一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)

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情報ライブラリー

1.調査研究の視点

 IoT(Internet of things:モノのインターネット)でセンサー等の機器から得られたデータがインターネットを通じて繋がることで、情報到達コストが圧縮され、モノ作り、交通、医療、農業など、様々な分野でイノベーションが創出されることが期待されている。
 様々なセンサー機器のうち、社会環境1に組み込まれているカメラに着目すると、アナログカメラ(52万画素未満)、AHDカメラ(130万画素以上)、HD-SDIカメラ(223万画素以上)等の普及が進んでいる。また、それらの高機能化(解像度の向上、保存容量の拡大など)が進んだことから、これまで主な目的であった防犯・監視等以外に、マーケティングや街づくりなど様々な用途で利用する動きが顕著になってきている。
 例えば、流通業では、食品ロス2の削減にカメラを活用して取得したデータを活用できないか検討されている。環境省が公表した「我が国の食品廃棄物等及び食品ロスの発生量の推計値(平成28年度)3」によれば、平成28年度の食品ロスは643万トンであったと推計される。具体的な食品ロスの削減の取組として、これまでは納品時のデータ、販売時点のデータ(POSデータ)によって、在庫調整を図ってきた。これらの取組に加えて、カメラから取得したデータ(例えば、商品の取扱いの傾向として、いつ、どんな人が手にとったのか、棚に戻したのか、買い物かごに入れたのかなど)と合わせて分析することで、適正な販売への活用ができないか等を模索している。


1 公共空間(公道、公共施設など)、準公共空間(駅構内など)、特定空間(ビル、店舗など)
2 賞味期限が迫った総菜や弁当等、本来食べられるにも関わらず、売れ残りとして廃棄されてしまうもの
3 https://www.env.go.jp/press/106665.html


図表1 事業者が検討しているもの(流通業)

図表1 事業者が検討しているもの(流通業)



 また、広告業においては、街中に設置しているデジタルビジョンの広告料について、年間を通じて定額で提供するのが一般的であるが、デジタルビジョンが通行者の視界に入るところに設置したカメラにより取得した人の流れ(どの時間帯にどんな人が通行しているかなど)と天気等と合わせて分析することで、通行者へのリーチを定量的に判断(この時期・時間帯は20代の女性が多く通行する傾向にあるなど)し、広告枠の金額を動的に変えることができないか等を模索している。

図表2 事業者が検討しているもの(広告業)

図表2 事業者が検討しているもの(広告業)



 このように、センサー等の機器の発達によって、取得するデータや、事業者等が検討している利用用途にも変化がみられる。特にカメラの場合は、目の前にある被写体(現実世界)をありのまま映し出すものであり、その映像から様々な分析が可能となるため、防犯・監視等の目的以外においても、事業者による利活用の期待が高まっている。
 制度上の観点からみると、我が国における防犯以外の目的におけるカメラの活用については、その活用自体を禁止する制度はなく、まずは必要条件として、関連する法律(個人情報保護法など)を遵守することが求められると考えられる。
 一方で、生活者にとっては、法律を遵守するだけでは不十分で、例えば、生活者のプライバシー侵害や、生活者が望まない形でデータが利用されるのではないかといった漠然とした不安等、事業者によるデータ利用への不安が発生しているとの指摘もある。
 こうした状況を受け、IoT推進コンソーシアム カメラ画像利活用サブワーキンググループでは、「防犯以外の目的でカメラ画像を利活用するにあたって、事業者が生活者等に対して配慮すべき事項」について、個人情報保護法により守られる範囲のみならず、生活者のプライバシー保護等の観点で考慮すべき範囲を加えて、2017年1月に「カメラ画像利活用ガイドブック」(以降、本ガイドブックという)として公開した(2018年3月にver2.0として改訂)。公開後、本ガイドブックを参考にして、防犯以外の目的等でのカメラ画像の利活用を始めた事例が複数出始めてきた。
 そこで、本ガイドブック公表の前後で、防犯目的以外のカメラ画像利活用について、生活者とのコミュニケーション等がどのように変化したか等について、具体的な事例を基に調査するとともに、海外の事例や制度についても調査した。

2.調査研究の対象

 本調査では、本ガイドブックの公表前後の事業者の動きや、カメラ画像利活用に関するルール整備の状況等を比較するとともに、今後のカメラ画像利活用について、どのような環境整備が求められるか等について整理する。
 なお、カメラの活用方法としては、本ガイドブックver1.0の範囲である「生活者に対して通知を行った上でカメラで撮影し、取得したカメラ画像から属性情報(年齢・性別等の推定)や動線を抽出(抽出後は速やかに画像を削除)し、統計データ等として活用するケース」を対象とする。

