DX組織を支えるITサービスマネジメントシステム
~JIS Q 20000-1:2020の概要と特徴~

ITSMS専門部会 副主査
株式会社ヒルアビット 代表取締役 黒崎 寛之氏

 ビジネスのデジタル化が加速したことにより、データとデジタル技術を活用した新たなサービスが続々と生まれる時代を迎えています。このようなサービスをマネジメント(管理)する仕組みを整備することは、ビジネス成功に必須の要素であると共に、企業においてもビジネスとITの一体化、すなわち「デジタル・トランスフォーメーション(DX)組織」への変革、醸成は重要な課題と言えます。
 本講演では、2020年8月に発行した「ITSMSユーザーズガイド -JIS Q 20000-1:2020 (ISO/IEC 20000-1:2018)対応-」に沿ってJIS Q 20000-1:2020の概要と特徴をご紹介し、DX組織への変革を実現するために、「JIS Q 20000」がどのように活用できるのか、解説します。
 

はじめに

 ビジネスのデジタル化に伴い、ビジネスとITの一体化、すなわち、DX組織への変革、醸成が重要課題となっています。

DXとは
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
(2018年12月発表 経済産業省『DX推進ガイドライン Ver.1.0』より)

 本講演では、DXにITサービスマネジメントシステム(ITSMS)(JIS Q 20000-1:2020)がどう貢献できるかを解説します。なお、2020年8月にITSMSユーザーズガイド(改訂版)が発行されていますので、ぜひご参照ください。

JIS Q 20000-1:2020 特徴と概要

マネジメントシステムとは?
 マネジメントシステムとは、自社の活動について方針、方向性、目的を明確にし、それを達成するために何をすべきかのプロセスを確立するための仕組みを指し、企業の経営テーマに沿って実現するための仕組み、基準を提供するものです。
 マネジメントシステムの基本的な考え方は、方針、目的を明確にして、トップマネジメント(経営陣)により方向性や行動の狙いを計画(Plan)し、目的の実現・達成のためにその計画を導入、運用(Do)し、活動が意図した内容に沿っているかについてパフォーマンスを評価(Check)し、目的に達していなければ改善(Act)するという、継続的改善モデル(PDCA)を適用しています。本規格以外の各マネジメントシステムもPDCAを適用しています。


サービスマネジメントシステム(SMS)の意図した成果
 SMSの定義は以下のとおりです。

図1.サービスマネジメントシステムの定義

図1.サービスマネジメントシステムの定義

 サービス提供者の使命として、①顧客ニーズに提供サービスを合致させ、ニーズの変化に応じてサービスも変化させ続けていくこと、②サービス品質の継続的な向上、③サービス提供コスト増加の抑制・低減が挙げられます。なお、SMSの導入によりコストが削減されると捉えられがちですが、SMSにはむしろ今後増えるであろうコストを抑制する(コストの増加を中長期的に抑制・低減する)効果があると捉えています。

DX組織におけるSMSの位置づけ
 サービスマネジメントおよびサービスマネジメントシステムの定義は以下のとおりです。

図2.サービスマネジメント/サービスマネジメントシステムの定義

図2.サービスマネジメント/サービスマネジメントシステムの定義

 サービスマネジメントは、顧客からのサービスの要求事項をインプットとし、サービスを通じて価値を提供する仕組みです。これは、DX組織として実践していかなければならない活動と合致しており、活動推進のためのエンジンとして活用できると思います。

特徴と概要
 JIS Q 20000-1:2020の主な特徴は以下の5点です。

① すべてのマネジメントシステム規格で使用される上位構造(HLS)を採用しています
② サービスマネジメントの成長傾向を考慮し、ベストプラクティス及び様々なガイドラインとの整合性を高めています
③ サービスマネジメントに最低限必要な活動が網羅されています
④ 知識、サービスの計画など、新たな箇条が追加されています
⑤ リーダーシップ及びコミットの中で「価値の認識」について要求されています

①すべてのマネジメントシステム規格で使用される上位構造(HLS:High Level Structure)の採用
 HLSは、いわゆるマネジメントシステム作成者向けのISOのルールブック*で定められた、すべてのマネジメントシステム規格に共通の上位構造です。JIS Q 20000-1:2020では、HLSを始めとしたマネジメントシステム規格共通の要素(構成、用語及び定義、共通テキスト)が採用されました。そのため、複数のマネジメントシステム規格を導入する組織において、ダブル/トリプルスタンダードになりがちだった項目が共通化され、他の規格との統合が容易になりました。

