一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)

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令和2年度 経済産業省IT関連施策について

-デジタル経済の進展への対応-

経済産業省 商務情報政策局
総務課 係長  宮原 圭一朗氏

 デジタル技術が進展する中で、様々な変化が起きている。本日は、その変化に対して、国としてどのような対策を取ろうとしているかをお伝えしたい。

Society5.0~目指すべき将来像~

 日本が目指すべき将来像、それがSociety5.0である。「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と定義されているが、あらゆるものがデータでつながりAI等が活躍するような、サイバー空間とフィジカル空間の境目がない世界をイメージしていただけるとわかりやすい。Society5.0に向けて、「サイバー空間とフィジカル空間の融合」は今後の経済産業省施策の重要キーワードである。

 これまでの情報社会は、フィジカル空間で人が入力した情報をもとにサイバー空間で検索したり、サイバー空間のデータをダウンロードしてフィジカル空間で人が情報を分析する形だが、Society5.0ではセンサー情報が自動的にサイバー空間に吸い上げられ、AIの解析結果をもとにフィジカル空間の行動が制御される。これがサイバーとフィジカルの融合の仕組み。実現すれば、ものづくりの現場の例で言えば、的確な生産管理、熟練技術の継承等が可能となり、最終的にはエンドユーザーにもメリットが生まれてくる。

Society5.0のしくみ

Connected Industries~日本の産業が目指すべき姿~

 現在は、情報社会からSociety5.0への転換期(=第4次産業革命)であり、そこに導く産業のあり方が、あらゆるものがデータを介してつながるConnected Industriesである。Connected Industriesは2017年に公表されたコンセプトで、現在は5つの重点分野(自動走行・モビリティサービス、ものづくり・ロボティクス、バイオ・素材、プラント・インフラ、スマートライフ)ごとに策定されたアクションプランを実施しているところである。

デジタル経済で生じている変化

 デジタル経済の進展により、ビジネスモデル、セキュリティモデル、企業ガバナンスモデル、そして行政サービス等に変化が生じている。さらに、これらの変化に合わせ、規制モデルや国際ルール、求められる人材の変化に対応していく必要がある。また、これらの変化を加速させるのが技術開発である。

技術開発

 今後の情報処理のトレンドとして、エッジコンピューティングの対応、ポストムーア時代の情報処理技術、そして5Gが挙げられる。

1)エッジコンピューティングと次世代コンピューティングの技術開発

 これまではPCやスマートフォンを通じて大量のデータを収集し膨大なデータ処理するためクラウドコンピューティング市場が拡大してきたが、今後はPCやスマートフォン、さらにはロボットや自動車等のエッジ部分でAIを用いて情報処理を行うエッジコンピューティングの重要性も増してくる。
また、ムーアの法則の終焉に伴い、情報処理能力の伸びが緩やかになる一方で、AI等の登場でより大量データの高速・省エネ処理のニーズが拡大する中では、特定の計算ドメインに特化した高性能化の追求や従来技術の延長線上にない革新的な技術開発も求められる。

 これらに対応するため、超高速計算処理を可能とする次世代コンピューティング技術の開発や、省電力で自動走行等に必要なリアルタイム性を追求する革新的AIエッジコンピューティング技術の開発に予算が当てられている。AIチップの開発アイディアはベンチャー企業に多い。しかしながら、ビジネス化に向けた実現可能性の検証等には高額な装置等が必要となり、高いハードルとなっている。そのため、産業技術総合研究所や東京大学と連携したビジネス化へ向けた環境面・技術面でのサポートも予算化している。

2)5Gインフラシステムの信頼性確保
 5G(イメージムービー(総務省))は、モバイルだけでなく産業分野に対し大きく寄与するものである。一方で、フィジカル空間に組み込まれることで、サイバーアタックが物理的事故にまで直結リスクがあり、また、日々ソフトウェアがアップデートされるなど、5Gインフラのセキュリティリスクの検知は困難である。このため、5Gインフラの構築にあたっては信頼できるベンダーによるシステムの信頼性確保が重要と考えている。5G市場は今後大幅な伸びが見込まれるため、政府としても日本ベンダーの市場獲得支援のための予算を計上し、通信システム開発支援や半導体開発補助を行うとともに、令和3年度末まで全国・ローカルの5G事業者に対し税制優遇を行い、基地局の前倒し整備等企業の取組を後押しする。