図表3 調査対象(下図の赤線部分の利用)

図表3 調査対象(下図の赤線部分の利用)

●本ガイドブックが公表される前の主な動き
 本ガイドブックが公表される2017年1月以前においては、防犯以外の目的での活用について、下表のとおり様々なニーズがあったと同時に、カメラ画像の取得、加工、利用等について、関連法制度等の観点から、具体的な対応方法等が分からないため、実際の取組には至らないこともあった。

図表4 カメラ画像利活用のニーズと課題の例

図表4 カメラ画像利活用のニーズと課題の例

 そのような状況における具体的な事例のひとつとして、2014年3月に独立行政法人情報通信機構(NICT)が大阪ステーションシティにおいて、92台のカメラを設置し、同所を通行する生活者を撮影し、災害発生時等の安全対策への実用に資する人流統計情報の作成が可能であるか否かを検証する計画を進めていた。それに伴い、本実証を実施する旨を予告したところ、個人情報やプライバシー保護に関する懸念の表明を受けて、実証実験の延期を決定するとともに、取組の改善方法として「映像センサー使用大規模実証実験検討委員会」を設置し、民法及び独立行政法人等個人情報保護法の観点から検討を行い、2014年10月に調査報告書としてまとめられた4。この中では、本実証自体が直ちに違法性があるとは必ずしも言えないとするとともに、市民に与える不安感を軽減したりするために必要な措置として、以下に示した7つの項目を提案している。これを踏まえて、一般利用者が入れないエリアに限って、文書による明示的な同意を得た人のみを対象として、同年11月に実証実験を再開すると報じられた。

① 実験⼿順や実施状況等を定期的に確認し、公表すること
② 個人識別のリスクを市民に対して事前に説明すること
③ 撮影を回避する手段を設けること
④ 映像センサーの存在と稼働の有無を利用者に一目瞭然にすること
⑤ 人流統計情報の提供に関しては委託契約又は共同研究契約を締結すること
⑥ 安全管理措置を徹底すること
⑦ 本実証実験に関して、適切な広報を行うこと

 上記で示した本調査報告書は、カメラ画像の利活用にあたって実施者が講じるべき措置として、個人情報保護の観点のみならず、生活者のプライバシー保護の観点を取り入れるなど、法を遵守するとともに、生活者側の視点(法の外側にあるが、重要であると考えられるもの)に重きを置いているのが特徴であり、この考え方は、後に公表される本ガイドブックにも大きな影響を与えている。
 海外に目を向けると、英国においては、カメラの事例ではないが、Renew Londonがロンドン市街地周辺で、デジタル広告版を兼ねたリサイクルボックス「bin」を約100個運営しており、そのうち12個に通行者が保有するスマートフォンのMACアドレスを追跡する装置が内蔵されていた5。しかし、サービス開始後、市民からMACアドレスを勝手に検知・収集することはプライバシー侵害にあたると批判を受け、Renew Londonはオプトアウト手段の提供等を講じるも、対策としては不十分であるとして、2013年にロンドン市が情報収集を中止するよう通達し、その後サービスは終了している。このことは、MACアドレス単体であっても個人情報と同等の扱いが求められる英国において、市民に黙って収集していたことにより反発が起きた出来事であり、プライバシー保護が重要視されていることが確認できる。
 制度上の動きでは、民間を含めた全般を対象として、2000年にICO6がCCTV行動規範を策定・公表している(法的拘束力はなく、あくまでGood Practice)。また、2017年にSCC7からは、「監視カメラによる国家戦略」が公表され、公共空間における監視カメラ利用に関し、正当な目的を追求するための利用であり、差し迫った必要性に適合するために必要で、その手段が目的に対して釣り合っていて、有効かつ関連する法的義務を遵守している場合においては、政府はその利用を支持すると明言されている。
 米国では2012年にFTC8(連邦取引委員会)がスタッフレポートとして、“Facing Facts:Best Practices for Common Uses of Facial Recognition Technologies”9を発行している。この中では、顔認識技術を商用目的で用いる企業に対して、プライバシー・バイ・デザイン等に基づくサービス設計を行うことや、匿名の映像から生活者を特定するために顔認識技術を使用する場合は、生活者から事前に同意を取ることを勧告しているなど、英国と同様にプライバシー保護を重要視していることが読み取れる。
 以上のとおり、当時のカメラの活用については、防災や街づくり等へ資するものとして期待が高まっていたが、活用にあたってのルール等の整備が追いついていなかった。ルール検討の方向性としては、カメラの活用について、全面的に推奨するものでも禁止するものでもないが、野放図に実施されると生活者にとって様々な不利益を被る恐れがあるので、利活用するのであれば、個人情報やプライバシー保護等の観点から、いくつかの配慮事項等を設定し、その範囲において実施することが望ましいとするガイドやレポート等が複数リリースされたが、これらのガイド等を遵守して実施している事例は限定的であった。


