー」については、1890年に米国の法律家が論文で権利として主張して以降、米国各州の裁判所で認められるようになり、日本では1950年代後半ころから学術的な研究が進められてきた。1961年に三島由紀夫氏の小説「宴のあと」によりプライバシーを侵害されたとして提起された訴訟が大きな注目を集め、今から51年前となる1964年の東京地裁判決で、日本の裁判所において初めて正面からプライバシー権が認められた。

 その後欧米各国でプライバシーを保護するための法律の制定が進んだが、ヨーロッパは情報の保護を、アメリカは情報の自由な流れを重視するという方針の対立が生じ、OECD(経済協力開発機構)が調整を行うようになった。1980年9月のOECDによる「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関する事会勧告(OECD プライバシー・ガイドライン)」の採択を受けて、日本でも当時の行政管理庁のプライバシー保護研究会が立法化の提言をした。1988年には「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」を制定した。一方、1981年1月には欧州評議会が「データ保護条約」を各国の批准に付し、この日「1月28日」は現在、世界的に「データプライバシーデー」としてプライバシー保護に係る行事を開催する日となっている。

 1990年7月に公表された欧州委員会データ保護指令提案では、「EU加盟国以外の第三国への個人データ移転」について「十分なレベルの保護措置を講じていない国へはデータを移転してはならない」という条文が盛り込まれ、1995年に採択された。アメリカは独自の対応を進める一方で日本では対応が進まなかった。また、当時日本には民間の個人情報の保護について定めた法律がなく、欧米から批判されていた。その後、日本では、1999年以降、住民基本台帳ネットワークシステムの導入の検討とともに個人情報保護法の制定に向けた議論が進められ、高度情報通信社会推進本部に個人情報保護検討部会が設けられ、2003年5月に、「個人情報保護法」が制定された。

 1970年代以降、世界各国で法律が制定され、現在は、国連加盟国の半数以上となる100か国以上で個人データ保護に関する法律が整備されている。2010年代は、技術の進展や環境の変化のなかで、現行制度の再検討の議論が世界的に進められている。日本では、個人番号の導入について検討が進められ、2013年に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「番号法」)が制定され、2014年1月に特定個人情報保護委員会が設置された。また、海外の動向も踏まえて、個人情報を保護しつつ利活用していくための議論も進み、2015年には個人情報保護関係法の改正法案の提出が予定されている。

個人番号と特定個人情報保護委員会の役割

 2015年10月1日以降、個人番号の通知が始まり、2016年1月1日以降、実際に利用が始まることとなる。個人番号の利用拡大については、番号法の附則第6条第1項にも「施行後3年を目途にして」と書かれているが、当初検討していた社会保障、税、災害関連の分野を越えて広げていこうという議論が進んでいる。政府はまず、預貯金の分野に用途を広げるための法律案を2015年の通常国会に、2月以降頃に出すことを予定している。

 番号法が個人情報保護法と大きく異なる特徴の一つは、特定個人情報保護委員会という独立性の高い第三者機関を設け、番号法施行の監視・監督にあたることにした点にある。2014年には委員長と委員2名であった特定個人情報保護委員会は、2015年1月から5名体制となり、2016年1月からは7名体制となる予定である。

 特定個人情報保護委員会は、現在は、社会保障、税、災害分野における個人番号の利用を所管するとなっているが、番号法の附則第6条第2項に、施行後1年を目途として、特定個人情報以外の個人情報についても、監視・監督する事務を特定個人情報委員会の所掌事務とすることを検討し、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする旨が規定されている。実際にはIT総合戦略本部のパーソナルデータに関する検討会で監視・監督対象拡大の検討が進められてきており、2015年の通常国会に改正法案が提出される予定である。現在の特定個人情報保護委員会が、「個人情報保護委員会」となれば、個人情報に対する様々な監視・監督や、海外の個人情報保護機関との連携・協力など一層重要な役割を担うことになるだろう。

 特定個人情報保護委員会は、公正取引委員会、国家公安委員会とともに内閣府に置かれる3つの委員会のうちの1つで、いわゆる3条委員会であって、非常に重要な役割を果たしている。現行の個人情報保護法で主務大臣が有する、違反行為をした者に対する勧告および命令の権限などを、番号法においては特定個人情報保護委員会が持っている。

特定個人情報の取扱いに関するガイドライン策定

 特定個人情報保護委員会では、行政機関や民間事業者が「特定個人情報」(個人番号を含む個人情報)を取り扱う際の指針について議論し、2014年12月11日に、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)(本文)」および「(別添)特定個人情報に関する安全管理措置」「(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」を公表した。また、いただいた意見などを踏まえて、これらのガイドラインに関するQ & Aを作り、公表している。

 番号法は一般法よりも優先される「特別法」であり、全ての事業者は、番号法が特定個人情報について規定している部分の適用を受けることとされている。特定個人情報に関し、番号法に特段の規定がなく個人情報保護法が適用される部分については、個人情報保護法上の主務大臣が定めるガイドライン・指針等を遵守することを前提としている。

 事業者の皆様には、このような、これまでのプライバシー・個人情報を巡る議論の流れと番号法の趣旨をご理解いただいた上で、Q & Aなどの公開情報やガイドラインを参考に、個人番号と特定個人情報を適正に取り扱っていただきたいと考える。