変化への対応

1)ビジネスモデルの変化
 日本企業は、産業のリアルデータ(=Connected Industriesの対象領域)を豊富に有しており、これを活用したビジネス展開が日本企業の勝ち筋だと考えている。ただし、GAFA等の巨大IT企業においても、これまでの広告ビジネス中心モデルからサイバーデータと融合させるためのリアルデータ獲得施策を打ち出しており、今後、競争分野になると予想される。日本企業は企業間データ・システム連携するための共通技術仕様「アーキテクチャ」欠如という問題を抱えている。

 アーキテクチャとは、建築で言えば構造や設計工法など、建築の際の共通の取り決めや形式を指すもので、ツーバイフォー工法の箱型構造の基本単位(モジュール)等が該当する。システムでも基本仕様を固めモジュール化することで、効率化や品質の担保が可能となる。米国では、NIST(米国立標準技術研究所)が政府機関や民間からの求めに応じて、スマートグリッド、IoT、サイバーセキュリティ等のアーキテクチャ設計を行っている。また、ドイツ、インド等も同様の体制を取っているが、現状日本ではアーキテクチャを設計する専門的な組織が存在しない。このため、情報処理の促進に関する法律を改正し、情報処理推進機構(IPA)に産業アーキテクチャ・デザインセンター(仮称)を設置することとした。ここでは重要分野のアーキテクチャ設計や海外関連機関との連携、産業界との人材交流、民間部門が設計したアーキテクチャのレビューなどを行いながら、日本のアーキテクチャ設計力を高めていく。

 また、リアルデータを活用したビジネス展開を図るためには、データを効率的に大量収集し、そのデータを最先端のAI技術を用いて高付加価値なサービへと繋げていくことが必要となるが、現状では企業の自前主義・囲い込みによりデータが死蔵していたり、AIエンジニアを有するスタートアップとリアルデータを大量に保有する大企業が結びついていないという課題がある。これを解決するために、アーキテクチャを踏まえた協調領域におけるデータ共有プラットフォーム構築やAIシステム開発支援事業を行っている。

 プラットフォーマー型ビジネスは、社会に多大な便益を提供している一方、競争優位を背景に取引慣行の不透明・不公正を巡る問題が指摘されている。また、こうした問題が公正な競争を阻害する行為の原因ともなっている。この状態を放置すると、成長力の高いベンチャーが取り込まれてしまい、巨大プラットフォーマーのみがさらに拡大してしまうため、デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案(仮称)を通常国会に提出する予定である。これは、取引の環境における主な課題を取り上げるもので、公正な競争を阻害する行為、事後的な措置は独占禁止法で対応することとなる。


2)セキュリティモデルの変化
 サイバーセキュリティの脅威はサプライチェーンを通じた攻撃(水平的脅威)、そして情報システムを超えて制御システムに達する攻撃(垂直的脅威)にまで拡大している。Society5.0ではサイバー空間とフィジカル空間の融合により、これまで以上に柔軟かつ動的なサプライチェーン構成が可能となる一方、サイバー攻撃の起点の拡散、フィジカル空間への影響の増大といった新たなリスクへの対応が必要となってくる。このため、経済産業省では2019年にサイバー空間とフィジカル空間が融合する社会で求められるセキュリティ対策の全体像を「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク」(CPSF)として取りまとめた。CPSFでは産業社会を三層、サプライチェーンの構成要素を6つに整理し、それぞれの層ごとに守るべきもの、直面するリスク源、対応方針を示している。

 今後、サプライチェーン全体としてのセキュリティが求められる中、中小企業における対策未整備、問題意識欠如への対策も重要となってくる。しかし、現状では中小企業のニーズに合致するセキュリティサービスがなく、一方で継続的な公的支援もコスト面で課題がある。このため、令和元年度より全国8地域を対象に、セキュリティベンダーや損保会社等と連携した「サイバーセキュリティお助け隊」により中小企業の実態やニーズ把握、事前対策の意識喚起を図るとともに、中小企業のセキュリティ対策支援の仕組み構築へ向けた実証を行っている。