4 https://www.nict.go.jp/nrh/iinkai/report.pdf
5 https://www.theverge.com/2013/8/12/4614074/city-of-london-orders-renew-stop-tracking-citizenswith-trash-cans
6 Information Commissioner Office:英国の情報保護機関である情報保護コミッショナー事務局
7 Surveillance Camera. Commissioner:英国の監視カメラに関する監督機関
8 Federal Trade Commission:アメリカ合衆国における公正な取引を監督・監視する連邦政府の機関
9 https://www.ftc.gov/sites/default/files/documents/reports/facing-facts-best-practices-common-uses-facial-recognition-technologies/121022facialtechrpt.pdf

● 本ガイドブックが公表された後の主な動き
 本ガイドブックが公表された2017年1月以降では、防犯目的以外でのカメラ画像の利活用について、我が国においては、本ガイドブックを参考にして実施した事例がいくつか出始めている。そのうち、2つの事例について以下に記載する。

1.来店者の行動分析の事例
 神奈川県横浜市にあるファミリーマート佐江戸店では、IoTを活用した次世代型コンビニエンスストアの実現に向けた実証実験店舗として、カメラ・センサーを80台以上設置し、顔認証決済(無人レジ)による新しい買い物体験を提供するとともに、映像データからお客様の接客時間、通行経路/滞留、年齢層・性別(推定)、人数カウント等から、来店客の行動を分析(どの経路を通ったか、滞留している場所はどこかなど)し、最適なレイアウト変更や品揃えの改善等に役立てる検証を行っている。この取組は、2019年4月から開始し、2019年5月現在も実施中である。10
 なお、個人を特定する情報は分析に用いておらず(利活用に必要となるデータを生成または抽出等した後、映像は破棄)、現地(店頭)にて、カメラで撮影している旨および撮影目的、取得データの内容、利用範囲などを通知している。

2.来街者の通行状況計測の事例
 六本木商店街では、六本木交差点付近に4台のカメラを設置し、来街者の人数、移動方向、属性(性別や年齢層の推定)などを取得することで来街者の通行状況を分析し、商店街の活性化施策の検討に役立てている。
 なお、個人を特定する情報は分析に用いておらず(利活用に必要となるデータを生成または抽出等した後、映像は破棄)、現地及びホームページ等で、カメラで撮影している旨および撮影目的、取得データの内容、利用範囲などを通知している。また、この取組の特徴として、カメラ画像利活用ガイドブックに則り、プライバシー等に配慮した六本木商店街振興組合向けのガイドラインを作成し、それに基づいて実施していることが挙げられる。

図表5 ホームページによる通知11


10 https://news.panasonic.com/jp/press/data/2019/04/jn190402-2/jn190402-2.html
11 http://ractive-roppongi.com/sokutei/

3.考察

 防犯以外の目的でのカメラの活用について、本ガイドブック公表前は、事業者によるニーズがあったものの、生活者から不当なプライバシー侵害に該当するので、防犯以外の目的においては、その活用は許容されない等の理由から批判を受けて、延期・中止するケースが見受けられた。2015年に綜合警備保障株式会社(ALSOK)が500人の生活者に行った『防犯カメラに関する意識調査』12によれば、半数以上の人が「もっと防犯カメラを設置したほうが良い」と回答した一方で、防犯カメラが設置されていることを不快だと感じる人も約15%に上り、その理由として、61.8%の人が「監視されているように感じるから」、36.8%の人が「プライバシーを侵害されていると感じるから」と回答している。社会的に認知・受容されつつある防犯目的での活用においてもプライバシー侵害の不安を感じている人は少なくないため、ビジネス等の目的で使う場合は、より一層の配慮が求められるが、当時はルール等の整備が追いついてなかったこともあり、生活者にとっては、事業者の対応が不十分であると感じられたのではないか。
 その後、本ガイドブックが公表され、本ガイドブックに基づいて実施することで、社会から大きな批判を受けることなく進められている事例が、少しずつではあるが創出し始めてきている。防犯以外の目的でのカメラ画像の利活用が進んできた要因については、様々あると思われるが、理由のひとつとして、「事業者による、生活者への通知の重要性の理解が浸透し、生活者へ十分な説明を行うなど具体的な対応に繋がってきている」ことが挙げられるのではないか。生活者への通知とは、カメラによる撮影・利活用を開始する際の案内と周知のことであり、個人情報保護法(第15条及び第18条)においても、「利用目的をできる限り特定し、あらかじめ公表しておくか、個人情報を取得する際に本人に通知すること」が定められており、防犯カメラでは不要とされてきた通知もしくは公表について、防犯以外の目的においては必要であることが、事業者にも認知されてきたといえる。
 本ガイドブックでは、事前告知と通知を実施することを求めるとともに、生活者へのプライバシー等の配慮の観点から、具体的に周知する内容・方法等を示している。本ガイドブックを参考にし、生活者とのコミュニケーション等を通じて、必要に応じて改善しながら進めていくことが、有効なアプローチのひとつではないか。