*「ISO/IEC専門業務用指針 第1部 統合版ISO補足指針」(この指針の附属書SL「(規定)マネジメントシステムの提案」にマネジメントシステム規格共通の要素が規定されています)。



②サービスマネジメントの成長傾向の考慮とベストプラクティスの整合性向上
 最近は、各社が提供するサービスレベル(品質、機能、ブランド力)での差別化が困難になっており、利用者は価格や量で判断するなど「サービスのコモディティ化」が発生してきています。また、1社提供からサプライヤーの協力を得たマルチベンダー環境下でのサービス提供の場が増えている中で、マルチベンダー環境をどうコントロールしていくか、などの課題も出てきており、さらにはDXによるビジネスとITの一体化が推進されるという状況にもあります。このような状況に柔軟に対応するために、JIS Q 20000-1:2020では方法論に自由度を持たせることとし、過去の規格における「どのように実現するのか」の要求事項を見直し、「何をすべきか」に焦点を当てました。その結果、さまざまなサービスマネジメントの方法論とうまく整合が取れるようになりました。

③最低限必要なサービスマネジメント活動を網羅
 JIS Q 20000-1:2020はサービスの品質、実現に何が必要かという点から、プロセスを細分化・グループ化して提供しており、わかりやすく、必要なものを網羅した規格となっています。言い換えれば、適用除外がなくすべての要求事項を満たす必要があることから、以下のプロセスすべての実装・運用が必要不可欠となります。

図3.JIS Q 20000-1による提供サービスのプロセス

図3.JIS Q 20000-1による提供サービスのプロセス

 なお、21項目の個別活動について特徴と概要を整理していますので、ぜひ本日の講演資料ITSMSユーザーズガイドをご活用ください。

④新たな箇条の追加
 今回の改訂で新たに3つの細分箇条が追加されました。
■7.6 知識 
 サービスマネジメント推進のためにはスタッフの効率的な作業に必要となる情報の管理が必要です。ナレッジとは、共有できる環境でコントロールされている可視化・言語化・体系化された知識を指すので、スタッフの作業効率を高めるためにナレッジが必要となります。

■8.2.2 サービスの計画 
 8.2.2では、まずサービスの要求事項を決定し、文書化するよう求めています。サービスの要求事項はSMS活動においてインプットとなります。サービスマネジメントは、要求事項を満たしたサービスを提供し、さらに顧客にとっての価値、提供者側の価値を創出する活動なので、インプット(サービスの要求事項)の明確化は大変重要となります。加えて、利害関係者のニーズに基づきサービスの重要性を決定すること、そしてサービス間の依存関係と重複を判断し管理することも求めています。
 このように、この細分箇条は、「組織の価値を最大に発揮するために、限られたリソースと能力をどのサービスドメインに集中したらよいか、投資の意思決定をサポートする役割を担う」サービスポートフォリオを象徴しており、投資の意思決定のサポートに役立ちます。

■6.2.2 目的を達成するための計画 
 サービスマネジメントの目的を確立し、何をするかを具体的に計画として決定し、活動することを定めていますが、結果の評価方法まで決めて計画することが非常に重要な要求事項となります。計画が達成できたかを測定、評価することで成果が把握でき、達成感を得られるようになります。

⑤「価値の認識」に関する要求事項の追加
 サービスを提供する自組織の価値はもちろん、顧客にとっての価値をサービス提供組織のメンバー全員が十分に認識したうえで活動を成功させ、それをトップマネジメントが責任を持って実証することを要求しており、価値を認識させるという大変重要な要求事項となります。
 サービスマネジメントにおいて重要な原則である顧客志向にも関連しており、「価値の創出」というDX活動にも通じる考え方と捉えています。
 では、JIS Q 20000-1:2020の「サービス」の定義から「価値」について考えてみましょう。JIS Q 20000-1:2020では、「サービス」とは「顧客が達成することを望む成果を促進することによって,顧客に価値を提供する手段」と定義されています。サービスの「価値」は、有用性と保証という要素から構成されます。有用性(目的への適合性)と保証(使用への適合性)の言葉の意味から捉えると、サービスとは「顧客ニーズを満たすために何を行い、どのようにそれを保証するかにより、価値を創出し、価値を顧客に提供すること」といえます。
 ここで重要なことは、「1/4インチ・ドリルが欲しいわけではない、1/4インチの穴が欲しいのだ」という有名な言葉に示されているように、顧客は自分たちが求める価値を得るためにサービスを利用しているのであり、提供者側のサービス自体に直接的な価値を感じているわけではないということを理解しておくことです。

