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2023.12.22

レポート

メタバースと個人情報やプライバシーについて

一般財団法人日本情報経済社会推進協会
電子情報利活用研究部 野町 綺乃

1.はじめに

2007年のセカンドライフが登場した際に、メタバースというワードが一定数検索され、2021年秋ごろ、Facebook社が社名をMeta社に変更するということから、以前よりGoogle Trendsでの検索数が急上昇し、話題となった。

「メタバース」とは、ギリシャ語で“超越した”、“より高次の”という意味を持つ「メタ(meta)」と“世界”、“宇宙”を意味する「ユニバース(Universe)」を組み合わせて作られた言葉で、1992年に発表されたニール・スティーヴンスンのSF小説『スノウ・クラッシュ』の作品内で、「インターネット上の仮想空間(情報によって構築されたサイバー空間)」として扱われたものがメタバースの始まりと考えられている1

メタバースについては明確に定義されていないが、一般的には、「VRなどを利用し、没入感がある仮想空間において、ユーザーが物理的な制約を受けることなく、現実世界に近い体験、すなわち、アバターなどのアイデンティティを起点として、他のユーザーとコミュニケーション、コンテンツ制作、売買などの経済活動ができるもの2」を指すと考えられている。

近年、社会全般において、個人情報やプライバシーへの関心が高まっていることから、今回は、メタバースにおける個人情報やプライバシーに関する問題として、アバターやメタバース上で収集される情報(行動履歴)の取扱いについて取り上げる。

  • 1 國光宏尚,2022年,『メタバースとWeb3』,東京:株式会社エムディエヌコーポレーション、成原慧,2022年,「特集論文 メタバースのアーキテクチャと法—世界創造のプラットフォームとそのガバナンス—」『Nexcom Vol.52 2022 Winter』、AMTメタバース法務研究会,2022,「(第1回総論—メタバースと法)」,『NBL』,No.1223、三宅陽一郎,2022年6月,「[メタバースがやってきた]2.メタバースの成立と未来—新しい時間と空間の獲得へ向けて—」『情報処理』,Vol.63 No.7他

2.アバターについて

メタバースにおける「アバター」の取扱いについて考えていく。

個人情報保護法における「個人情報」とは、生存する「個人に関する情報」であって、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができるものを含む。)」又は「個人識別符号が含まれるもの」3と定められている。

メタバースにおける「アバター」とは、「ゲームやネット上で動かすキャラクター4」である場合だけでなく、「自己の分身として、顔のパーツ(例:目、鼻、髪型、肌色)や身体の形状、あるいは服装のデザインなど、極めて詳細に設定・調整されたもの5」である場合もある。

アバターを自己の分身として、「個人」を忠実に再現する場合や「個人」を忠実に再現していない場合でも、他の情報と容易に照合することができ、その情報を参照して、特定の個人を識別することができるものを含む場合6には、個人情報に該当し、個人情報保護法を遵守することが必要となる。

他方で、アバターが「個人」を忠実に再現しておらず、他の情報と容易に照合することができず、特定の個人を識別することができない場合には、「個人情報」には該当しないと考えられる7。ただし「個人情報」には該当しない場合であっても、ユーザー本人のプライバシーへの配慮の観点から、個人情報を取り扱う場合と同程度の保護措置を講ずることが望ましい8と考えられる。

3.メタバース上で収集される情報(行動履歴)について

「メタバース上で収集される情報(行動履歴)」の取扱いについて考えていく。

メタバースでは、メタバース内に一度入ってしまうと、利用者の行動に関するデータが収集・記録できる。

ユーザーがアイトラック・フェイストラック・フルトラックなどを利用している場合には、人の視線・表情・体の動作などの動きのデータを収集することもできる9

メタバース上では、既存のインターネットサービスよりも、より多くのパーソナルデータを収集することが可能である10と考えられているため、プライバシー侵害のリスクの程度も大きくなる11と考えられる。

また、プラットフォーマーは利用者の行動に関するデータを活用することにより、ユーザーに対するパーソナライズされたサービス提供や提案、ビックデータとして利活用することなどが想定される。ユーザーのIDや登録情報に、メタバース空間上でのアバターやその行動などに関する記録が紐づけられている場合など、特定の個人を識別することができる場合には、行動履歴なども含めて個人情報に該当するため、個人情報保護法を遵守することが求められる。

他方で、ユーザーのIDと登録情報、メタバース空間上でのアバターやその行動などに関する記録が紐づけられていない場合(行動履歴単体)など、個人情報に該当しないデータを収集する場合でもプライバシー配慮の観点から、ユーザーが、「データを勝手に取得・蓄積し、利用されている」と感じてしまわないよう、利用目的の特定、本人への通知・公表、同意の取得などを丁寧に行う必要があると考えられる。

メタバースを通じて取得し、利活用する情報をプラットフォーマー自らが制限し、当該情報の取扱いについてはその管理方針や管理方法についてのプロセスを公表する等して、透明性を確保することが望ましい12と考えられている。

さらに、透明性確保に加えて、ユーザー自身がメタバースを通じてプラットフォーマーに取得される情報の対象や利活用の方法をコントロールできるような仕組みを導入することも望ましい13と考えられている。

今後、メタバース内で様々な活動が行われていき、メタバース内で生活する人々も増えていくことから、既存のインターネットサービス以上に、データや情報などのプライバシーの保護は重要である14と考えられている。

4.おわりに

今回は、メタバースにおける個人情報やプライバシーに関する問題について取り上げたが、メタバースはゲームに限らず、SNSといったコミュニケーションツールや、エンターテインメント、オフィス、学校・教育、医療、観光など様々な分野で活用されつつある。

そのため、メタバースを利用する分野ごとやコンテンツごとにも、個別の状況を踏まえて、具体的な検討を行い、プライバシー侵害が起こらないように、丁寧に進める必要があると考える。

著者
JIPDEC 電子情報利活用研究部 野町 綺乃

データ利活用、プライバシー保護に係る課題や環境整備に向けた調査、ISO/TC307(ブロックチェーンと分散型台帳技術)国内委員会の国内審議団体事務局の業務などに従事。