(参考)防犯カメラでは通知は不要?
 個人情報保護法においては、防犯目的が自明である場合は、例外として通知・公表は不要であるとされてきたが、これまでに述べたとおり、社会環境に設置されたカメラは、防犯以外にも、ビジネスや安心安全など多様な目的での利活用が進んでいることから、カメラの設置自体には、防犯目的が自明ではなくなりつつあること、また、防犯カメラの使い方について、当初は事故や事件等があった際に、当時がどのような状況であったか等を後から映像として確認する手段として用いられてきたが、近年は、万引き等の怪しい動き等を検知し、リアルタイムに監視するなどの利用も検討されている。このように、カメラの多様な用途での利活用、及び防犯カメラとしての使い方の変化等を鑑みて、防犯目的においても、通知を行うことが望ましいと考える。
 また、『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』及び『個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について』に関するQ&A」(個人情報保護委員会)のQ1-11において、「防犯カメラが作動中であることを店舗の入口に掲示する等、本人に対して自身の個人情報が防犯目的のために取得されていることを認識させるための措置を講ずることが望ましいと考えられます」とされている。

 本ガイドブックを参考にしてカメラ画像を利活用するにあたり、これまでの具体的な事例等も踏まえて、特に重要と思われる観点について、以下の3点に整理した。

1.欲しいデータの取得について、本当にカメラが必要なのか等を検討すること  

✓ 例えば、特定エリアの通過者数のみを把握する等であれば、カメラを用いずとも、通行者のカウントのみを行う赤外線センサー等を活用すれば、個人情報の取得にはあたらないので、生活者への配慮の観点からは導入が進みやすいのではないか。但し、このようなケースにおいても、生活者とのコミュニケーション等の観点から、センサー設置に関する通知(利用目的、取得データなど)を行うことが望ましいと考えられる。

2.実施概要について丁寧に説明し、生活者の理解を得るように努めること  

✓ 本ガイドブックに記載の配慮事項を参考にして、事例毎に必要な対応を行うとともに、生活者へ実施内容等について丁寧に説明を行い、理解してもらうことを諦めないことが重要である。そのためには、最初から利用目的を広げすぎず、目的を絞り、その範囲で必要なデータのみを取得するようにしたり、全国規模で店舗等を展開している場合、まずは1店舗から試験的に実施し、生活者からの意見を汲み取り必要に応じて改善に努めるなど、段階を踏んで実施することも有効な手段のひとつであると考えられる。

3.本ガイドブックに記載の配慮事項については、実際の使い方等に合わせて検討・作成すること 

✓ 本ガイドブックでは、配慮事項として基本原則とともに、利活用の過程(事前告知時、取得時、取扱い時、管理時)毎に、具体例として、通知文やイラスト等のサンプルを示しているが、全ての活用ケースに対応できるものではないので、文面やイラストをそのままコピーして利用するのではなく、これらのサンプルを参考にして、実際の使い方等に合わせて検討・作成することが重要である。

 以上、カメラ画像を利活用するにあたって、特に重要と思われる事項について述べたが、本ガイドブックは法的に求められる位置づけではない(事業者に対してその対応を強制するものではない)ため、これを行ったからといって、同意とみなせるガイドではない。そのため、本ガイドブックにおける配慮事項に基づく対応を実施し、生活者からの一定の理解を得た場合であっても、カメラ画像の取得や利活用に対して、全ての生活者の同意や理解を得ることは困難であるし、カメラ画像の利活用に伴う各種の批判や訴訟のリスクを完全に排除することも不可能である。
 むしろ、カメラを含む様々な機器等によって人々の動き等を解析し、多くの分野で活用されていく流れの中で、「カメラ等のセンサーの取得状況からみて、利用目的やプライバシー等にも配慮していることが明らかであり、それによって地域社会や国民の理解、賛同が得られる社会を醸成できるかどうか」が重要であり、そのために国や事業者等が今後取組むべきことは何かを考えていくことが求められるのではないか。


12 https://www.alsok.co.jp/security_info/enquete/10.html

4.参考文献

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