DX組織におけるSMSの役割

DXが求められる背景
 改めてDXとは何かを振り返ると、経済産業省の「DX推進ガイドライン」には、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。
DXが求められる背景の1つとしては、2019年のJIPDECセミナー「デジタルビジネス時代のITサービスマネジメントシステム」の前段でも触れているように、いわゆる「2025年の崖」への対応があります。では、具体的な事例からDX組織に必要な要素を見てみましょう。

事例から見るDX組織に必要な要素
 ロールスロイス社は自社の航空機エンジンを、製品ではなくサービスとして販売することに事業戦略を切り替えました。エンジンを従量課金制とし、IoTを駆使して収集したデータを整備やリソース管理等に活かし、さらにコンサルテーションなどにも注力するビジネスに変えました。データとデジタル技術を活用し、従来の自社製品の価値を向上させる販売活動から、組織やこれまでとは異なるビジネスを行うという、ビジネスそのものを変革して価値を提供する方向に移行したのです。まさにDX組織への移行ですが、そのためにはビジネスとITの一体化と組織の変革が必要でした。

SMSがDX組織を支援する
 DX組織を推進するためには組織の変革が必要ですが、その一助としてSMSを活用できるのではないかと考え、DX推進に必要な要素と課題、実現のために適用できるSMSの箇条を紐づけたのが次の図4になります。
 たとえば、課題「能力と意欲の不足の解消」に対し、SMSの「力量」と「認識」を紐づけています。「力量」とは、知識と技能を業務に適用する能力と定義しています。教育・訓練の中で単に知識、技能を身につけるだけでなく、それらを活動に適用できる能力を養ってこそ、力量の維持向上に繋がるので、その点を理解していれば「能力と意欲の不足の解消」に適用できるのではないでしょうか。

図4.DX組織推進のためのSMS適用(例)

図4.DX組織推進のためのSMS適用(例)

DX組織におけるSMSの活用モデル(例)
 顧客や社会のニーズが最終的にDXの成果として顧客、組織の価値創出に繋がることがDXに求められる使命となりますが、その中でSMSはどう活用できるのでしょうか。
 SMSはやるべきことを要求しているので、具体的な方法論は範疇に含まれていません。価値を創出するための多様な思考法や枠組みなどの方法論を束ねて組み合わせることで最終的にDXの成果に繋げていくことになると考えられます。組織文化そのものの変化のためにSMSをDXの基盤として活用し、マネジメントシステム(PDCA)をツールとして導入し、方法論を活用することで、DXとJIS Q 20000-1がうまく共存できる仕組みになるのではないでしょうか。

図5.DX組織におけるSMSの活用モデル(例)

図5.DX組織におけるSMSの活用モデル(例)

まとめ

 サービスを提供する現場の皆さんの取るべき行動をSMSの活用によって決めていき、DXを実現していただきたい。組織管理や運用基盤を根付かせるためのツールとしてマネジメントシステムがあります。ぜひSMSをツールとして活用し、運用基盤として利用していただきたいと思います。

ITSMS専門部会 副主査 株式会社ヒルアビット 代表取締役 黒崎 寛之
某SIerにてデータセンター運営、ITアウトソーシング事業の責任者を経験。「要点解説ITILがわかる」、「要点解説ITサービスマネジメント」(共に技術評論社)の著者であり、現在は各種プロジェクトマネジメント対応、運用業務の改善・組織変革の支援・ITIL®実装・ITSMS、BCMS、ISMS及びクラウドセキュリティ等認証取得に関するチーフコンサルタント、関連教育コースの講師など、幅広く活動するとともに、JIPDEC ITSMS技術専門部会のメンバーとしてISO/IEC 20000の普及・利用促進のための活動も行っている。

■資格
itSMF認定 ISO/IEC20000 コンサルタント/itSMF認定 ISO/IEC20000 審査員/PeopleCert認定 ITIL 講師/EXIN認定 ISO/IEC20000 講師/BSIグループジャパン認定 ISO/IEC20000 講師/IRCA認定 ITSMS審査員/QMS審査員/ITIL Managing Professional/ITIL Expert/ITIL Practioner/ITSM Specialist/ITSM Professional Support Certificate of IT Service Management/According to ISO/IEC20000

本内容は、2020年9月25日に開催された第97回JIPDECセミナー「DX推進エンジンとしての「JIS Q 20000」の活用」セミナーの講演内容を取りまとめたものです。