中小企業のセキュリティ対策の実態

3)企業のガバナンスモデルの変化
 ビジネスモデルが変化する中で、企業もデジタル経営が求められるが、現状、日本企業の8割が抱えるレガシーシステムがデジタルトランスフォーメーション(DX)阻害の要因となっている。基幹システム刷新には現場の抵抗等も想定されるが、これを放置すると2025年度以降最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性がある。このため、経営者のデジタル化推進インセンティブとしてデジタルガバナンスコード(評価基準)の策定と、それに基づいた企業の取組状況認定制度(DX格付(仮称))によりすべての企業がデジタル企業化を支援し、2025年の壁を越えGDP押し上げる力にまでつなげていく。また、市場評価につながる取組も検討しており、システム維持・管理に費やしている割合を引き下げ、攻めのIT投資割合の引き上げにつながることを期待している。

民間のDXの推進

4)行政サービスの変化(行政DXの推進)
 日本の行政では、電子政府と言いつつも多くがPDF化に留まっているためデータ活用が困難で、政策とも結びつけられず社会に共有されていないのが現状である。これを変化させるためには、組織としてデータ利活用する環境・文化の構築が鍵となる。
具体的には、まずはデジタルファースト、ワンスオンリーにより官民双方の手続き効率化・利便性向上を図り、次に入手したデータからニーズを把握しプッシュ型支援を行うことで行政サービスの質を向上させる。最終的には、民間サービスと行政サービスが融合し、AIにより審査承認を自動化する「ノンストップ・ガバメント」を目指す。その基盤として、現在すでにGビズID(法人認証共通基盤)を利用した補助金申請の行政手続き(Jグランツ)等がリリースされており、このGビズID(法人認証共通基盤)を他業務、他省庁にも広げていく計画である。

DXの基盤となる法人デジタルプラットフォームの実現

5)規制モデルの変化
 デジタル経済が進展する一方で、規制が追い付かずに発生してしまっているガバナンスギャップに対応するためには、デジタル規制改革が必要となる。2019年に開催されたG20において、日本から提案した「ガバナンス・イノベーション」というコンセプトは世界各国と合意された。これに基づき、長期的に省庁横断で新たなガバナンスモデルの構築に取り組んでいく。

ガバナンス・ギャップの拡大

6)国際ルールの変化
 2019年のダボス会議で、日本は”Data Free Flow with Trust“を提唱した。自由で開かれたデータ流通のためにはトラストが必要である。昨年のG20では米中摩擦、米欧相互不信、先進国・途上国対立の
「3つの対立」がある中、「Data Free Flow with Trust(DFFT)」や「ガバナンス・イノベーション」の重要性を20か国合意の大阪首脳宣言・閣僚声明に盛り込んだ。「ガバナンス・イノベーション」はOECDにおいても、本格的な議論が始まっており、政府としては、国際的な議論に積極的に参画していく。


7)求められる人材の変化
 IPAが実施している未踏IT人材の育成では、ユニークで突き抜けた才能を持ちITを駆使して社会にイノベーションを起こす若手IT人材として、西川徹氏、落合陽一氏等現在活躍している若手を輩出している。また、様々な変化に対応したセキュリティ戦略立案を担う人材の育成も急務である。IPA産業サイバーセキュリティセンターでは、2017年よりIT系・制御系に精通した専門人材の育成を開始している。
 中小企業に関しては、AI活用が進まない原因として、実践的スキルを持つ人材の不足が挙げられる。例えば、過去のエラーデータの蓄積がない中小企業でも、外観検査に画像分析AIを活用することで正解データのみのインプットでも高い検知精度を得ることができ、生産性が向上する。このため、フランス42のようなAI人材育成事例等をモデルにしながら、実践的な学びの場の提供やAI人材連携を進めていく。


 以上のような施策を通じて、変化に対応しながらSociety5.0実現後の社会・経済の体制作りを行っていきたいと考えている。

2020年1月23日第91回JIPDECセミナー講演より

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